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BGCのオフィスビルデザインの観察

フィリピンの超高層オフィスビルは外装デザインのバリエーションが多様で中々興味深い。前職では建物の設計を行っていたため、どうしても設計の実務的な目線で街と建物を観察してしまう。来た当初は奇抜すぎてぎょっとした思いで見つめていたが、カラッとした明るい街のイメージには欠かせない都市景観だと感じるようになった。

また日本ではなかなかお目にかかれない、グローバルで活躍するアーキテクチャーファームの作品を身近に見ることもできる。ここではBGCで注目しているいくつかのオフィスビルを紹介していきたい。

Seven/NEO Six/NEO

設計 Oppenheim Architecture + Design and L.A. Poco Architects & Associates
竣工 2016年
シンプルなガラスカーテンウォールにパンチングメタルの被膜を斜めにレイヤードさせた2棟兄弟の超高層オフィス。

左がSIXで右がSEVEN 低層部はつながっている

低層部はエントランス、店舗、車寄せ、駐車場、貫通通路となっている。
フィリピンは車社会なので、地上部のdrop off空間(車寄せ)が欠かせない。どこも車両と歩行者の動線整理が難しいなと常々感じているのだが、この建物ではそれぞれの空間を意匠的に統一するだけでなく、段差を設けない一体的な舗装デザインを行い、攻めた計画を行っている。

車寄せと貫通通路 2階から上の低層部はすべて駐車場
段差がなくシームレスな歩車道の舗装デザイン 車道側に少し傾斜することで区別されている
結局安全のためにボラードが立てられているが、何となくいつもここを通ってしまう

フィリピンは機械式駐車場がないのか自走式が主流だ。大量の駐車スペースを必要とするため、超高層ビルの地下から低層階までを駐車場とすることが多い。そのため低層階の開口部デザインのほとんどがガラリ兼用となってしまい、外装デザインの整理が大変そうだ。そして駐車場階の換気のためか、必ず煙突が突き出ており、たまに爆音と黒煙を立てて強制排気?のようなものが行われており何事かとびっくりする。

駐車場出入口 左が地下階行き 右が地上階行き
駐車場階の煙突から黒煙が噴き出す

Arthaland Century Pacific Tower

設計 SOM
竣工 2016
BGCの中で最もすっきりして透明感が際立つデザイン。ジグザグ形状のガラスをオーバーラップさせ、ゆらぎのある陰影で透明感を作り出している。低層階では駐車場階のガラリをガラスのオーバーラップで隠し、上層階とのデザインの統一性を図っている。

ジグザグの影の濃い部分は駐車場階の換気ガラリ
上層階ではガラリと縦で連続する部分にフィルムが施されている模様
ガラスの熱割れ懸念も検証済みなのだろう
ギザギザ部分の詳細
径の小さな穴あきパネルで必要換気量を満たしているだろうか?

層間区画の有無や外装システム(ダブルスキンなのか、など)についてはよくわからないが、サッシ周りは上の写真のようにシーリングが露出するディテールが多い印象。すっきりしてかっこいいが、汚れが目立つだけでなく対候性に欠け、地震、台風といった自然災害が多いことを考えると心もとない。

W City Center

設計者 CAZA 
竣工 2016
フロントファサードを湾曲させ、バルコニーをアクセントに大きなうねりを表現したデザイン。

バルコニー部分をアクセントとするうねりのあるデザイン

単にグリッド調の外装の一面を湾曲させただけかと思いきや、色付きフィルムや、アルミパンチングメタルでフレームを組んでいたりとグリッドを強調させるための工夫がなされている。

よく見ると各窓に色のついた額縁状のフィルムが施されている
妻面は端正なグリッドフレーム
グリッドのフレームはアールに加工したパンチングメタル

JY Campos Center

設計 CSYA
竣工 2013
こちらは超高層ではないが、個人的に好きなオフィスビルのうちの一つ。フィリピンの大手食品会社の本社ビルである。主要構造の柱梁をアウトフレーム化し、フレームの内側には穴あきパネルとルーバーを配置。
色は控えめのトーンで、ぎらぎらとした超高層ビルの中でヨーロッパ都市にありそうな小気味よいデザインだ。上階はセットバックしてテラスを配置し圧迫感が軽減されている。

テラスにどんと育つヤシの木が良い
穴あきパネルの六角形パターンは、この会社の主要商品のパイナップルが由来

あまり詳しくはないが、70年代に盛んだったフィリピン国内のブルータル建築の潮流と、風雨が多く日差しの強い気象環境的側面から見ると、おそらくこのような彫の深い建物が適しているのだが、金属パネルを用いて、現代的な軽さと明るさを表現した点が良いと思う。

THE FINANCE CENTRE

設計者 Gensler
竣工 2018
こちらのオフィスビルも素晴らしい。100点満点のハイライズ。楕円形のボリュームで長手面のガラスカーテンウォールはガラスを鱗のように重ねるデザインとすることで、厳格ながらもしなやかな印象を与えている。妻面との取り合いもすっきりとディテールが作りこまれ、全体的に完成度が高い。

楕円系のボリューム
完璧なガラス割り付けとサッシ形状
妻面との取り合い部分

フィリピンは雨が多いため、基本的に建物の足元には大きめのピロティや庇などの軒下空間が作られる。この建物ではガラスの大屋根が配置されているが、柱をスリムに見せる代わりに樋も電気配管もむき出しにしており、取捨選択の感覚が日本とは違うように思った。鋼管柱の断面形状が良いだけに、柱のベースが隠せていないのが勿体ない…。

ガラスの大屋根空間

次なるオフィスビルにも期待

まだまだ開発が続くBGCだが、近い将来、BENCH(ベンチ)というフィリピンのファストファッションブランドの本社ビルをフォスターアンドパートナーズがデザインするそうだ。ぜひ自分がいるうちに完成してほしいが先は長いだろう…。
※マニラではフォスターアンドパートナーズ設計の高級レジデンスが二物件進行中。

ところどころ残る空き区画


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