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ほっといてくれ! 第5話

 昼過ぎに、またあの刑事さんが来た。

「どう?わかった?」
「はい、この写真の人は、お付き合いしている女性の家にいます。」
「やはりね。」
「でも、その女性は2軒持ってますよ。」
「お、それは新情報だね。」
「こちらの住所の家の方です。」
「サンキュー、じゃ、約束の2万円。また、頼むわ。」

(あの人、これから頻繁に来るわよ、絶対。)
(仕方ないね、これも仕事だしね。)

 それから半月も立たずに、また、刑事さんが来た。

「この前はありがと。でね、今度はこの写真の女の子なんだけど。」

(この子、誘拐されてるって。)

「もしかして、誘拐ですか?」
「おっ、勘が鋭いね。どこにいるかわかる?ま、そこまでは無理か。」
「いえ、ちょっと待って下さい。午後にまた来てくれますか?」

(すぐ、追跡するわ。)

「できるの?本当に大丈夫?これがわかったら、今回は3万円だすよ。」
「じゃ、1時間後にいらして下さい。」

(犯人は2人。今、身代金を1億円要求してる。)
(でも、誰が犯人なんてわからないだろ?)
(そうね、でも、それらしい心の声を見つけたわ。)
(早いな、さすがは栗原さん。)
(地図広げてくれる?)
(オッケー。)
(この場所の工場跡の建物の中、二階の部屋に犯人ひとりといるわ。女の子は生きてる。)

「どう、わかった?」
「この地図をみて下さい。この工場跡の建物の二階の部屋に、犯人1名と一緒にいます。」
「なんで、そこまでわかる?」
「企業秘密です。」
「ちなみに犯人は複数の可能性があるんで、気を付けて下さいね。」
「わかった。」

(ちょっとやり過ぎたかな。)
(そうかも。)
(このままだと刑事さんからの依頼も多くなりそうだね。)
(ところで、栗原さんはこの仕事どう思ってるの?)
(なぁに?いきなり?)
(一年やってきて、このまま続けていけそうかな?)
(私は、とてもうれしいのよ。だって、普通に企業に就職しても、あの通りでしょ?)
(そうだね、ボクだって、栗原さんがいなかったら、問題起こしてるだろうしね。)
(ふたりでやっていけるって最高でしょ?誰に気兼ねすることもないし。)
(そうだね。)
(それに、思っていたより、お給料もいいしね。)
(確かにね、自分たちで決めれるもんね。)
(じゃ、これからもよろしくね。)

 自分たちの特技(能力?)を活かした仕事(調査会社)は、当初、本当にうまくいくかどうかわからなかった。でも、会社を立ち上げるって、どんな場合でも、そんなものじゃないかな。案外、需要があったのと、迅速なサービスで、ボクらの場合はうまくいったと思ってる。

「よう、また来たよ。」

例の刑事さんだ。いつまでも刑事さんじゃ、悪いから、近藤刑事とちゃんと名前で呼ぶことにしよう。

「今回はなんですか?」
「ちょっと、調べてほしいんだ。」
「オレオレ詐欺の全体組織壊滅って、感じですか?」
「なんでそんなことわかるんだ?」
「だから、コールドリーディングという企業秘密ですって。」
「企業秘密って、言ってんじゃん、コールドリーディングって?」
「心理的な動きでその内容を読み取るということです。」
「なるほど!」

(どんな下っ端でも、順に追いかけていけば絶対、わかるはずよ。)

「で、近藤さんが持っている人物は?」
「この写真の男なんだけど、コイツは受け子なんだ。」

(わかるかな?)
(大丈夫。)

「わかりました。これは時間がかかるので、明日でいいですか?」
「えっ、明日できちゃうの?」
「もっとかかった方がいいですか?」
「いやいや、早いにこしたことないよ。」

(順に声を追っかけてみるわ。)
(よろしくね。)

彼女はB4の用紙に最初の人物の情報を書き出した。そこから線でつないで、どんどん名前とかの情報を書き出していく。ボクはコーヒーを淹れて、彼女の傍に置いた。

(ありがとう。)
(どういたしまして、無理しないでね。)
(は~い。)

2時間以上経っただろうか、栗原さんはふぅ~と息を吐いた。

(これで全部よ。)
(終わったの?)
(うん、もう漏れはないと思うわ。)

ボクが見たその用紙には、びっしりと緻密に相関関係が書かれていた。

(すげ~!大丈夫か?しんどくない?)
(さすがに疲れたわ。今日は、もう帰っていい?)
(いいよ、ゆっくり休んでね。ありがとう。)

