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欧州都市における都市河川の再生プロジェクト

case|事例

都市にとって河川は歴史的に重要な役割を果たしてきた。その役割は市民が集う場や、水泳や釣りなどのアクティビティの場に加えて、水や食料の供給、生態学的な価値などさまざまな領域に及んでいた。

一方、都市化による負の影響も強く受けてきた。時に埋め立てられたり暗渠にされたりと河川形状が大きく改変されただけでなく、下水が流れ込み河川の汚染が進み、公衆衛生上の問題をはらむ場にされてきた。

しかし、現在、気候変動などを受けて、そのような河川の評価が欧州の都市で見直され、生物多様性を維持する場や市民の文化的活動の場として、河川を浄化し再生するプロジェクトが始まっている。

フランスの首都パリでは、2024年のオリンピックを控え、セーヌ川を再び泳げるようにするための再生プロジェクトが進行中で、オリンピックではプールの設置が予定されている。セーヌ川は、1923年にフランス政府が遊泳を禁止して以降、高レベルの細菌と汚染が問題となっていた。1988年には当時のシラク大統領がセーヌ川の浄化に着手し5年以内に遊泳可能にするとしたが、結局その目的は果たせなかった。

パリ以外にも、バーゼル、ベルン、チューリッヒ、ジュネーブなどの都市では、年十年もの間、河川の再生に取り組み、安全に泳げる河川を取り戻している。これらの都市は、下水処理施設を配置し、生活排水を河川から遠ざけることで河川を浄化すると共に、河川へのアクセスを容易にするためのコンクリートの階段を備えた親水空間の整備や泳ぐ人のためのガイドラインやMAPの整備を進めている。

チューリッヒを流れるリマト川は、都市景観の中でキレイな水で遊泳が楽しめる事例と知られている。また、2000年から進められているミュンヘンのイーザル川の河川再生も良く知られている。イーザル川の再生では、3,800万ドル(約57兆円)が投じられ、河川の浄化や氾濫原の拡大、堤防の改良などが進められた。現在では地元の人や観光客が泳ぐ公共スペースに生まれ変わっている。他にもベルリンではシュプレー運河1.8kmの再生プロジェクトが、ロンドンではテムズ川の浄化プロジェクトが進められている。

insight|知見

  • リマト川ってどんな河川なんだろうと思って調べてみましたが、想像をはるかに超えたスケールでした。川幅は広いし水深も結構深そうです。流れのはやさとかいろいろ違うのでしょうが、那珂川をはじめ福岡の都心部を流れる河川でも泳げそうな気がします。

  • 日本の都市は河川に対して背を向けていますし、合流式下水道もまだあるので河川の水質は必ずしも良くはないですが、リマト川でレジャーを楽しんでいる風景と比較すると、日本の河川はもったいないなぁと思います。福岡の都心部は河川も多く、スケール感も街と近いので、親水空間で遊ぶだけでなく、河川に面したテラスでお茶を飲んだりおしゃべりをしたりといった風景が増えてくると、福岡の都市の魅力が増すように思います。日ごろから河川と接していると、河川をきれいにしようという意識も高まりそうですし。