見出し画像

ユーミンとSi(内向的感覚)           

■ユーミンを聴くと内向的感覚を理解できる

私は松任谷由実(ユーミン)の楽曲が好きです。ヒット曲の多くが都会的な雰囲気を受けますが、よくよく聞くと哲学的で私小説のようでもありユーミンにしか出せない世界観を感じます。そして、もしやこれは内向的感覚によるところでは?と不意によぎりました。というわけで、いつもながら独断的に考察してみました。                

■シティポップスの再来                    

昨今、日本の80年代から90年代にかけて流行したJ-POPが「シティポップス」と称され、世界的にも流行を博しています。松原みきの「真夜中のドア」を皮切りに、山下達郎、竹内まりや、大貫妙子などアーティストのすそ野もどんどん広がり、当時の楽曲が益々評価されています。Youtube動画にも日本のシティポップスのタイトルがたくさんあふれています。                           

■そこにユーミンはいない                   

そのシティポップスについて。なんとなくですが、現在の流行りのシティポップス群には、私のリサーチ不足なのかもしれませんが、ユーミンがセンターに入っている感じがあまりしません。入っていたとしても、その群の中心からは少し反れている感じ。それこそ、80年代から90年代のシティの最先端で音楽シーンを牽引し、当時の時代を作り出していた人こそユーミンなのに。山下達郎と竹内まりやとの違和感は何だろうと考えると、これは楽曲中の内向的感覚や内向的直観の盛り込み入れ込み度合いの差ではないかと思えてきました。              

多くの場でユーミンの楽曲における唯一無二性は語り尽くされていますが、私はこの飛び抜けた才能の源泉に上記の2つの機能を中心とした内向的機能群にあるのではないかと感じています。私は楽器演奏が全くできないため、歌詞の内容だけに注目して記しますが、当然、メロディーがすばらしいこと、高い歌唱テクニックを有するタイプではないけれど、リスナーを一気に曲の世界観へ引き込む固有の声質や歌い方もオリジナリティにあふれ大変魅力的であることには間違いありません。                             

研ぎ澄まされた感性が鮮やかに表現され、今、聴いてもなお、その純粋さが損なわれない楽曲たち。デビュー当時、結婚前の旧姓荒井由実の名前でリリースした曲を例として少しだけ挙げてみます。               

カーテンを開いて静かなこもれびのやさしさにつつまれたなら             
きっと目に映るすべてのことはメッセージ                          
カーテンを開いてくちなしの香りのやさしさにつつまれたなら                             
きっと目に映るすべてのことはメッセージ                 

荒井由実 やさしさにつつまれたなら 

空がとっても低い 天使が降りてきそうなほど                    
一番好きな季節 いつもと違う日曜日なの 

荒井由実 ベルベットイースター

夜明けの色はミルク色 静かな街に                           
ささやきながら降りてくる 妖精たちよ                       
夜明けの空はぶどう色 街の明かりを                         
ひとつひとつ消してゆく 魔法つかいよ     

荒井由実 雨の街を

内向的感覚機能の特徴を表す記述は幅広く、身体感覚に準拠しているとか過去の記憶に長けている等の文言をよく目にしますが、スイスの心理学者、カール・グスタフ・ユングが提唱した「タイプ論」の内向感覚型の記述がその基本であり、かつ、その機能を説明するにあたり上記のようなユーミンの詩的表現を例にとると最もフィットしていてわかりやすいです。    

このタイプは、現実をそのままではなく、自分の内面をプラスして把握します。つまり、外界からの刺激そのものよりは、それによって引き起こされる主観の強度を頼りとしているのです。この人を外から見る限り、その行動はまったく不可解に見える場合も多いです。皆が美しい花畑と見るものが、この人には恐ろしい燃え上がる火に見え、小さい一つの眼の中に、広い海の深淵をのぞいたりします。(中略)                    
もしこのタイプの人が、自分の内部に見聞きしたものを、他人に伝えるだけの創造性をもつときは、偉大な芸術家として、その才能を開花させます。そして、この芸術家の描き出した像は、われわれの内部の奥深くに作用を及ぼし、われわれは、自分の内部に確かに存在するものを、このひとが描き出すまでどうして気付かなかったのかと思ったりします。

臨床心理学辞典(ユング内向的感覚型抜粋)

■ユーミンの楽曲にみる内向的感覚

木漏れ日やくちなしの花からやさしさを感じたり、12月のたれこめた曇天から天使が降りてくると捉えたり、夜明けの空をミルク色やぶどう色と表したり、歌詞を読むと多分に直観的な要素も含まれているようでもありますが、ユングが述べた内容を解釈する限りでは、外界の刺激そのままではなく、そこから派生する主観的感覚が付加されるという点で上記の歌詞は内向的感覚機能が強く発揮された表現なのではないかと思います。とはいえ、1曲の楽曲が出来上がる過程には、内向的感覚機能と直観機能(Ni、Neが織り交ぜられた)などが複合して創造されるものであろうこと、加えて感情や思考機能全般をも内的世界に引き込んで1つの世界として作られるであろうことが容易に想像できます。才能を芸術の域まで大きく開花させ、それを社会に広く還元させるほどの次元ともなると、ユングのいうところの8種類の心理機能(思考・感情・感覚・直観✕外向/内向)すべてを存分に使いこなすくらいの「個性化」の統合っぷりなのでしょうね。 

そしてユングの内向的感覚機能の引用の後半の記述は全くそのとおりで驚きました。私がユーミンの曲に繰り返し様々な感動を覚えるのも、楽曲の中に込められた創造性に触れることで、私自身が自分の内奥の感性に触れ、都度、その存在を確かめることができるからであり、まさに記述のとおりであるからです。         

■ユーミンと集合的無意識

また、この内向的感覚は日本人にはとても親和性の高い心理機能であることを何かのネット記事で読んだことがります。(すみません、出所を失念しました)日本の伝統的な侘びさび、四季の移ろいに対する儚さへの思慕、こういった感覚は日本人の感性の特徴だと言われています。ユーミンの楽曲にも、これらの感覚は通底しており、多くの人から好まれることも、何か惹かれるもの、心の琴線に触れるものが多分にあるからでしょう。このような共通感覚がユングの言うところの「集合的無意識」であるのかな、と思います。同時に、この集合的無意識は時代の変遷と共に価値やその内容が変化することがあるのかもしれません。音楽における多様性、価値観の広がりは日本人の集合的無意識の変化にも影響しているように感じます。                         

そして、冒頭で記した海外のシティポップス人気の群においてユーミンのセンター感が乏しいという点も、文化圏による価値観の違いから、ユーミンの楽曲に対する捉え方やその質感が共有、共感されづらいことが影響しているのかもしれません。ちなみに、私には山下達郎や竹内まりやの楽曲に全方位的なスマートさ、都会感を感じます。外向的感覚、Seっぽいとでも言ったら良いでしょうか。あと、山下達郎の博識ぶりとこだわりが音作りにも反映されて実に内向的思考Tiっぽさも感じたりして。海外では、これらの風合いがジャパン・シティポップスとして認知され、大勢の音楽ファンに受け入れられていると言えるのではないでしょうか                                

以上、あっちこっちへ脱線してしまいましたが、ユーミンと心理機能について思いつきを書き連ねてみました。長文、駄文のところ、お目通しをいただき有難うございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?