音楽劇『ダ・ポンテ~モーツァルトの影に隠れたもう一人の天才~』の感想

これなあ……まあ基本的には作品が好みでなかったので、私にとってはちょっと……という話をしています。もし好きな方がいたらもう読まないでくれ~~!

音楽劇『ダ・ポンテ~モーツァルトの影に隠れたもう一人の天才~』
シアター1010 6月21日~25日(プレビュー公演)
日本特殊陶業市民会館ビレッジホール 6月30日~7月1日
東京建物Brillia HALL 7月9日~16日
新歌舞伎座 7月20日~24日

・相葉サリエリ先生所感

サリエリというと『アマデウス』でモーツァルトに愛憎抱いて嫉妬していたイメージが強いものですが、史実ではそうではなかったというのが近年の定説らしく、さらには『FGO』のキャラとしても人気らしい。今回はストーリーが発表された時はダ・ポンテ&モーツァルトと「>>>>対立<<<<」って書かれてたのに、そんなに対立はしてませんでしたね。というかなんかコメディリリーフみたいになってたけど、相葉さんご本人も「面白いのが好きなので助かった」と言っていた。

サリエリ先生は、まずとてもビジュアルがよかった……。白髪なのか?この時代のカツラなのか?史実の年齢としては40歳くらいみたいですけど、この時代の40歳って?というところもあって謎ですが、製作側もふわっとさせてくれてるのかな?髪型がめちゃくちゃ凝ってたのが最高~。

あと歌声も良かった!まあ歌うとこ少ないんですけど、1幕の「ヴィヴァ~」響き渡ってましたよね。あのうしろに「VIVA」って文字が浮かび上がってたのはシュールギャグとしての、くそこん……と思って笑ったのですが、1幕最後あたりかなんかで「M」(モーツアルト?)「P」(ポンテ?)と浮かび上がってたのは「もしかして本気の演出だったのか!?!?」と思ってビビりました。ど、どうなん???笑っていいとこですか??気づいた時あまりにもダサくて泣いちゃった。あの光る文字背負って許されるステージってマツケンサンバくらいだと思うから、あれがしっくりくるサリエリ先生のソロはマツケンサンバ的存在なのかもしれない。

こういうやつ

しかしサリエリ先生、1幕と2幕、別人……とまではいかなくとも割とキャラ変わってませんか?インタビューとか配信とかで相葉さんも悩んでるのかな~って感じましたし、間を埋めるために努力してるとは思うんですけど、普通にキャラ変してないか??と思っちゃう。それでももともと好きな方が2幕を見た人が「まっすぐなサリエリ先生を演じてもらって良かった」と言うならいいなという気持ちもあります。2幕ではダ・ポンテにも助け舟を出してあげたりしてるし、後進のために行動しているけど、1幕では興行の失敗をダ・ポンテに押し付ける人物として描かれてるわけで、実際に生きてたらそういうこともあるかもしれんと思いつつ、そこが補完されるような作品でもないので、普通にキャラ変感がありました(相葉さんは悪くない)。

あと1幕最後に意味深にしてたの特に2幕に生きてこないけどなんだったの?なんか制作過程で変更ありましたか???舞台に出てくれればくれるほど嬉しいのですが、1人のキャラクターとしてつながってるように見えない作りにされてるのが、いやだ~~となるとこはある。とはいえずっと楽しそうな様子を見せてくれるのはいいですね。とにかく元気があり余ってる感じ。それはそう。

・全体への感想

この作品全体に対しては、個人的には歯切れが悪くなっちゃう……。丁寧に作られてて、伝えたいこともやりたいこともわかる、ジーンとくるシーンもある……のになんだかしっくりこない不思議な作品です。まあそもそも私は「偉人の一生を辿る作品」があんまり好きでないので、そういう個人の好みもあります(設定捻ってたり、テーマでまとめてたりするのは好き。つまりフィクションとしておいしく仕立ててほしい)。あと舞台のテンポが、自分の心地よいテンポ感とあんまり合わないかも……。シーンも「一方その頃」で転換するのが続く感じで、バラバラな連なりに感じてしまうんですよね。

