ラグビーワールドカップ2023レビューその4

 ラグビーワールドカップ2023 レビューその4。
南アフリカについて続き。南アフリカはなぜワールドカップで強いのか。 前回述べた通り南アフリカは、ワールドカップでは最強の成績を残しているが、南半球4カ国で毎年行われているThe Rugby Championship(TRC)ではニュージーランド、オーストラリアの後塵を拝している。その理由は以下と考える。

 ① 南アフリカは南半球の国(といってもニュージーランド、
   オーストラリアの2カ国)を苦手にしている一方、
   北半球を得意としている。
 ② ワールドカップとTRCでは大会方式が異なる。

 ①について。南アフリカは過去8回のワールドカップで4回優勝しているので、決勝トーナメントで4回負けていることになる。その4敗は、ニュージーランドに2敗、オーストラリアに2敗とすべて南半球が相手。一方、北半球諸国とは8試合やって全勝である。
 南アフリカのラグビーは、ざっくりいえば多くの北半球諸国とそのスタイルが似ている(厳密にいうと細々とした違いはあるが、議論を単純化するため割愛します)。そのスタイルとは、キックで陣地を獲得し、スクラムやラインナウトを好むスタイル。同じスタイルなら選手のポテンシャルが勝敗の決め手となるが、人口の多さと民族の多様性から南アフリカに軍配が上がる。結果、準備に万全を期せるワールドカップでは負ける可能性が低い。フランスが全く異なるスタイルと言ってよく、実際、ワールドカップで勝ってはいるものの(2勝0敗)、いずれも接戦だった。プール戦では、第5回(2003年)大会でイングランドに、今大会はアイルランドに苦杯を喫しているが、両国とも大会前の世界ランキングが1位で優勝候補の筆頭格に上げられていた。実際、第5回はイングランドが優勝している。
 一方、南半球のニュージーランドとオーストラリアはつなぐラグビーであり、南アフリカのスタイルとは大きく異なる。戦術の相性はいいとは言えず、ニュージーランドとは2勝2敗と五分だが、オーストラリアには0勝2敗と負け越している(ワールドカップで唯一負け越している)。ちなみにアルゼンチンも南半球だが、相性以前にそもそも実力で大きく凌駕している。
 TRCでは南半球の国としかやらないので成績は振るわないが、ワールドカップは相性の良い北半球との対戦があるので、結果、ワールドカップでの成績の方がよくなる。ニュージーランドもオーストラリアも、意外と北半球の国に負けているし、両国同士の潰しあいもあり、南アフリカがこの両国と戦う機会が減る。実際、決勝トーナメントでこの両国と戦う機会は意外と少なく、優勝4回のうち、2回は決勝トーナメントでこの両国と対戦がなかった。残りの2回は決勝でニュージーランドと対戦しているが、オーストラリアとは対戦がなかった。

 次に②について。TRCが基本的にホーム&アウェーのリーグ戦であるのに対して、ワールドカップは最初リーグ戦(=プール戦)があり、その後は負けたら終わりのノックアウトステージという方式。南アフリカは一発勝負に強い一方、ニュージーランドはリーグ戦に強いことが、南アフリカがワールドカップに強く、ニュージーランドはTRCに強い理由と思われる。
 ではなぜ南アフリカは一発勝負に強いのか。理由は、ディフェンスの堅さとセットプレーの強さ、そして正確なプレースキッカーの存在。ディフェンスやセットプレーで圧力をかけてペナルティを取り、そのペナルティを着実に得点に結びつけられるから。結果、リスクの低い戦い方ができる。
 一方、ニュージーランドは基本的にトライを積み重ねて勝つスタイル。ただトライ数は試合によって波があり、長期的に見れば平均のトライ数は多くても、取れない試合もあるので、リーグ戦には向いているが、短期決戦に向いていない戦い方と言える。
 また、そもそも同じ南半球とはいえ、ともにオセアニアに位置するニュージーランドとオーストラリアと比べて、南アフリカは移動距離が長いことも選手のコンディションという面から不利で、TRCを苦手にしている理由だと思われる。

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