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地域の困りごとから見えてきたこと|刑部あゆみさん(佐賀 / 30代)

LIVE DESIGN School の23年度メンバー同士が、根掘り葉掘りするインタビュー企画! 各地で活動するメンバーたちが日々考えていること、そして、LDSの参加を経て見えてきた展望とは...?

プロフィール
 
1987年佐賀県生まれ、2010年京都造形芸術大学芸術学科コミュニケーションデザインコース卒業。広告制作会社、ステーショナリー企画などの経験を経て、2022年から株式会社日當リのグラフィックデザイナー兼イラストレーターとして活動中。インスタグラム:@osakabe_ayumi
 
2022年に佐賀・嬉野で開催された『おもしろい地域には、おもしろいデザイナーがいる』出版トークに参加した夫から、LDSのことを聞く。あゆみさん自身、佐賀だけでなく九州全体で活動したいという気持ちがあり、LDSでそのつながりができたらと参加することに。子育て世代なので、オンラインかつアーカイブ配信があったことも大きな決め手に。

━━ あゆみさんは、佐賀へのUターン組だそうですね。

大学は京都で、新卒で東京の広告制作会社で働いた後、ステーショナリーのデザインをする会社へ入りました。もともと雑貨や、イラストが好きなこともあって、ロフトとかプラザにあるティーン向けの雑貨をつくっていましたね。そこで、自分の好きなデザインと作っている商品の違いに気付かされて、もっと自分の好きなテイストで長く関われるデザインがしたいと思うようになりました。それから学生時代から憧れだった、手作りで傘を作っている会社に転職し、その中でデザイン、ものづくりに対する姿勢や考え方をたくさん教わりました。これまでの東京での仕事は、いまも引き続き関わらせてもらっています。

そんな中で、もともと私は佐賀に戻る気持ちはなかったんですが、静岡出身で写真家の夫は九州で暮らすことにも興味を持っていたこともあり、Uターンが決まりました。Uターン後はすぐに夫と「日當リ」という会社を立ち上げました。最近は少しずつブランディングのお仕事が増えてきたので、写真とデザイン、イラスト、企画をまるっと引き受けられる会社としてやっています。

━━ 実際にUターンされてから、どんなお仕事をされてるんですか??

例えば、鹿児島の甑(こしき)島で活動されている起業家の山下賢太さんからの依頼で、屋久島ジェラートのロゴデザインと、イラストを生かしたパッケージデザインのお手伝いをさせていただきました。Uターンを機に九州のお仕事も少しずつ増えていて、また最近は、地元の農家さんともちょっとずつ繋がりができてきたので、LDSでの学びをいかしてブランディングや商品作りをしていきたいなと思っています。

ちなみに、LDSメンバーでもあり、九州産業大の教授でもある伊藤敬生さんが「九州って県を境界にしないで良いんじゃないか」と仰っていたのが印象的で。都心で暮らした経験をいかし、九州全体を俯瞰でみながら活動していけたらと思っています。

━━ そんな構想もある中で、あゆみさんのご活動に対して、LDSでの学びはどんな風に作用しているんでしょうか?

LDSに参加した当初は、リードデザイナーのプレゼンに圧倒されるだけで、実際どう活かしたらよいのか、今の自分と重ねて悩んでいたんです。でもだんだん、迫一成さんや吉野敏充さんが地域で最初にした動きがわかってきて。例えば最初はTシャツをつくって売っていたとかマルシェを企画してイベントを立ち上げたとか、今に続くきっかけになった活動のお話が、Uターンしたての私には刺激的でした。佐賀に戻って、東京とは仕事のやり方が全然違うことを実感していたところだったので、こういう風に地域に潜っていくんだな、と気づきになりましたね。

それで今は、地域の人たちと「困りごと」についての座談会をしたり、「麦ストロー」を普及するプロジェクトを始めたりしています。

━━ 「座談会」のお話しが出てきましたが、あゆみさんと言えば、この本ですね。「佐賀に暮らし困ったこと。」。佐賀に暮らす方々の日常的な困りごとを集められて。

夫が出会った『WHOLE CRISIS CATALOGをつくる』という本がキッカケとなりこの企画はスタートしました。佐賀ではじめて出会った人に、「困ったこと」を聞き回り、皆さんの声を集めていくにつれて、ボリュームも増え「あれ、なんか思っていた以上におもしろい・・!?」みたいな気持ちになっていって。そして写真やイラストも入れて、、、結局膨らみ100ページくらいの本になりました(笑)。

