ホンモノの男ヨシタツとは

ヨシタツとは、ホンモノである。

国士舘大学アマレス部1年在籍
正道会館ではチームアンディと共に練習
新日本プロレスを飛び出し、単身渡米
WWEでは、一躍世界で名前を知らぬスターに
首を故障し長期離脱
全日本プロレスに主戦場を移す活動

一見輝かしいように見えるが、ヨシタツはプロレスラーとして語られる時、失笑と共に語られることの方が多い。
デビューして15年、デビュー戦から試合を見ているが、今ようやくそれがホンモノなのだと知ることになるとは思わなかった。

【ヨシタツはしょっぱい?】

しょっぱい。
元々は相撲用語で、下手な奴という意味である。
つまり、プロレスラーとして、上手くないという訳だ。

当然、プロレスは勝負なので勝ちに向かう事が重要なファクターであり、そこに上手下手という概念がどこに介在するのか。
例えば、最初に背中を攻めて、相手が痛めたのであれば、そこを狙うのはセオリーだ。
あるいは、自分のフィニッシャー、必殺技になる技が頭を痛める技なら、頭にダメージを集中させたり、その技を絶対に食らわせるために動けなくなるよう足を先に攻めるのが定石だ。
もしくは、試合の流れが自分に傾いたのなら、一気呵成に攻め立てるべきだろう。
下手なレスラーは、これが分からない。

厳密な話をすれば、お客さんの盛り上がりを読みながら、何を出すのかを組み立てる力というのが必要なわけだが、昔からヨシタツには奇跡的なまでにこれがない。

自分では一生懸命なのだが、空回ってバタバタしたり、耐えて爆発すべきところで行かなかったり。
これはもうセンスと言わざるを得ない。

ヨシタツの同期は中邑真輔がいる。もうセンスの塊のような男で、最初こそ総合色が強かったものの、非凡な動きとプロレスファンの心を分かりきった言動、行動でファンを掴んだ。ヨシタツにはそれが無い。いつもどこかでズレてしまうのだ。

今、ヨシタツポイントという謎の活動をしている。どのタイミングでポイント付与され、何が起きるのか誰にも分からないし、まるで春のパン祭りだと言われている。他のレスラーも突然言い出した話を白けた目で見ている。新日時代にもBULLET CLUBハンターを名乗ったが、何も発展せずに終わった。何かを仕掛けるがズレてしまう、それこそがヨシタツなのだ。

【折れないハートの源流は学生時代にあった】

とかく何があっても折れぬ理由が、今月発売されたプロレス雑誌KAMINOGEのヨシタツインタビューでついに分かったのだ。

これまでにも、元々、正道会館の空手やキックボクシングの経験があり、国士舘大学で4年時に1年だけアマレス部にいたなどの怪奇情報はあったのだが、このインタビューではその辺りのことが明かされていた。

・地元のキックボクシングのジムに通っていた
・新日事務所に電話して、新弟子になりたいと伝えるも断られる
・政治系の学部に入ろうと国士舘へ
・大学在学中に正道会館での練習に明け暮れ、チームアンディとも練習
・大学の就職センターでレスラーになりたいと伝え、アマレス部を紹介され、見に来ていた永田から1年だけアマレスやってこいと言われる
・新人戦では、ロクにレスリングも出来ないから、ムエタイ風のアップライトスタイルに構えて、会場をざわめかせ、ヒクソングレイシーばりの前蹴りフェイントからポイントを奪う

もう語られるエピソードの全部が如何わしい!