栗原さんの書き留めた用紙を、ボクはワープロに打ち出した。近藤さん、きっとびっくりするだろうな。

 翌日、栗原さんから連絡があった。

(今日は休んでいいかな?)
(体調悪いの?大丈夫?)
(昨日の作業で、疲れたところに風邪ひいちゃったみたい。)
(わかったよ。無理しないでね。あとで、買い物して持っていってあげるよ。)
(ありがとう。)

こういうこともあるよな。仕事は長く続くものだから、無理は禁物だ。あとで、ほしいものを聞いて、買って行ってあげよう。

「おはよう。どうだ?わかった?」
「組織を一覧にしました。」
「お、すげ~!さすがやね。」

ボクは昨日ワープロで仕上げた用紙を見せた。

「すげ~!!これ、マジだよな。」
「当然です。」
「たった1日で、これだけ調べたってことだよな。」
「そうです。」
「でも、この内容が正しいという証拠は?」
「信じるかどうかは近藤さん次第ですよ。」
「こんだけの組織を書けるということは、竹内くんまさか・・・」
「やめて下さいよ。信じてもらえないなら、この情報はなかったことに・・・」
「いや、そりゃ困る。今まですべて、正しかったんだ。わかったよ。ありがとう。」

確かに百人規模の組織表だから、一日で調べるなんて普通はありえないだろう。でも、ボクらは普通じゃない。近藤さんはその情報を持って帰っていった。

 さてと、今日は早仕舞いだ。買い物行ってこようっと。

(調子はどう?)
(あまりよくない。)
(何、食べたい。)
(そうね、ゼリーみたいな冷たいものがいいかな。)
(何味にしょうか?)
(オレンジがいいかな。)
(わかった。)

ふと思ったのだが、ボクらはスマホが必要ない。これって、便利だよな。今頃、思うなってか。

 栗原さんちは、事務所から歩いて10分くらいのところにある。結構便利だ。というボクんちも10分くらいだ。

(お待たせ、もうすぐ着くよ。)
(ありがとう、ごめんね。)
(いいってことよ。)
(台所貸してくれたら、おじやでもつくろうか?)
(あぁ、お願いしま~す。)
(先にオレンジゼリー、食べててね。)
(ありがとう。)
(ん、まだ熱あるね。)
彼女の額は熱かった。
(でしょ、今朝、解熱飲んだのにね。)

 ボクは自分のからだに共存しているウィルスの存在を思い出した。そのウィルスは意思を持っている。ありえんでしょ、と思うけど、そのウィルスの声を聴くことができるからだ。これを栗原さんに移してあげれば、いいんじゃない?

(いやよ、そんなの。)
(だけど、こいつら、栗原さんの病気、治してくれるよ。)
(どうやって、私に移すの?)
(そうだな、本当は輸血がいいと思うけど、ボクの血をなめてくれるだけでいいと思うんだ。)
(やっぱり、いやよ、そんなの。)
(栗原さんなら、そのウィルスと話ができると思うんだ。)

 彼女はものすごくためらった。まあ、わかるけどね。彼女は、ものすごく考えて、ようやく、ボクに同意してくれた。ボクは指先を針で突いて、血を出した。それを栗原さんは、かなりためらったけど、なめてくれた。

(あっ!)
(だろ!)
(すごい、これ。こんなウィルス、あるの?)
(ふふふ。)
(わかった、竹内クンが共存しているって言ってた意味が。)

このウィルスは、宿主と共存するがために、宿主にとって良くない細菌やウィルス、細胞をやっつけてくれるのだ。たぶん、1日もしないうちに、栗原さんはよくなるはずだ。

(このウィルス、すごいわ。)
(だろ?ボクはこのウィルスのおかげで、病気知らずなんだ。)
(っていうことは、私もこれからは病気知らずってことよね?)
(だね。で、声聞こえるでしょ?)
(聞こえる。すごいね。なんか、私のからだの中を調べ回って、悪いものみんなやっつけるって、言ってる。)

 よくわからないけど、このウィルスはボクのからだの中で変異したんだと思う。ほとんどの細菌やウィルスは、宿主が生きようが死のうがお構いなしに増殖し、宿主が死んでしまったら、自分自身も死んでしまう。だけど、それを良しとしないものが出てきたんだと思うのだ。まあ、細かいことはわからないけど、宿主に迷惑をかけるほど、増殖しないし、宿主が死に至る原因を作る連中を成敗してくれる。ボクにとっては最高のウィルスなのだ。

