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リビングラボを「繋いでいく」ための仕組み:リビングラボ・セーブポイント(前編)

1年くらい前から、日本のシビックテック(注1)コミュニティである「Code for Japan (CfJ)」の方々との草の根的な連携が始まっています。そこでは、リビングラボの「セーブポイント」という仕組みをみんなでつくっています。

リビングラボのセーブポイントとは何なのか?なぜつくっているのか?
今回の記事では、LLL(赤坂)の視点から、掘り下げてみようと思います。
なお、CfJでこのプロジェクトを引っ張ってくれているメンバのひとりである今村さんも、セーブポイントに関するnoteを書いています。こちらもぜひご一読ください!

リビングラボや共創は、思ってるよりも難しい


「リビングラボや共創は、なかなかうまくいかない。」

この問題意識が、セーブポイントプロジェクトの根本にある課題意識(モチベーション)です。

様々な社会課題が顕在化している現代社会では、単なる技術/サービス開発だけでなく、ソーシャルイノベーションやウェルビーイングな社会を実現するための取り組みが求められています。そういった文脈において、生活者を中心に、様々なステークホルダとの共創を行うリビングラボは、非常に重要なアプローチです。技術システムだけでなく、社会システムまでをも含んだトランスフォーメーションは、リビングラボのような多様なステークホルダの協働がなければ、なかなか実現できません。

ただ、リビングラボや共創をやろう!と言うのは簡単ですが、実際にやってみると、かなり大変であることがわかります。ひとつのプロジェクトに関与するステークホルダの種類や数も必然的に多くなりますし、時間も運営にかかる負担・コストも大きくなりがちです。そもそも、(リビングラボのアプローチに限らず、)新たな社会/技術システムへの変換を実現する取り組みは、うまくいかないことが殆どです。

そんな、リビングラボや共創の”現実的な”課題を解決するために開発しているシステムが「リビングラボ・セーブポイント」です。

リビングラボ・セーブポイント

リビングラボ・セーブポイントとは、端的に言うと、「リビングラボや共創のプロジェクトを、いつでも保存(=セーブ)できる場所」です。また、セーブポイントに保存(セーブ)されているプロジェクトは、だれでも引き出す(=ロードする)こともできます
”セーブ”や”ロード”という言葉は、昭和生まれでテレビゲーム(特に、ロールプレイングゲーム)が好きだった人には、なじみのある言葉かもしれません。そういった時代のゲームには、ゲームの進行を保存(セーブ)するための場所があり、セーブポイントと呼ばれていました。そして、セーブポイントでセーブしたデータをロードすることで、セーブした地点から、ゲームを再開できるようになります。

リビングラボ・セーブポイントは、CfJの「Wellbeing研究会」というコミュニティを中心に議論されています。最初に紹介した今村かずきさんをはじめ、太田直樹さんや会津の暮らし研究室の皆さん(藤井靖史さん、矢野睦さん、角南有紀さん)、たまプラやCode for Catなど様々な取り組みをしている藤本孝さん、コンセントの小橋真哉さんなど、すごいメンバが揃っています。私も、ひょんなことがきっかけとなり、このコミュニティに参加させていただくことになり、セーブポイントの開発や関連イベントの企画や実施を、ほかのメンバの皆さんと一緒に行っています。

なぜ、セーブポイントが必要か?

セーブポイントは、先に述べたように、リビングラボのプロジェクトをいつでもセーブできる場所です。これは、視点を変えれば、「プロジェクトをいつでもやめることができたりお休みすることができて、いつでも誰でも再開することができる場所(※今村さんの記事より抜粋)」だと、見ることができます。
つまり、何かの事情で止まってしまったプロジェクトやうまくいかなかったプロジェクトを一旦貯める(冷凍保存する)ことができ、さらに、それを自分や他の誰かが再開することができる場所なのです(図1)。

図1:セーブポイントコンセプトの全体像


このコンセプト、個人的に面白いと思うポイントが2つあります。

ひとつ目は、「失敗・停滞」を「保存」と読み替えられることです。冒頭に書いたように、リビングラボや共創のプロジェクトはなかなかうまくいきません。その一方で、様々な地域で同じような課題(例えば、よくあるのはモビリティ・高齢者の移動支援)に向けた取り組みが行われていることも事実です。その意味では、ほかの地域や組織が実施したプロジェクトの「失敗」から学ぶことは非常に重要なのですが、「失敗」などという烙印が押されてしまうことには、誰でも抵抗感があります。これに対して、セーブポイントでは、「失敗して止まってしまった」ではなく、「一旦、保存している(だけ)」というスタンスを取ります。このリフレーミングは、同じことを言っているようで、とても重要なことだと思います。プロジェクトを一旦保存・お休みさせておく場所があるというだけで、プロジェクトをこれから始める人たちも、とても気が楽になるという効果もありそうです。

ふたつ目は、時空間を超えて、リビングラボプロジェクトを繋ぐことができるという点です。セーブポイントにセーブされているプロジェクトは、いつでも誰でも再開することができます。何らかのテーマでプロジェクトを始めようとしている人たちは、過去に類似のプロジェクトがなかったかを検索し、そこから得られる情報をベースに自分たちのプロジェクトを開始することができます。つまり、過去のプロジェクトが、未来の誰かのプロジェクトの役に立つのです。このように、セーブポイントがあることで、時間と空間を超えて、様々な実践者が知恵を重ねあい、助け合っていくようなアプローチが可能になります。

リビングラボ・セーブポイントの開発

CfJのメンバを中心に、セーブポイントのシステム開発(実装)も着々と進んでいます。
セーブポイント・システムでは、プロジェクトで生成された様々なデータ(報告書や議事録、メモ、音声等)を、プロジェクトのタイトルやメタ(概要)情報とともに、保存(セーブ)することができます。そして、セーブされたリビングラボプロジェクトは、3次元空間上にマッピングされます。このプロジェクトマップでは、セーブされた各種データを自動解析し、プロジェクト間の類似度を計算し、似たようなプロジェクトが近くに配置されるようになっています。そして、各プロジェクトをクリックすると、(公開可能な範囲での)事例情報の詳細は引き出す(ロード)することができます。

図2は、2023年のCfJ Summitでセーブポイントのプロトタイプを披露した時の様子です(※こちらも今村さんのnoteより拝借)。スクリーンに、セーブポイントシステムのUIが映っています。

図2:CfJ Summitの様子。スクリーンにセーブポイントシステムの画面が見えます。

「リアルな場」としてのセーブポイント

「デジタル」な知識(実践知)共有の場としてのセーブポイントシステムは、リビングラボの実践を支える「インフラ」のひとつとして非常に重要な存在です。一方で、デジタルな仕組みだけでは限界があることも事実です。例えば、リビングラボプロジェクトをセーブする際に、すべてのデータをセーブし、他者に公開できるわけではありません。また、セーブされたデータ(テキストや音声、写真など)から、自分のプロジェクトや文脈に対して学ぶことができるポイント/参考にできる”キモ”の部分を、すぐに(もしくは正確に)読み取ることも、難しいかもしれません。
そこで我々は、デジタルな場としてのセーブポイントだけでなく、「リアルな場」としてのセーブポイントの仕組みも開発しています。

ちょっと長くなりましたので、この続きは、また次の記事で述べたいと思います。

Fumiya Akasaka (AIST)


注1:シビックテックとは、Civic(市民)がTech(技術)を使って、地域や身近な困り事を解決する活動のことです。アイデアを出す、デザインする、コーディングするなど、その人の力を活かした参加方法があります。(CfJ HPを参考に作成)

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