あとは、「東京からUターンしてきて、佐賀のネガティブキャンペーンをしている」と勘違いしてほしくはなかったので、言葉のチョイスや、全体のトーンに細かく気を使いました。ちなみに最後のページ(*どんな内容かはぜひ実物をご覧ください)は人によって受け取り方がさまざまで、ハッピーエンドに受け取る人もいれば、これだけ問題を抱えてるのに、、、と思う人もいて。これを見て自分がどう動いたら良いのか考えるきっかけになったらと、メッセージを込めています。

佐賀への移住に興味がある人に、良いところだけが詰め込まれたパンフレットだけではなく、こういう現実も面白がって伝えられたらいいなと思います。

━━ つくってみて意外だったこととかありましたか?

私の世代は、「佐賀は何もない」と、ある意味洗脳されてきた気がするんです。でも、今の高校生は全然違って。高校でこの本を使った授業をした際に、私たちの時代のように「東京で一旗あげよう」と考える子が少ないことを知りました。彼ら彼女らが、私たちの予想とは全然違う、「佐賀は人が少なくて混んでないのがいい」って教えてくれたりとか。色々と衝撃でしたね。

とはいえ、大学が2つしかないとか、いろんなことに選択肢が少ないという課題は様々ありますね。

━━ 高校生とか、若手の方もどんどんLDSに参加してほしいなと思います。

そうですね。各地にインタウンデザイナー(土地に根ざして活動するデザイナー)がたくさんいることが、『おもしろい地域には、おもしろいデザイナーがいる』という本でも、その後のLDSでも目に見えてわかって。これだけの人数がいるということ自体、自信になりました。日本中に、お手本がたくさんいる感じです。

あとは「LDS1期」って経歴に書ける資格のようだなと思います。1期生同士、同じ釜の飯を食った仲間同士のような、あるいは親戚のような感じで、「LDSのメンバーなんです」って言うことで他の地域の人とつながりやすくなりそうですね。地方に行けば誰かしらLDSメンバーに会える、安心して地方にいけるような気持ちにもなりました。

━━ まさに、LDSは同志に出会える場になってきていますね。とはいえ、「もうちょっとこうだったら良いのに」って思うことはありますか? フィールドワークのプログラムも3日間あるので、あゆみさんのような子育て世代にはなかなか参加が現実的じゃなかったりするだろうなと思っていて。

冒頭にお話した『佐賀に暮らし困ったこと。』を買ってくれたLDSメンバーが何人かいるんですが、そのうちの一人である熊本のデザイナー・MECURU designの松高由美子さんと話していたときに、「1日だけフィールドワークに行けたんです!」という話を聞いたりして。松高さんも私も子育て世代なので、お互いそういう悩みを持ってるんだなって実感しました。子育て世代として、オンラインやアーカイブでさかのぼれるのは大変ありがたいです。

あとこの前は、リードデザイナーの新山直広さんのレクチャーで出てきた企画書の話が衝撃的だったので、その後みんなで企画書を持ち寄って雑談する会をやりました。オンラインだからこそ短時間で濃密な時間でしたし、子どもがいながらにしてそういう場面にも、参加できたことは貴重な時間でした。

それ以外も、つい最近では、リードデザイナーの佐藤かつあきさんや福田まやさんにも参加いただきながら九州LDSメンバーでオンライン会も実現し、次は九州ツアーやリアルに集まる会をやりたいなと思ってます!

参考リンク
コロカル「ゆっくりと、波紋が広がる『佐賀に暮らし困ったこと。』ローカルな“みんなの困り事”を紹介した本が話題」
STORES『佐賀に暮らし困ったこと。』

(聞き手|運営局 中井きいこ)


地域で必要とされる「広義のデザイン」について、各地のデザイナー陣と参加者どうしが学び合う場として始まったLIVE DESIGN School。現在、24年度のエントリーを受付中です!デザイナー(志望)はもちろん、イラストレーター / 大学生 / 行政職員 / 地域おこし協力隊 / 販売員 / 製紙業 / 百姓!などなど多様な肩書きの方にエントリーいただいています。詳細はこちらから!

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