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『FACE』考察〜ジミンの決意表明と新たな始まり〜

BTS ジミンさんの記念すべき1st ソロアルバム『FACE』を、歌詞・MV・コレオなどから考察します。

はじめに

私はこのアルバムは、ジミンがいくつもの自分と向き合った結果、前に進もうとする自分だけを解放して生きていくという決意表明だと思う。

各曲の歌詞には"I"で表される主体的な語り手と、"you"で表される語り相手が登場する。
"Face, the reflection of oneself in unfamiliar appearance"「Face, 見慣れない姿をした自分自身の反射」(*a)というコンセプトから、この語り相手もまたジミン自身、つまりジミンの内面にいるもう1人のジミンだと捉えることができる。
この"I"と"you"を軸に、各曲を紐解くこととしたい。

Face-off
〜対峙の始まり〜

「バカみたいに生きている」(*1)自分を自嘲するかのように始まる曲。
この曲で主体"I"が語りかけている"you"とは誰か?それは、「バカみたいに生きている」、もう1人の自分であると取れる。
"I"は、酔っていたのも無茶苦茶に過ごしていたのももう終わりだと言って、
甘い言葉をかけて今の姿のまま変わらずにいようとする"you"のことを、跡も残さず追い出そうとしている(*2)。
"I"が、"you"=バカみたいに生きている自分を半ば客観的に、もう1人の自分として認識して、この夜を終わらせようと少しずつ目覚め始めたことを歌っている曲なのではないか。
きっとここでの「バカみたいな」生き方とは、いつもファンに良いところだけを見せたいと言うジミンが「ARMYに説明するのが難しい」(*c)くらい、良くない(と本人が感じている)生き方なのだろう。
曲名のFace-offからは、"I"がそんな生き方をしてしまう"you"と「対峙する」という意味と、その"you"の仮面(face)を剥がして(off)目覚め始めるという意味の2つが受け取れる。

지금 내 모습을 봐
今の僕の姿を見てよ
살아 머저리같이(*1)
生きてる バカみたいに
〜〜〜
빌어먹을 지난날들도
クソみたいにすぎた日々も
이젠 끝인걸
もう終わりだ
〜〜〜
Tonight I don't wanna be sober
今夜は素面でいたくない
Pour it up, it's all fuckin' over
酒を注げ、全て終わりだ
Break it down
ぶち壊せ
〜〜〜
Get it out
消えろ、吐き出せ
너의 흔적까지 다 yeah yeah(*2)
君の跡まで全て
Face-offより

Interlude : Dive
〜深層へ〜

印象的なのは、ARMYの歓声とそれに応えるジミンの声。そしておそらく静かな部屋で1人で飲み物を飲む音。
1人でいる時に動画サイトで昔のコンサート映像を観たことや、自分自身を振り返る時間があったことを、これまで何度か語っているジミンのことが思い出される。
Face-offで目覚め始めたジミンは、ARMYと一緒だった夢のような時間、そして自分自身の内部"the deepest invisible inner world"(*b)に、1人で深く潜っていった(dive)のである。

Like Crazy
〜幸せに酔える夢〜

MVでは、部屋で眠りについたジミンが、パーティー会場=夢の中へと手を引かれる様子が描かれる。手を引くのはおそらく、MV中盤で登場する黒いジャケットを着た女性だろう。歌詞の中では"she", "you"で表される、「今夜ここでは嫌なことなんてひとつもない」と言ってジミンを「高く舞い上がらせる」存在だ(*3)。
部屋にいたジミン="I"は、初めこそ彼女に強引に手を引かれたものの、最後には「この夢に留まっていたい」「助けないで」と願う(*4)。
この留まっていたい夢とは、"I"がInterlude : Diveで潜り込んだ先、つまりBTSとARMYがかつて一緒に楽しんだ幸せだった時間なのではないか。
パンデミックによって突然失われた幸せだった時間に留まっていたいと願うジミン="she", "you"が、Face-offで目覚め始めたジミン="I"を夢の中に引き込み、麻痺させ、酔わせる。
しかしこの楽しいパーティーはジミンの夢に過ぎないため、当然ながらずっと留まっていることは出来ず、呆気なく消えてしまうのである。パンデミックの中では、ARMYの歓声に囲まれることも、そんな一時的な夢想以外では不可能なものになってしまったのだ。
パフォーマンスでは、男性ダンサーと踊っていたジミンが女性ダンサーに手を引かれて囲まれ、一緒に踊る(*5)。
しかし最後、男女ペアで踊っていたダンサーを見ると、女性ダンサーが男性ダンサーを振りほどくようにして去ってしまい、男性ダンサーもジミンから離れる。そしてパフォーマンスの始まりのシーンに戻るように、ジミンは1人になる(*6)。

She’s saying
彼女は言うんだ
Baby, 생각하지 마
Baby, 何も考えないで
There’s not a bad thing here tonight(*3)
今夜ここでは嫌なことなんてひとつもないよ
〜〜〜
매일 밤
毎晩
You spin me up high(*3)
君は僕を高く舞い上がらせる
〜〜〜
No don’t you wake me
目を覚まさせないで
I wanna stay in this dream, don’t save me(*4)
この夢に留まっていたい、助けないで
〜〜〜
I need a way we can dream on(*4)
この夢を見続けてなきゃいけないんだ
Like Crazyより


*5 0:46頃〜
*6 2:56頃〜

Alone
〜やっと求める救い〜

曲名と冒頭のアラームの音からも分かるように、Like Crazyでの夢と酔いから醒めて、現実で再びたった1人になった曲だ。
これまでの2曲で"I"が語りかけていた"you"はこの曲では"너"(君)に代わって登場するが、この"너"は、「言い訳しても無視しても」「壊れたものは取り返しがつかない」ことを知っているくらい冷静である(*7)。
"나"(私)はそんな"너"と向き合っているからこそ、Like Crazyでの夜よりもずっと冷静に、「大丈夫なフリをする自分が情けない」と感じ、大丈夫という「嘘」をついているから「自分を失っていくように感じる」(*8)。
そしてLike Crazyでの"I"は、自分を見失う状況から「助けないで」、つまり夢から現実に引き戻さないでと願っていたが、
Aloneでの"I"は「引っ張り出して」と言い、この夜が終わることを望んでいる(*9)。
では"I"を助けてくれるのは誰なのか?