本人は強くプロレスラーになりたいと常に思っているのに、浜口ジム(内藤哲也などレスラー志望者はアニマル浜口のジムに行くのも一つの道)に行くでもなく、ずっと立ち技の練習をして、大学の就職センターにレスラーになりたいと相談する辺りが、もう常人の行動ではない。

レスラーというのはトンパチ、ちょっと頭が変な奴が多いとはよく言われるが、ヨシタツのそれはホンモノだ。

レスラーになるという気持ちだけを諦めず、新日に入った後の練習も正道会館での練習の方がキツかったので大丈夫だったと語るなど、色んなものをかけ違えたまま突き進んできてしまったのだ。

WWEに行った時もそうだ、これ以上ここにいても俺は上に行けない、もっと中邑や棚橋の上に行くために俺は海外に行くと言い出した。誰もがセンスのないヨシタツ、いや、山本尚史がコネもないのに単身渡米して何ができると思ってたのに、潜り込むようにWWEでデビュー、全世界でグッズが飛ぶように売れるようなスターになったのも、でたらめだ。しかも、帰ってきても、プロレスは上手くなってなかったのも含めて!!

とにかく折れない心というのは、ポジティブだからではなく、ズレていることを理解していない盲信さが生む狂気が生み出していたのだ。

【ヨシタツは何故レスラーを続けれる?】

ではなぜ、ヨシタツがレスラーを続けれるのか。もしかすると、それは彼が師匠と崇める男に答えがあるのかもしれない。

WWE所属時、ヨシタツはクリスジェリコに相当のアドバイスをもらったり、どうあるべきかという教えをもらったと話している。ジェリコが来日する度にバックステージに会いに行ったり、食事をしていることから親しい仲であることが伺える。また、ジェリコのオリジナル技も本人から許諾を受けてると言って使用しているが、これについては真偽が分からない。

ジェリコというレスラーは特別なレスラーである。世界で初めてWWEの2つのブランドのベルトを同時に巻き、若い頃には文字通り全世界を旅してプロレスをしてきた。
ロックバンドの活動と並行し、好きな時にWWEのリングに戻ることが許されており、試合に負けたとしても、クリスジェリコというブランドには傷がつかない。
むしろ、負ければ、口汚く相手を罵り、フラストレーションを顕にすることで、レスラーとしてストーリーを拡大することに最も長けた、世界で一番プロレスの上手い男と言っても過言ではない。

ヨシタツは自らがジェリコのプロレスを受け継いでると思っているのではないか………確かに今の日本マットでWWEにかつて所属し、トップと同じだけのセールスを稼いでいたレスラーなんてもはや武藤敬司以外には存在しない。
例え負けたとしても、自らの経歴に傷がつくわけでもなく、ファンに応援される他の選手から見ると邪魔な存在であるということに活路を見出している。
ヨシタツポイントというのも、実は、ジェリコがやっていたリストオブジェリコ(ぶちのめしたい相手をリストアップしていくというジェリコの持ちネタ、実際に常にバインダーを持ち歩いている)から来てるのだとすれば合点が行く。

ただし…………ヨシタツでのWWEの活躍は、日本ではWWEの地上波中継もなく、プロレスそのものが下火の時代で日本国内にあまり伝わってもいないし、ジェリコのような試合センスも、ストーリーのセンスもなく、とかくズレてるからしょっぱいのだ。

しかし、時折勝つのだ。186cmという日本人では比較的高身長、無駄な脂肪のない体は鍛えられている。試合は上手くないのだが、舐めてかかると負けることもあるから油断が出来ない。つまり、ヨシタツ自身は勝てば何が起きた!?と驚かれ、負けても価値が下がらない無敵の人と化してるのである。

古くから見ているプロレスファンの中には、ヨシタツが再ブレイクするにはどうしたらいいか、という話を半笑いでする風潮があるが、もしヨシタツがホンモノなのだとしたら、彼は動けなくなるまでレスラーで居続けるのではないか。エースやチャンピオンになるというありきたりなレスラー像ではなく、負ける事のできるプロレスラーを今、ヨシタツがやっているのだとすれば、団体にとってそれほど都合のいい存在はいないのだ。

いや、プロレスセンスのない男がそこまで計算しているとは思えないので、この話はここまで。

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