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トランジションは多層的。

2021年9月に「自分をいかす仕事に出会うトランジションコミュニティ」と銘打ってグリーンズジョブをリリースしてから1年が経った。

ウィリアム・ブリッジズが提唱する「トランジション理論」を引用しながらリニューアルした事業。「トランジション」とは以下のようなものだ。

古い状況から抜け出し、過渡期のどっちつかずの混乱を経験し、それから新しい状況に向かってふたたび前進しはじめるという、とても困難なプロセス

どんなトランジションも(1)終わり(2)ニュートラルゾーン(3)新たな始まりから成っている。

人生を振り返れば、誰もが1回は経験したことがある段階だと思う。

「グリーンズジョブ」という事業名からは「仕事」の意味合いを強く感じられるかもしれないが、僕らが扱いたいのは仕事だけではなく、暮らしや生き方そのもののトランジションだ。

社会が成熟するにつれて「仕事と暮らし」の境界は曖昧なものになっているし、多様なキャリアの選択肢がとれる時代においては「どんな仕事をしたいのか?」という問いよりも「どんな生き方をしたいのか?」という問いのほうが、その人の可能性を広げると思っているからだ。

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かく言う自分も、トランジションという観点でこの1年を振り返ると、いくつかの段階を経てきていると思う。

まず、暮らしについて。2021年5月に東京から熊本県南阿蘇村に移住したので、丸1年をカルデラの中で暮らしたことになる。大都会からの田舎移住ということで「新たな始まり」を家族で味わった1年間だった。妻は育休中の期間をいかし、近所の畑で50品目くらいの野菜を育てた。農家なんじゃないかと思うくらいの目覚ましい進化だ。僕も発酵食品づくりのために大豆畑を頑張ったが、秋には鹿に全部喰われてゼロ収穫。夢が叶ったり、叶わなかったりといろいろ経験したが、家族との過ごし方は都会暮らしの頃からガラッと変わったことは間違いない。

一方、自分の中で湧いてきていることもある。この1年は、2人の子供を育てながらのリモートワークで手一杯で、地域に関わるようなことはほとんどできていない。「ただ住んでいる住民のひとり」としての物足りなさも感じてきている。来年には南阿蘇村というひとつのコミュニティに、なにかしら関われるようなことを始めたいと思っている。これもまた「新たな始まり」かもしれない。

次に、仕事について。2021年4月からNPO法人グリーンズの共同代表になったので、今年は丸1年を「代表」として過ごしたことになる。肩書き上は「新たな始まり」だったかもしれないが、実態は「ニュートラルゾーン」だったように思う。「代表とはなんだろう」「僕は役割を果たせているのか」といった問いが、ずーっと頭の片隅に居座っているような感覚。いまだ明確な答えや、自信を持てていないことからも過渡期の最中にいるのだと思う。

しかし、来春には創業メンバーがグリーンズの現場から卒業することが決まり「自分、いまニュートラルです」とか言ってられない状況になりつつある。16年間、多くの人の人生に作用してきたWEBマガジンを運営する組織を「2代目」として継いでいく。自らの試行錯誤によって、この機会を「新たな始まり」にしていきたいと思っている。

最後に、自分自身の価値観について。この1年間、コーチングを受けたり、自分自身もコーチングを学ぶことによって、内面に向き合う機会が増えた。その結果、自分の無意識の中に醸成された「こだわり」や「世界を見る目」について考えざるを得なくなった。これは話すと長くなるが、ひとつ例を挙げれば「優秀な何者かに成らなければいけない」という考え。これは僕と親との関係や、中高で進学校に通ったことでかなり根深いところに染み付いたものだ。これは悪いことばかりではなく、人生の中で収穫を得てきたことも多いのだが、30代半ばにもなるとやはりどこか自分の人生を狭めてしまっている感覚がある。

この感覚に自覚的になったことで少しずつ自分の考えや行動も変わってきているとは思うが、まだまだ「終わり」の最中にいると思う。味わいながら、次にどんな始まりが現れるのか、楽しみにしたい。

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書き始めたら自分語りが長くなってしまったが、何を言いたかったと言うと「トランジションは多層的」だよね、ということだ。

生きてればなんらかのトランジションの最中にいると思う。

仕事、暮らし、自分自身の価値観。それぞれのレイヤーで常に何らかのトランジションの最中にいて、またそれらが作用しながら、人生を1年ずつ重ねていく。

「いま、自分は何のトランジションの最中にいるのだろうか?」という問いは、不安の多い社会においても自分の足元をほんの少し照らしてくれる言葉だと思っている。

最後に、書籍「トランジション」でも引用されていた言葉を紹介して終えたい。

ゴールにたどり着いたときでなく、そこに向かってトランジションを経ていくときにこそ、人は偉大なのである。(ラルフ・ウォルドエマーソン)

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本記事は、トランジションコミュニティ「グリーンズジョブ」のアドベントカレンダー企画「わたしのトランジション」のエントリー記事です。


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