넌 그럴듯한 변명을 해봐도 또
君はもっともらしい言い訳をしてみてもまた
눈을 감고 외면을 해봐도 oh
目を閉じて無視してみても
알잖아 이미 망가진 건
知ってるじゃん もう壊れたものは
되돌릴 수 없는 걸(*7)
取り返しがつかないってことを
〜〜〜
괜찮다 했었지만
大丈夫なフリをしたけど
점점 날 잃어가는 것만 같아(*8)
だんだん僕を失っていくみたいだ
〜〜〜
Mayday 날 꺼내줘(*9)
僕を引っ張り出して
〜〜〜
Lie lie lie lie lie lie lie(*8)
Aloneより

Set Me Free Pt.2
〜自由になった唯一の自分〜

これまでの3曲でジミンが語りかけてきた"you", "너"は、この曲の歌詞には出てこない。出てくるのは"I", "나", "me"だけである。ジミンは、もう1人の自分と向き合ってきた結果、まさにその主体である"I"だけを自由にしたということではないか。
パフォーマンスの初め、ジミンはその姿を探してしまうくらいダンサーの中に埋もれながら歩く。そしてダンサーと全く同じコレオを踊り「迷ったんだ、迷路を」と歌う(*10)。
しかし、「迷った果てに立ち止まった僕」と歌うと、渦のように並んだダンサーの端に立つ。そしてダンサーが一斉にジミンの立つ方とは反対側に振り返る中、ジミンだけは「振り返らない」(*11)。
サビでは、ダンサー達は少し恐怖すら感じるくらい規則的なコレオを踊るが、ジミンには決まったコレオはほとんど無く、自由に動きながら"Set me free"と歌う(*12)。
そしてダンサーが一方的にジミンを指さし、監視するように見つめ、囲い込むのに対し、ジミンがコレオとしてダンサーを見ることはない(*13)。
ジミン演じる"I"に対して、ダンサー達は、これまでのジミンが向き合ってきたいくつもの"もう1人のジミン"="you"達なのではないか。
そして今はもう、ジミンはその"もう1人の自分"に語りかけることは無く、主体としての自分="I"で、目の前に続く未来だけを見ているのではないか。
"I"から"you"に語りかけていたこれまでの曲では、"I"もまた鏡写しの"you"から見られていたために、"you"に影響され、囚われていた。
しかし"you"に語りかけることをやめた今、もう"you"に囚われることはなく、"I"は主体として独立することが出来る。
「まだ迷路」の中にいるが、もういくつもの自分の間で迷うことはない(*14)。これまで、内面にいたもう1人の自分たちと苦しみながらも向き合い、その結果ただ前に進むことを選択できたからこそ、向き合った主体である自分だけを自立させ、自由にすることが出来るのだ。
その証拠に、MVの最後、縋ってくる無数の手をものともせず、ジミンだけが立ち上がる(*15)。ジミンは"you"を見ることをやめたことで、鏡写しの"you"から監視されることもなくなる。純潔や潔白を想起させる白を身にまとったジミン="I"だけが、一方的に監視される独房、パノプティコンから出られるのである。

끝에 멈춰 선 나
果てに立ち止まった僕
〜〜〜
돌아보지 않아
振り返らない
〜〜〜
Still 난 미로
まだ僕は迷路にいる
But I got no time to break soul
でも病んでる暇はない(*14)
〜〜〜
I'm on my way
僕は僕の道を進んでる
Set Me Free Pt.2より

*10 0:25頃〜
*11 0:54頃〜
*12 1:23頃〜、2:38頃〜
*13 1:09頃〜、2:24頃〜、2:54頃〜
*15 3:14頃〜

まとめ

ジミンは、いくつものもう1人の自分と向き合った結果、主体としての"I"を確立した。
まだ迷うことはあっても、自分で解放した自分はこれから前に進み続けるのだ、という強い決意表明を私たちは見せつけられた。
このアルバムはジミンの「新たな始まり」(*d)なのである。

あとがき

ここまで率直に、そしてこちらに考える余地を与えながら、これまでの迷いや考えていたことを音楽にして伝えてくれたジミンちゃん…
表現者としての誠実さ・巧さと、受け取り手の私たちへの信頼に愛を感じます。
アルバム全体がダークトーンなことを気にしていたけれど、きっとだからこそ、Weverse Liveやサノクやその他のコンテンツではニコニコとあたたかくご機嫌な雰囲気をいつも以上に出してくれているように見えて、今はもう解決してる、心配しないでとも言ってくれて。このアルバムを出せているということ自体が、ジミンちゃんの中にあった悩みが解決しているということを意味していると思うので、安心しつつ、心の内を教えてくれてありがとうの気持ちと、今後の活動への精一杯の応援を送りたいと思います💜
사! 랑! 한! 다! 박! 지! 민!

引用元

*a,b 『FACE』アルバムアートワーク
*c [슈취타] EP.7 SUGA with 지민
*d Kstyle BTS(防弾少年団) ジミン、ソロアーティストとして新たにスタート「本当の自分と向き合った」

※本noteは全て個人の解釈です。

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