見出し画像

【超短編】 ending

 別れるのが、自然な気がした。

 嫌いになったわけでもなければ、不満が募ったわけでもない。
 苦痛も期待もない関係を、いつまでも続ける意味がないと思った。

 喫茶店に入って、別れ話。強いて言うなら、このありきたりになった風景が、別れるきっかけになったんだ。

「長かったね」
「ほんとだね、何年?」
「二年半?」
「三年くらいじゃない?」

 まるで友達同士の会話。ここにはカレシも、カノジョも居ない。別れ話をしているはずなのに。

「連絡先、消した方がいい?」
「別に。どっちでも」

 軽く始めた関係に、感情が伴っていたのかは分からない。私だけじゃない。相手にも、だ。
 アイスコーヒーとアイスココアが運ばれてきた。ココアはカレシの注文だと、店員に手で示す。

「ん」
「ありがと」

 アイスコーヒーのために用意されたシロップを、カレシに渡す。躊躇なくココアに注がれるシロップに、何度とも知れない嗚咽が漏れる。

「明日、授業一緒だっけ?」
「そうだね」

 コーヒーの苦味で吐き気を流し込む。元カレは幸せそうに、極甘のココアを嗜んでいる。
 嫌いになったわけでも、他に好きな人ができたわけでもない。
 ただ、カレシやカノジョという言葉が、私たちには不自然に感じた。

「じゃ、また明日?」
「そうね、また明日」

 喫茶店。苦いコーヒーはいつも通り、美味しい。
 別れを切りだしたのは私。それを不思議に思わず、すんなり受けいれたのは、大学の同級生。


良かったよ!と少しでも思っていただけたなら
イイネやコメント、よろしくお願いします(*ФωФ)ゞ

この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?