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連載「なぜ地方で自民党が強いのか」①

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴って登場した「新しい生活様式」という言葉を聞くたび、切ない気持ちになります。

 ポストコロナの世界においては、まず生ビールで乾杯して口角泡を飛ばすおしゃべりで盛り上がってから2軒目の店でカラオケを歌いまくるーといった「旧式の生活様式」を二度と経験することはできない、のでしょう、たぶんきっと。
 感染防止対策をきちんと講じ、新ルールをきちんと守った上で似たような宴席が今後催されるかもしれませんが、旧式の世界の「無邪気さ」や「熱気」はもう味わえないのかもしれません。寂しいものです。

 コロナに触れずにいきなり本題に入るのはどうかと思いましたので、「時候のあいさつ」のような感じで、こんな書き出しにしてみました。

 本題に入ります。時事ネタに引っ掛けて何か書くことはないかなと考える中で、タイトルに掲げたようなテーマが思い付きました。

 長くなりそうですので、「連載」「①」と銘打ってはみたのですが、何回続きで終わらせるかは決めておりません。たぶん3回ぐらいになると思います。

 「どのへんが時事ネタにひっかかっているんだ?」というツッコミも想定されると思いますが、安倍政権の支持率、あれだけ不祥事や不手際が続いても、あんまり下がりませんよね。

 「過去最低の3割台に落ち込んだ」という報じられ方もしましたが、あんなことこんなことそんなことが山ほどあったのに3割の国民がいまだ「安倍政権を支持する」と回答しているのです。
 これはスゴいことです。不思議に思われている方も多いのではないでしょうか。

 安倍長期政権の秘密をピンポイントで探るといった内容ではありませんが、地方での自民党支持の底堅さが背景の一つにあることは間違いないと思います。この辺は、地方回りを長く続けてきた「意識低い系新聞記者」の得意分野でもあります。

 地方ではなぜ自民党が強いのか。大都市で生活する方たちには、理由がよく分からないのではないでしょうか。
 都市生活者の中には、地方出身で「オレは田舎の閉鎖的な権力構造は知っている」と自負するインテリ層の方もおられると思いますが、肌感覚で理解するにはやはり、社会人として一定期間を地方で暮らす経験をしないと難しいと思います。

 分かりやすさを優先するため、おおざっぱなまとめ方で進めていきます。

 まず、地方社会は流動性に乏しく、「カテゴリー(身分)」が固定されています。この辺がイナカのイナカたる所以ともいえます。

 生まれながらの金持ちである「資本家ファミリー」と、金持ちファミリーに使われる「労働者ファミリー」。農業者の場合は、広い土地を所有して手広く展開されている方は前者、大部分の中小零細の兼業農家は後者に当てはめることができます。
 その中間に、それなりに規模が大きい会社に務めるサラリーマンや市町村役場職員といった「ホワイトカラー」(ちょっと違和感がある言葉の使い方ですが、分かりやすさ優先であえて進めます)の三つのカテゴリーがあります。

 そして、地域のこうした「身分」構造や権力関係を熟知し、これら三つのカテゴリーを飛び回るのが地方の政治家です。

 資本家ファミリーに生まれた子どもは、都市部での英才教育や武者修行を経て地元に戻り、ファミリーの栄華を維持するため家業に勤しみ、地域の名望家としての道を歩み始めていきます。

 地方で圧倒的多数を占める「金持ちでないファミリー」出身の子どもの中には、学歴をつけるか、スポーツや芸術などの才能を磨くか、事業を立ち上げて当てるかしなければ、生まれ育った土地で「金持ちファミリーの使用人」として一生を終えてしまうーとの危機感を抱き、所属カテゴリーからの脱出を試みようという人も一定数出てきます。

 このうち、一番簡単かつ確実なのは、学歴をつけることです。

 そして、学歴をつけた地方出身の若者は、自分の苦労や身につけた実力に見合った報酬が得られる仕事を求める結果、故郷に帰ろうとは思わなくなります。
 数少ない例外が、医師や歯科医師、税理士といった免許を持った高度技能者です。弁護士ですと人口が一定程度いる地域でないと仕事が少ないので、一定程度の規模がある地方都市出ないとUターンは難しいでしょう。

 大都市部ほどドラスティックではありませんが、地方においてもこうした人の流動があります。一貫して転出超過ではありますが、ものすごく小さな転入もあります。

 こんな流動が何十年と繰り返されるうち、地方の社会はこんな構造になっていきます。今度は四つにカテゴライズしてみます。

①事業家、資産家といった「伝統的金持ちファミリー」
②免許を提げ地方で開業を始めた医師や税理士、自ら事業を立ち上げた起業家ら、①入りを目指す「新興勢力」
③市町村役場の職員や団体職員、一定程度の規模の民間企業に勤務する「ホワイトカラー」
④「伝統的金持ちファミリー」や「新興勢力」から雇用や取引関係で世話になっている「労働者・個人事業主」

 これまたざっくりとまとめますが、①はほぼ100%が伝統的な自民党支持、②も大部分が自民党支持層です。

 で、④は「①、②からの指示で自民党支持を求められる層」になります。2009年の政権交代の際、ぼくがいた地域の様子を振り返ってみると、④の大部分が自民党から離反し、②の多くも自民党に愛想を尽かしていました。

 ④としては、所属するコミュニティーのボスに逆らってまで野党支持に回るには、それなりの動機が必要になります。魅力的な(自分にとって利がある)政策なり、「ここでおれたちが一押しすれば自民党(が象徴する地域のボス)が倒れるんだ」といったワクワク感なりが。

 地方における非自民(野党)支持層は③だけです。そもそも数で劣っているのです。

 現在の安倍政権の不誠実さを追及していくことは、野党の役割として当然であり非常に重要ではあります。
 しかし、追及だけでは、既存の支持層である③の団結がより強まりはするでしょうが、④や②の層を巻き込む仕掛けとしては不十分なのです。(次回に続きます)


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