また今回、けっこうキャストがインタビューでいろいろ懸念してるなというところもあり、それがすべて当たってる!ともなる。全部を追ってるわけじゃないですけど、たとえば『オペラを作るくだりなどで、「作る」→「だめ」→「作る」→「できた。よかった」というような事実関係ばかりが連なりかねない、 ということですよね。』(アイデアニュース)とインタビュアーに言われてたのを読んで、嫌な予感したら本当にそうだった。たぶん質問してる方は事前に戯曲読んでたからこういうこと言ったんでしょう。
ほかにも青野さんインタビューで「堅い話ではあるし、音楽劇なので、楽曲で話が進んでいくというより、心情の説明を音楽ですることが多く、ミュージカルを見慣れている方からしたら、少し停滞しているように見えるのではないかとか。」→停滞してたよ!!てか停滞してるように見えるのを危惧するってよっぽどじゃないか?
パンフの座談会で、平間「すごくイライラしてるのに、音を聞いたら『今、穏やかな気持ちなんですね』と思われかねない。観る側も裏の感情を読み取るのが大変かも」八十田「もっと感情的に歌い上げそうなところ、そうなっていないと言うものが多い」(略)相葉「ゆったりした流れの中での感情の出し方が僕らも課題になって来そうですね」→見る方にとっても課題だったよ!!曲もなんか昭和歌謡だし……。
ま〜でもどうにもできないですよね、しょうがない。

個人的には、今回演出されてる青木豪さんが関わる作品でこれまで見ていたのが『IZO』『鉈切丸』(脚本)、『MOJO』(演出)、音楽劇『マニアック』(脚本・演出)というラインナップだったから、けっこうバンバン人が殺し合うような作品やる方というイメージがあったというのがありますし、事前の想像と違ったみたいなところもあったのかもしれません。脚本の方も何作か見たことあるなって思い出はありますが、あんまり舞台はされてないんですね。副題が「~モーツァルトの影に隠れたもう一人の天才~」だったし、物語の入りが「知られざるモーツァルトの話とは」みたいなところだったから、歴史ミステリー的な味があるのかと思ったら、特に何もなかったのでズコーになったところもある。あとやっぱ比較的若いカンパニーだと思うから、もっとイケイケな作品が見たかったな~という気持ちもデカいです。でも、そもそも平日マチネが主なスケジュールだし、こっちが勝手に想像してたのと狙いが違った作品だったのかも。

ちなみに1番もったいない感じがするのは、ダ・ポンテの回想という枠組みかもしれない?別にその枠組み自体はいいと思うんですけど、なんかうまくはまってないような……回想物語でありながら、視点人物のダ・ポンテが知らないだろうことがバンバン出てくるので、けっこうつっこみながら見てしまいます。割とこういう話って、その手のツッコミを回避するために、もうちょっと神の視点に近い語り手を設定することが多いんじゃないか?特にモーツァルトとコンスタンツェの場面は、よそのご家庭の会話を勝手に回想してんじゃないよ!とじわってました。

あと逆に、ナンシーが「モーツァルトとの話を全部聞かせて」みたいな感じで始めるのに、だいたいダ・ポンテ自分語りやんけ!オルソラの話とか「回想の回想入りまーす」だし、もはやモーツァルトとの逸話もなんも関係ないじゃん!と。場面としては好きなんですよ。でも物語の筋があっちこっちいくから集中できない。こうやってああだこうだ言うのが宮廷仕草と言われたらそうなんですが、まあ普通に金払って何回も見てる客だからいいでしょう……。

