発達障害の僕が、就活で騙された時の話 3

 N先生はこう切り出します。

「私はね、かつて高額納税者としても名前が乗ったこともあるんですよ。それだけ、若い頃はたくさん稼げました。今はH山に家を構え、悠々自適に暮らせてます。

そんな私が、かつての若い頃バリバリ働いてた頃を思い起こすんです。彼らを見てるとね。Mくんたちのやってる事業。これは大したものです。

クルージング!お金持ちだけの特権と思われてたこれが、みんなでお金を出し合うことで、乗れるんですよ!今まで個人の努力では限界があった!でも、みんなで協力すれば、不可能を可能にできる。

たった30万円ですよ!たった30万円でお金持ちの気分を味わえる!こんないい商売はありません!今も申込者が殺到してる。Mくんのビジネスは、既に軌道に乗り出し、今年には何億ものお金を稼ぎ出す予想なんです。絶対損なんてしない!それくらいにこのビジネスはしっかりしていて、安定してるんです!

さあ、この講演を聞いてる皆さん!是非このビジネスに投資しましょう!たった30万円で、その何倍ものリターンを得られるのです!」

「乗った!!今からATMからお金を下ろしてきます。」

「素晴らしい!即断こそお金を稼ぐ上で大切なことです!あなたのお名前は?」

「Lです!」

「Lさんか!身だしなみもしっかりしてるね!何のお仕事をなさっているのですか?」

「JA◯Aで働いてます!」

「なんと!あの宇宙開発の!すごいお仕事ですな!大学も相当にいい大学なんでしょうな!」

「はい!KO大学の内部進学です!新卒でやりたい仕事に就くことができました!」

「素晴らしい!あなたは芯を持った人だ!あなたのような信念を持った人こそ、このビジネスに参加し、そしてお金を儲ける方だ!」

「ありがとうございます!時間が惜しいです!早速ATMへ!」

そのL氏を筆頭に何人も机を立ち上がり、外へ出ていきました。

「おや?まだ悩んでる人がいるようですね?あなたはまだこのビジネスに疑いが?」

「あ、いや、なんかもうすごい話で、その。」

「悩んでいてはいけない!時間はお金なんだ!ウジウジ悩んでるやつにチャンスなんて訪れない!たったの30万円だぞ!そんなのも出せないのか!」

「いや、学生なもので、そんな大金は…」

「どこの大学の学生だ?」

「A大学です…」

「ああ、A大学か。あの大学の学生は出来が悪いな。名前は知られているが、中身は昔からなかなか大したことがない。君が決断できないのも、A大だからか。まったく、仕方ないね。

でもな、君の決断が、A大学出だからなんて言わせない、崇高な結果を生み出すかもしれないんだぞ!」

「そうですよ。私もこのビジネスで100万既に儲けたんですよ!」

「ええ、僕もそうです。私なんかあなたの大学よりももっと名前が知られてない大学を出ました。でも、Mくんと出会い、このビジネスに参加したお陰で、大学の名前なんか気にしなくてもいいくらいの、ものすごい成功への道を歩み始めましたよ!」

 気がつけば、わたしは会社の人に囲い込まれました。どうしよう、逃げられない。私は身体に危険すら感じました。周りは囲い込みながら決断しろ、決断しろと言い続けます。

M先輩がそこで言います。

「まあ、今すぐに決断はできないよね。でもね、もし君が決断したら、僕は一生を懸けて君の人生をより良いものにしてみせるよ!アドバイスもずっとする!君を1人になんかさせない!絶対だ!」

「わ、分かりました、でも、その額は学生の僕には簡単な額じゃない。少し待ってください。何とか金策をしますから。明日も面接があるし、今日や明日だけじゃ作れるものじゃない。1週間猶予をください。お願いします。」

「うんうん、分かった!君の意思を尊重するよ。でも、待ってるよ!僕らはもう仲間なんだから!」

何とか落ち着きを取り戻し、私はぺこぺこ頭を下げ、ゆっくりと囲い込みの隙間からドアへと向かいました。そこへKくんも

「僕も途中まで行くよ!」

とついて来ようとしたのです。

「いや、大丈夫だよ!また連絡するよ!」

恐怖で震える心を必死で抑え、何とか平静を装い、その場を後にしました。

会社を出るとダッシュで駅へと向かいました。

「やばいやばいやばい。逃げないと!」

私はその日自宅を突き止められるのが恐ろしく、大学近くのカフェと漫画喫茶で1日を過ごし、そのまま面接へと向かいました。

もう、面接でも何を話したか、記憶にありません。金融では第一志望の企業だったのですが、まあ見事に落ちました。

本当、まさか、就活をやっていてこんな罠があるとは思いませんでした。疑うことをあまりにも知らなかった。いや、疑いはあったのに、同じ就活生だから時が緩んでしまった。

結局、これはネズミ講だったのです!

クルージングのネズミ講は当時結構あったようで、その後ネットで調べていると、そのことについて告発しているブログを見つけ、もっと早くそういうことに気づいていたらなと思いました。

まあ、私はお金というものを異様に気にするというか、大学も無理言って奨学金とか借金を諸々抱えた上で行ったので、これ以上親に迷惑をかけてはならないという気持ちが圧倒的に強く、そのことだけを考えてその場を何とか逃れられたという感じです。

本当、怖いですね。彼らは見事に私の自信を瓦解しようと試み、そこに助け舟を出すようなことを言う。こう言うのがカルト宗教とかでもあるんだろうなと感じました。

就活生の皆さんも、どこにそう言った詐欺があるかわかりません。変に人を信用せず、自分や家族を大切にする気持ちを忘れず、頑張って欲しいなと思います。そんな奴らにお金や自分の時間を渡すなんて、絶対ダメです!

ということで、発達障害の疑いをちゃんと知らない僕の大きな失敗談でした。



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