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ブタになりたかった息子のはなし

のんびり子育てを楽しんでいる。

勉強したくないならそれはきっと本人には向いていないことなんだろうし、みんなができることを出来なくたって、別にいい。他にできることがあるんだろうから。

ただ、宿題はやったほうがいいよって伝えてる。本人もそれはわかってる風。とはいえ、自分でも「なんでやったほうがいいんだっけ?」と思うことすらある。

正直なところ、宿題やりたくなければやらないでもいい、と実は思ってる。先生から叱られて困るのは本人なのだ。いや、もっというと困るかどうかもわからない。

もしかしたらこの子は叱られてもへっちゃらなタイプで、人からどう見られてもそんなに気にしないタイプかもしれないし。


以前アメリカにいた時、土曜日だけ日本人が通う学校に通わせていた。まだ幼稚園だったので、他の日本人と遊ぼう!くらいの感覚で、お勉強という感じではなかった。

その学校で担任の先生は日本人の典型例のような方だった。

「将来の夢を卒園式にみんなで発表しましょう!」という工作イベントがあったのだが、息子は当時「僕、大きくなったらブタになりたい。ブタになってお腹空いているお友達にお肉を分けてあげたい。」という他の人にはなかなか理解されがたいシュールな夢を持っていた。

それでブタの絵とともに「大きくなったらブタになりたいです。」と書いて提出したのだが、その日先生から電話がかかってきた。

「あの、〇〇くんがブタになりたいって書かれているのですが、これ他のご両親やお友達の前で発表すると笑われると思うんです。そうすると可哀想なので、変更してもらってもいいですか?」とのこと。

「笑われたらそれも経験だし、それでどう感じるかは本人次第だし、さらにそれでいじめるような環境であればその場所にいさせるつもりはないのでこっちは問題ないけどな〜」なんて思いつつも、「わかりました、他になにかあるか聞いてみますね〜。」と言って電話を切った。

息子にもう一度「ブタの他になにかなりたいものある?」と聞いてみる。そしたら「ブタがいい!!ブタしかいや!!」とのこと。

ブタに対する異常な執着心。こっちはもう笑えてくるのだが、必死にこらえて「そう〜、ブタがいいの、んじゃそれでいこ!」と先生にその旨を電話して伝えた。

先生は納得行かない様子だったが、本人がブタしかなりたくないのだから仕方ない。

ところが卒園式前日の夜、息子が悲しそうにこういってきた。
「先生が、ブタなんて職業はないから料理人になりたいって言って、だって。でも僕料理人なんかなりたくない、僕がなりたいのはブタなの!!」と。涙目である。

なんなんだ。彼は前世本当にブタだったのか。ブタに対する溢れんばかりの憧れ。恋い焦がれる眼差し。ブタ、LOVE。

そこで彼にこう伝えた。
「あのね、みんなの前でブタになりたいって言っていいんだよ。お母さんはとってもユニークで〇〇のアイデアが大好きだよ!」と背中を押した。

本気でそう思っていたのだ。別に、みんなに笑われてもいいじゃん。好きなものは好きなのよ。

自分の好きを抑えてまで人にあわせる大人にはなって欲しくないのよ。

ということで卒園式当日、教室のなかでいよいよ本番。みんなが「外交官になりたいです!」「警察官になりたいです!」「バレリーナになりたいです!」と答え親たちから喝采を浴びる中、息子の出番がやってきた。

めっちゃ緊張して自己紹介の声が小さい。先生に「はい、〇〇くんは大きくなったら何になりたいですか?」と聞かれると、息子は視線をあげてこっちを見てきた。

「お母さん、どうしよう?」そんな眼差し。

私は口パクでこう答えた。

「B U T A!!」

いけ、息子よ。ブタとなって思い切り羽ばたいてゆけ。

「僕は・・・大きくなったら・・・ブタになりたいです

ちっさーい声だったが、確実に「ブタ」と全員に聞こえた。

これまで親の拍手やにこやかな談笑であふれていた教室が、一気にしーーーーんと静まり返った。

私としては「息子グッジョブ」な気持ちで心の中でガッツポーズだった。

すると先生は慌てて「〇〇くんはブタになって、お腹がすいているお友達にお肉を分けてあげたいんだよね。」とフォローしてくれた。

すると、静かだった教室の中で、まっさきに誰かのパパが割れんばかりの拍手をしてくれた。

ちょっと興奮していた私も慌てて拍手を続けた。

あとはうすーくパチパチと拍手がまばらで、「ちょっと変わった子がいる」雰囲気になってしまったが私は一番大きな拍手をくれたこのパパに今でも感謝している。

全員にわかってもらう必要はないのよ。自分の好きを貫けば、ひとりくらいは「それ、いいね!」って言ってくれる人がいるもんなのよ。

その後日本人学校はこの子に合ってなさそうだなと思いやめ、日本にも帰国した。

あれから4年経った今、息子は毎日違うものになりたがっている。
もうブタになりたいとは言わないが、なんになりたいといっても「それいいね〜!」と肯定するようにしている。

お母さんの仕事、それは全力で子供の味方でいることだと思う。
ブタになりたいんだったら、なっちゃえばいいのだ。
君は何にでもなれる。



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