それから、最後モーツァルトとの思い出でいい感じに締めてるけど、時系列としては、コジ・ファン・トゥッテ作成(本編ラストシーン)→皇帝の死→ダ・ポンテ追放→モーツァルトとの決別……だから、ダ・ポンテは結局モーツァルトに暴言吐いたまま終わってるわけで、「老ロレンツォさん一言くらい謝っときなよ~!」と思ったりもします。しかもモーツァルト本人に散々「そんな生き方じゃダメだ!俺は諦めない!」(意訳)みたいなこと言っといて、現代パートでは「あのままだったらモーツァルトみたいに死んでた」とか言い出すし、その扱いモーツァルトオンリー担が怒るやつじゃない!?(何の心配だ)個人的には見れば見るほどもやもやしてしもて、なぜか「勝手にいい思い出ぶるんじゃね~!!」と怒りながら見てたな。私こそがモーツァルトオンリー担だったのか??ダ・ポンテがモーツァルトの生き方を「勝負から降りた生き方」(意訳)としながら、現代のダ・ポンテがそれを「死にいたるような生き方」としてることについて違和感というか急にゴールポストをずらされた気持ち悪さがあり。日常の尊さに気づいたダ・ポンテが、最後に会った時のモーツァルトの言葉をまだ理解できてないかのような描き方に「???」となってました。

ここらへんのシーンのつながりで言うと、ダ・ポンテとサリエリが「俺がユダヤ人だから」「そうじゃない、お前自身がダメだからだ」(意訳)とやりとりするシーンは、サリエリ先生が人種差別しない人に描かれててよかった~の反面、ダ・ポンテが作中で差別されてる表現を入れてるにも関わらず、最後に矮小化させる感もあって、なんだか難しいなと思ったところでした。正解は分かりませんが、それは作劇的に「差別ではなくお前自身の問題だ」でスカッとジャパンさせるところではないんじゃないかとは……。かといってサリエリ先生が差別してるのもイヤだが……。寡聞にしてヴェネツィア・ゲットーのことを知らなかったので、この機会に知ることができたのはよかったです。

ここのシーンもう少し掘ると、時系列的に「♪君は何をしてきた」の時点で、2人が「コジ・ファン・トゥッテ」制作でこじれてるわけで、ダ・ポンテくんはオペラ作成で揉めたにも関わらずサリエリ先生に助けてもらえると思っており、なんでやねんとなるのですが、別に2人に信頼関係があるわけではなく、この作品ではちょいちょい「この時点での観客の"知ってるレベル"に合わせてシーンを展開してしまう」ことがある気がします。連ドラ的だよな〜。オルソラの境遇が明かされない時点で、ダ・ポンテが父親について「18歳の嫁をもらうなんてあっぱれだよなあ!」と言うとこもそうですね。まあ男同士の会話ではいつもそういう感じで言ってるのかもしれないですが(それはそれでいやなリアルさ)。あと関係ないけど「♪君は何をしてきた」を聞くと「銀河鉄道999」とかとメドレーで聞きたくなる。「最高の相棒」は「この木なんの木」、「路地裏の女の子」は「まちぶせ」とメドレーね。

もっと言うと「♪君は何をしてきた」って、サリエリ先生がダ・ポンテに「自分は名前が残らなくてもいい、後進を育てる」「お前は自分のことしかしてないから名前は埋もれる」(意訳)つってて、どっちにしろ名前残らないんかい!!!ってなる。名前残るルートに行くにはどうしたらいいんすか?結局、後進を育てるでもなく自分のために拍手するモーツァルトの名前が後世に残ってるなら、元からの才能の有無でしかないってこと??

その他、ちっちゃな感想としては「セット動かす時ガラガラ鳴りすぎて会議室整える時感がある」「ダ・ポンテ、お前の詩は、それでいいのか…?」「フィガロの結婚MIDIバージョン(?)」「1幕の終わりこれ!?」「ピアノと共にスス…と流れるように履けていくモーツァルト毎回じわ…」「星の映像と共にFin(Fine?)が落ちてくる…そこは光る文字使わないんかい」などがあります。

でも本当に丁寧に作られているのも伝わる作品なんですよ。もっともっとヤバい公演なんていくらでもあるわけだから……。ただ作品が作品だから、それ(もっとヤバい作品もこの世にある)を救いにするのってめちゃくちゃ志が低いよな……と思ったりもして、正直作中のオペラ作りについての発言が全部ブーメランでは!?と思わされるのもなんかな……という感じでした。まあこれテーマがテーマだから、作品自体のハードルが鬼上がるっていう怖いやつでしたね。ほんとキャストはめちゃくちゃよかったよ〜。

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