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ハンブルク・バレエ団『幻想~「白鳥の湖」のように』ジョン・ノイマイヤー振付

ジョン・ノイマイヤー振付のハンブルク・バレエ団『幻想~「白鳥の湖」のように』(Illusions ― like Swan Lake)の公演映像が期間限定で配信された。約2時間25分。1976年初演、2001年収録。

チャイコフスキー作曲、マリウス・プティパ振付のクラシックバレエ『白鳥の湖』を脚色したダンス作品。

チャイコフスキーの世界的に有名な音楽をそのまま使い、プティパによる白鳥の踊りも一部をそのまま取り込みつつ、19世紀ドイツの「バイエルン王」、政治をそっちのけにして芸術に入れ込んだことから「狂王」とも呼ばれたルートヴィヒ2世を主人公の「王子」として設定し、新解釈を施している。

オリジナルの『白鳥の湖』の壮大なシーンも含みつつ、それにまったく劣らない新たな振付が加わった、非常に贅沢な傑作となっている。

チャイコフスキーの、聞いていると否応なく気分が高揚する曲に、民衆たちのけんかの場面がしっくりなじむという、驚くべきセンス。本作に見えるノイマイヤーの力量はすさまじい。

ルートヴィヒはてっきり親友らしき青年に恋をするゲイ(同性愛者)という設定なのかと最初は思ってしまった。女性である婚約者に冷たくして、その親友とはうれしげにじゃれ合っているので。でも、親友にも女性の恋人がいるから、嫉妬しているのかと思っていた。マシュー・ボーンの『白鳥の湖~スワン・レイク~』のイメージに影響されてしまったせいか?(笑)

しかも、ルートヴィヒは母親と仲が悪そうで、女嫌いなのか?と思ったり。母親のパートナーらしき男性は、ルートヴィヒの父親っぽくはあまり見えないが、母親の再婚相手とかなのか??

冒頭のシーンでは、ルートヴィヒが城に捕らわれの身となり、その後、思い出の場面に飛ぶ、と思ったが、思い出ですらなく、すべて幻想?

城のような舞台のような模型が重大なモチーフとなっている。ノイシュヴァンシュタイン城で知られる、史実のルートヴィヒを意識した演出だろう。

その模型の舞台に現れるようにして、悪魔ロットバルトによって白鳥に変えられてしまった若く美しい女性、オデットが登場。王子が芝居を見ているような劇中劇のごとく、これもルートヴィヒの「幻想」なのか、オリジナルの『白鳥の湖』の有名な踊りが披露される。白鳥が勢ぞろい。それはそれは力強く美しい!ダンサーたちのスタイルもテクニックも完璧だ。

ルートヴィヒが「王子」になり替わって幻想の中に入り込み、「白鳥」のオデットと踊る。それを目撃したルートヴィヒの婚約者がショックを受ける。

そして最後に、仮面舞踏会のような場面。華やかなパーティーで、踊りが繰り広げられる。ルートヴィヒも楽しげに踊るが、踊りの相手は、あの「白鳥」と見せ掛けた、実は婚約者!

オリジナルの『白鳥の湖』では、ロットバルトの差し金で「黒鳥」のオディールがオデットに変装し、だまされた王子と踊るが、本作では、婚約者がこの黒鳥の役割を果たしているらしい。

このパ・ド・ドゥでの2人のダンサーのテクニックも、笑えるほど完璧!超人的ですらあり、爽快感を覚えるほど。

ルートヴィヒがこのままだまされ続けていれば、偽物かもしれないが幸福だったのかもしれず、婚約者もとても幸せそうに見えた、しかし・・・。

本作で重要な役回りを演じる、全身黒ずくめの男性。彼は「The Shadow」(影)で、ルートヴィヒに付きまとい、おそらく彼自身でもある、現実を突き付ける「裏」の存在なのかもしれない。最初から、ルートヴィヒにしか見えない形で登場し、ロットバルトの正体も、最後の仮面舞踏会で道化を演じていたのも、この「影」だったのだ。

ラストで、「影」が姿を現し、ルートヴィヒはわれに返り、一緒に踊っていた婚約者をはねつけ、拒否する。ルートヴィヒは影と2人で踊り、舞台に布が落ちてきて、影がルートヴィヒを抱きかかえ、捕らえてしまったようだ。

最初から最後まで魅了され続ける大作。ダンサーたちも舞台美術も、すべてが豪華。生の舞台で見られたら、素晴らしいだろうなあ。

それにしても、主役は出ずっぱり。貴公子としての気品と、端正な顔と、抜群のスタイルと、病的な憂いと、正確無比なテクニックと、強靭な体力と、豊かな演技力がどれも備わっていないとできない役だ。すごい。

作品情報

Ballet by John Neumeier
Illusions – like Swan Lake
John Neumeier's ballet "Illusions – like Swan Lake" was premiered in 1976. The character of the king, its central figure, is based on King Ludwig II of Bavaria as well as Pyotr Ilyich Tchaikovsky, the ballet's composer.

Music: Peter I. Tchaikovsky
Choreography and Staging: John Neumeier
Choreography "Second Remembrance" after Lev Ivanov, reconstruction with the collaboration of Alexandra Danilova
Choreography of the Grand Pas de deux in the "Third Remembrance" after Marius Petipa and Lev Ivanov
Set and Costumes: Jürgen Rose

2 hours 50 minutes | 1 intermission
Part 1: 80 minutes, Part 2: 55 minutes

PREMIERE:
The Hamburg Ballet, Hamburg, May 2, 1976

ORIGINAL CAST:
The King: Max Midinet
Princess Natalia: Persephone Samaropoulo
The Man in the Shadow: Fred Howald
Odette: Magali Messac
Princess Claire: Marianne Kruuse
Count Alexander: Truman Finney
Prince Siegfried: Eugen Ivanics
The Queen Mother: Beatrice Cordua
Prince Leopold: Victor Hughes

ON TOUR:
1978 Munich 2000 Paris 1994 Nagoya, Osaka, Tokyo, Yokohama

IN THE REPERTORY:
Bavarian State Ballet
Dresden Semperoper Ballet

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The ballet will be available as video on demand from May 16 until May 18 (4.30 pm)

Ballet by John Neumeier
Music: Peter I. Tchaikovsky
Choreography and Staging: John Neumeier
Choreography ("Second Remembrance"): after Lev Ivanov, reconstruction with the collaboration of Alexandra Danilova
Choreography (Grand Pas de deux in the "Third Remembrance"): after Marius Petipa and Lev Ivanov
Set and Costumes: Jürgen Rose

IN THE MAIN ROLES
The King: Jirí Bubenícek
Princess Natalia: Elizabeth Loscavio
Odette: Anna Polikarpova
The Man in the Shadow: Carsten Jung
Princess Claire: Silvia Azzoni
Count Alexander: Alexandre Riabko

Conductor: Vello Pähn
Orchestra: Philharmonic State Orchestra

Video Recording 2001, from the Hamburg State Opera (Running time: 171 min.) | DVD: BelAir Classiques



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