 数日後、詐欺軍団が捕まったとのニュースが放送された。近藤刑事、やったね。と、思ったら、早速、近藤刑事がやってきた。

「ありがとう、君らのおかげで詐欺軍団を全部捕まえることができたよ。」
「よかったですね。」
「ところで、なんであれだけの内容が分かったんだ?」
「だから、企業秘密なんですよ。」
「まさか、連中とつながってなんかないよな。」
「当たり前じゃないですか。」
「だよな。」
「そうですよ。」
「だけど、壊滅の協力したんですから、料金の上乗せして頂けるとか?」
「いや~、それは許してくれよ。」
「でも、今回はかなりの大人数でしたからね。次回は上乗せしますね。」
「頼むわ。許してくれ。」
「はい、どうぞ。」
「お、栗原さん、気が利くね。ありがとう。」

まあ、今日の近藤刑事はにこやかだ。なんか、常連さんになったよな。栗原さんの淹れてくれたコーヒーを飲んで、今日はいい気分だ。しばらく、近藤刑事は雑談して、帰っていった。なんか、今日はなんかしら、依頼がなくてもいいって感じだ。穏やかな日になればいい。

 ところが、なかなかそんなわけにはいかないのが現状だ。

(依頼者、来たわよ。)
(そっか、了解。)

ドアが開いて、一人の年老いた女性が入ってきた。

「ここはなんでも見つけてくれるって聞いたんだけど。」
「一応、調査会社です。」
「うちのコロタンがいなくなったんで探してほしいのよ。」

(犬、みたい。)
(そっか。どうする?)
(犬の声なんか・・・)
(わかるの?)
(できるかも・・・)
(私、あんまり考えたことなかったけど、動物とコンタクトとれるみたい。)
(それって、すごいやん。)
(うん、居場所わかった。)

「わかりました。お探ししましょう。」
「ホントかい?ありがたい。」
「じゃ、あとでコロタンを連れていきますね。」
「うちで待っとるから、よろしくお願いします。」

(たまには、一緒にコロタン探しに散歩するかい?)
(いいわね。)

ボクらは事務所を閉めて、コロタン探しに向かった。今日は晴れだし、たまにはいい散歩日よりだ。だけど、栗原さんの能力もすごいもんだ。人ばかりじゃなく、動物の声も聴けるんだ。感動ものだ。

(ねえねえ、動物の声ってどんな感じ?)
(人の声と比べて、とっても単純よ。)
(というのは?)
(主語+動詞って、感じ。わかる?)
(あんまり枝葉がないんだ。)
(そうそう。)
(もしかしたら、竹内クンもわかるんじゃない?)
(そっかな?)

 ボクらはコロタンの居場所に到着した。

(あっ。)
(やっぱ、竹内クンにもわかったでしょ?)
(ホントだ。)

コロタンは、ここにいる雌犬が気になって仕方がないみたい。だとすると、いくら連れて帰っても、またここに来るんだろうな。とりあえず、綱を付けて、あのお婆さんのところに連れていった。

「コロタン、どこにいっとったん?もう、勝手に出て行かんといてな。」
「コロタンはいつもの散歩道の途中にある空き地にいました。」
「ああ、あそこかいな。」
「そこで見かける雌犬が気になっているみたいです。」
「そうか、わかったわ。ありがとな。」

 のんびり散歩して、事務所に戻ると、あのマスコミの人が来ていた。

「待ってましたよ。」
「またですか?」
「ちょっと、お願いがあるんだ。」
「調査の依頼なら、聞きますけど。」
「そう言わんと、お願いしますよ。」
「じゃ、無理ですね。」

(どうしても取材したいみたい。)
(そっか。どうする?)
(でも、捜査の秘密は絶対に言えないしね。)
(だな。)

「君たちが、なんでそんなに早く情報を入手できるのかを知りたいんだ。」
「それは、企業秘密ですよ。」
「もしかして、人の心を読んでたりして・・・」

(やばい。バレたなか。)
(大丈夫、あてずっぽだから。)

「そんなことができたら、いいですね。」
「違うんか?」
「そうですね。」
「う~ん、一体どうやってるんだ?」
「ご想像にお任せしますよ。」

(しかし、この人、しつこいなぁ。)
(そうね、結構しつこい人みたい。)

 考えてみたら、この事務所に盗聴器仕掛けられても、心の会話だから何も問題はない。でも、電話もかけずにどうやって調べているのか、絶対に不思議に思えるだろうね。とにかく、マスコミには絶対ボロは出さないようにしなくっちゃね。

(つづく)

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