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【超短編】 通勤電車


 職場恋愛はめんどくさい。できれば避けたい恋愛の形だ。でも、好きな人ができてしまったら仕方がない。だから私は、社内恋愛だからこそ楽しめることを楽しむことにした。
 たとえば、電車通勤。お互いスーツ姿で、休日でもないのに隣合わせに並ぶ。
 彼がなにやらキョロキョロして、下方を見やる。
 どうやら、それを捉えてしまったらしい。

「ここ、女性専用車両じゃん」

 女性ばかりでできた列に、ピンクの囲いに白い文字。

「あ、ほんとだね~」

 私はわざとらしく返した。
 ちょうど電車が着いて、扉が開く。私は流れに沿って進んだ。

「おい」

 やや怒りのこもった声とともに、腕を捕まれる。見上げれば、若干眉間にシワが寄っていた。
 本当は怒っていない。そんな短気な人じゃない。こちらの冗談に乗ってくれたのだ。

「ごめん、ごめん」

 笑って返す。隣の車両に向かうべく、2人一緒に列を離れた。

「お前ら、見せつけてんのか?」

 後ろから降ってきた声に、振り向く。
 大きなケースを引きずって、彼より深く眉間にシワを寄せた上司が立っていた。

「お疲れ様でーす」
「課長、あっち女性専用車両ですよ」

 恥じらいはない。誰になんと言われようと、今を楽しむと2人で決めた。
 だからこそ、些細なことが嬉しいと、顔が綻ぶ。
 課長が呆れてため息をこぼした。

「まるで高校生だな」

 私たちは、そんな言葉さえ笑い合う。


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