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LAST WEEK REMIND~コット、ブエノスアイレスの夏~

LAST WEEK REMIND
~コット、ブエノスアイレスの夏~

2/11-17の振り返り

☆は4点満点

【映画】
・コット、はじまりの夏(2022)
☆☆☆☆:その瞳で周囲をじっと観察する無口なコット。ギャンブラーの父と、新たに子供を宿しながら忙しそうな母、四人ほどの姉妹たち。コットは彼ら家族といながらも心の隔たりを感じていた。母の出産に伴って、母のいとこ夫婦のもとに一人預けられたコット。緑豊かな田舎の農場でコットは新たな生活を送りはじめる。一緒に料理や皿洗い、農場の掃除、井戸への水汲み等、なんてことない日常を夫婦と共にすることで徐々に、実の家族からは感じなかった優しさと温もりを感じはじめる。それは真っさらな土壌に小さな種が植えられていくかのようだ。その種はちょこんとテーブルに置かれたクッキーかもしれない。あるいは夫婦の痛ましい過去を感じさせるお古の子供服かもしれない。丁寧に蒔かれた種は、この幸せな生活の終わりにそっと芽を出す。劇中幾度となく繰り返されたコットのある動作によって。無口な彼女の最大にしてシンプルな感情表現に崩れ落ちるしかない。

・カラーパープル(2023)
☆☆☆:何度観てもハードな状況だ。主人公セリーは十代にして父親との子供を二人産み、彼らは勝手に養子に出されて行方知れず。程なくして暴力的な男ミスターとの結婚をとりつけられて、最愛の妹とも離ればなれになってしまう。時代に関係なくとんでもない境遇にあるセリーがいかにして自立心を育てていくのか。キーパーソンになるのは義理の息子の妻となるソフィアと、シンガーのシュグだ。黒人であり女性であることが圧倒的に弱い立場だった時代に、周囲の視線や考えを気にすることのない彼女たちのパワフルな生き様にセリーは感化させられる。不満を溜めて溜めて溜め切った彼女が、夫に対してナイフを突きつける場面は圧巻だ。バリーノが本来のオーラを消し去り疲れ切った佇まいから、どんどんと輝きを得ていく様を魅せる。"I'm Here"で「私ここにあり」と爆発させる姿に心震わす。ヘンソンは主人公セリーを鼓舞しサポートしつつ、派手に生きた女の心の機微を掬い取る。そして何よりも素晴らしいのは、ブルックスの台風のような存在感。"Hell No!"に代表される豪快な振舞いは清々しい。彼女たちのパフォーマンスと魂に響く音楽が、波乱あふれる作品のポジティブなエネルギーの源になる。苦難に満ちた時代を生き抜き、最後には女性の連帯を超えて、過去に犯した如何なる罪を超えて、アフリカをルーツにした全員の輪を力強くみせることに成功する。

・五月のミル(1990)
☆☆☆:初夏を迎えたフランスの田舎町。初老のミルは老いた母とお手伝いらと共に歴史ある邸宅に住んでいた。だが、母が亡くなったことで一家が一同に顔を合わせる。時は1968年の5月。そう、五月革命が起きた歴史的な月だ。ただ今作では革命がリアルタイムでありながら、どこか遠くで起きていることとして描かれる。物語の中心となるブルジョワ一家にとって重要なのは遺産相続をどうするか、なのだ。情勢の動向をラジオで気にしながら、一家は若者たちが掲げる理想を批判したり、感化されたりしながら、基本的には特権階級的な見方を保持する。上流一家の保身と搾取的な態度、倫理観の歪み。これらが穏やかな自然あふれる田舎の中で営まれる。次第に革命の音が田舎にも近づいてくる緊張と、登場人物がそれぞれに抱える問題が相まって物事は予期せぬ展開を迎える。ただ、それでもすべては何事もなかったかのように着地する。ルイ・マル監督は一家を限りなく近く親密な距離感で見つめながら、どこか冷ややかな視線も同時に投げかけているようだ。

・ブエノスアイレス(1997)
☆☆:お互いを愛しながらもすれ違っていく男二人が、アルゼンチンのブエノスアイレスで関係をやり直そうとする。香港からやって来たその二人は、地球の真裏に位置するブエノスアイレスで彷徨う。ウォン・カーウァイ監督はいつもの乱雑した、喧噪にあふれた香港の街を飛び出し、異国の地で独特な感性を発揮する。大空に浮かぶ雲をモノクロで切り取ったのもつかの間、トニー・レオンとレスリー・チャン演じるカップルの互いを求めながらも反していく関係性を色鮮やかにキャンバスに描いていく。監督のトレードマークともいえるキャラクターのナレーションが控えめなのはありがたいが、全体的に行く先の定まっていない物語に不満を感じる。実は香港がイギリスから中国へと返還される時分であることが意識的にレイアウトされていて、今後が見通せない心情であったり、香港の人間であるという帰属意識、またはゲイである彼らの不安がこの物語から解釈できるのかもしれないが、やや解釈の余地が大きすぎてブカブカしている。まあ、これだけの複雑なテーマをシンプルな物語に落とし込んだのは流石だけど。なんだかんだ言ってカーウァイにとってイメージこそ命だ。レオンとチャンが、キッチンで静かにタンゴを踊る姿に宿る詩情を忘れることが出来ない。

ハッピートゥギャザー

【TV】

3年間ありがとう、ローズ家のみなさん

・シッツ・クリーク 第6シーズン最終話
・吸血キラー/聖少女バフィー 第1シーズン第2話

【おまけ】
・今週のベスト・ラヴィット!
アドリブで100万ボルト

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