見出し画像

「Duplex」Noism0『残影の庭―Traces Garden』/ Noism1『Das Zimmer(ダス ツィマー)』:雅楽の調べに空間と空気が動くダンス

Noismを主宰する金森穣氏が演出振付、同氏と井関佐和子氏、山田勇気氏というベテランダンサーから成る「Noism0」が出演の作品『残影の庭―Traces Garden』と、森優貴氏が演出振付、Noism1が踊る『Das Zimmer(ダス ツィマー)』のダブルビル。

『Das Zimmer』演出振付:森優貴

『Das Zimmer』は、ピアノの曲に乗せた、ヨーロッパを思わせる作風。服装が19世紀くらいの西洋を思わせる?服や照明がセピア色っぽいせいもあり、どことなく第1次世界大戦くらいの時代背景を思い浮かべた。

しかしストーリーがあるわけではおそらくなく、舞台セットも少なく、1人1脚ずつ椅子があり、座ったり椅子を動かしたり。群舞とソロまたはデュオの対比という構成が多く使われていた。

流れるような大きい動きが中心だが、特徴的なのは女性ダンサーによる片手の震えるような、痙攣的な動き。何かに打たれたかのように、はっと気付いたように目覚めさせられたように始まり、そこから大きく動き始める。

群舞の人々が行き詰まり、息苦しさを感じているところに、そこから飛び出した女性ダンサーが自由を希求している、というような印象を受けた。

きれいでそつはない感じだが、ものすごく強く心打たれるというのとは違うかもしれない。

『残影の庭―Traces Garden』演出振付:金森穣

『残影の庭―Traces Garden』は、邦楽とコンテンポラリーダンスという、一見、斬新さを狙ったような演出だが、両者がなじんでいて違和感はあまりない。下手な気負いもない。(でも悩みぬかれて創作されたのだろうが)

忍者のような黒い装束の卓越したダンサーたち、金森穣氏、井関佐和子氏、山田勇気氏が現れ、ゆっくりと同じ動きをしていく。女性1人、男性2人だが、むき出しの上腕の筋肉の付き方に(遠目だが)そんなに大きな差がないように見える。

上から透けている赤い衣が下りてきて、男性2人に触れられている井関氏の体に着せかけられる。そこから3人がばらばらになったり、2人になったり。男性も着物風の薄い衣を着ける。

最後に再び井関氏の体から赤い衣が、上から降りてきた器具によって静かに剥ぎ取られていく。

照明も非常に美しい。光も芸術となって、舞台空間に作品の世界観を作っていく。変化や感情が、光のさまざまな色合いや強弱の違いからゆったりと迫ってくる。

あのダンスの間、どこに飛んでいたのだろうか?いつもより座席数を減らしていると見える小ホールで、マスクを着けた人々の中に座って、しばしウイルスと日々の緊張を忘れる。昔の禅寺に旅してきたかのよう。

ダンスの妙技を見るようでもあった。踊りは、もちろん高度なテクニックもものを言うわけだが、ふっとした「ため」、空気と一体になる感じ、ダンサー同士で合わせる呼吸、ちょっとしたところで、感じ入ってしまうダンスが生まれる。

子どものとき、油彩画を習っていて、画家である先生が、私が描いた絵に最後に本当に一筆、二筆加えるだけで、絵に見違えるような輝きが生まれたのを目の当たりにしたのだが、まさに神・美は細部に宿るのか?

やはり日常を離れて、別空間に飛んでいったり身体に立ち返ったりする時間は必要だ。

公演・作品情報

『Duplex』 Noism0 / Noism1

『残影の庭―Traces Garden』
演出振付:金森穣
音楽:武満徹《秋庭歌一具》より
衣裳:堂本教子
木工美術:近藤正樹
映像:遠藤龍
出演:金森穣、井関佐和子、山田勇気(Noism0)
初演:ロームシアター京都「シリーズ 舞台芸術としての伝統芸能 Vol.4雅楽」(2021年1月10日ロームシアター京都)
※武満徹《秋庭歌一具》は、第1曲「参音聲」、第2曲「吹渡」、第3曲「塩梅」、第4曲「秋庭歌」、第5曲「吹渡二段」、第6曲「退出音聲」の全6曲からなる、古代ぎりさの頌歌にならって構成された雅楽の作品である。本公演では、雅楽演奏団体・伶楽舎の演奏による録音で、第4曲「秋庭歌」以外の5曲を使用している。

『Das Zimmer』(ダス ツィマー)
演出振付:森優貴
音楽:S.ラフマニノフ、F.ショパン
衣裳:鷲尾華子
出演:Noism1

【新潟公演】
2021.1.22(金)- 2.11(木・祝)
りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館〈スタジオB〉

【埼玉公演】
2021.2.25(木)- 28(日)
彩の国 さいたま芸術劇場〈小ホール〉


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?