Koki GOTO(後藤 航己)

Koki GOTO(後藤 航己)

マガジン

  • 配達日記

    新聞配達をしながら学生生活をしていた頃の日記です。 「自由」をもとめて時速30㎞で生活していました。

  • ふじうみのおと

    伊豆高原で「リゾートバイト」をはじめたころの記録です。 何かが始まるまえには「予感」がするもので、その「予感」を描きました。 物語がはじまる「予感」を、ぜひ楽しんでくださいませ。

最近の記事

帰りの海

「順番」が違うほうが、面白いこともある。       五島美術館の門をくぐった。 門をくぐったとき、消防で働いていたときに予防査察で訪れた「寺」のことを思い出した。   隊長と査察を終えたあと、近くに止めていた消防車に向かって歩いていた。 それは「帰り道」だった。 二人で鳴り響く蝉の鳴き声を聴きながら、「でけー寺やなぁ」とかなんとか言いながらくぐった門。 その門の先には、「帰りの方向」から見ると海が見えた。     消毒と体温検査を済ませてチケットを買っ

    • 金木犀の匂い

      2023.07.01       今日はチェックインの練習をした。 ちょっと不快な体験だった。 ちょっと不快で、面白い体験をした。   新しい仕事は旅館のフロント業務だ。 これまで旅館の仕事をしたことがないばかりか、接客業すら初めてだ。 人と接する仕事がやってみたかったから、楽しみだった。   チェックインをするカウンターがあるスペース。 ここでは「帳場」と呼んでいるらしい。 昔の旅館用語みたいだ。 その帳場の玄関の横に、金木犀の木があった。

      • 鳳蝶の注文

              朝の9時半ごろだった。 簡易書留で送る予定の封筒を片手にもちながら家から郵便局までの道を歩いた。 ピンピンに晴れた住宅街を歩いていると小学生のころにテレビでやっていた「ビフォーアフター」を思い出した。 引っ越したばかりの時期はまだ通ったことがない道を歩くのが楽しい。 「未知なる道」は、”近所”にもたくさん散らばっている。    郵便局をでて駅に向かった。 駅前の通りを歩いていると、「鳳蝶」が並んだ店の前をヒラヒラと舞っていた。 右手の通りに沿

        • ガラスの海

          2023.06.29       あさ、洗濯物を干していた。 ぼくの部屋はとなりのアパートに面している。 ベランダの物干し竿をかける「フック」は、となりのアパートのすぐ近くにあった。 その「フック」に、きのう届いた「洗濯用ロープ」を結んでとりつけた。   家と家のスキマにロープをかけながら「このジメジメした薄暗い”隙間”で大丈夫か」と、ちょっと不安に思った。 不安に思ったけど、他に取りつける場所はなかった。 ここで生活するのが運命なのだ。飲み込むしかない

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        • 配達日記
          13本
        • ふじうみのおと
          13本

        記事

          野狐禅

                今日は3時間睡眠だった。 短い時間だったけれど、心地よい目覚めだった。 目を覚ましてすぐ、シュタイナーの『いかにして超感覚的世界の認識を獲得するか』を読んだ。 「目覚めのあと」の時間の重要性を強く感じている。 シュタイナーの影響だ。   ふかふかでポカポカな布団を畳んで読書をした。 引き続きシュタイナー。 本を読むことも瞑想なのだと諭してくるシュタイナー。 いつか会ってみたいな(ジョークですよ)。     昼過ぎに西小山の「小さかった女

          あじさい祭り

          2023.6.28       新しい家で初めての朝をむかえた。 4時半ごろ、太陽の光で目が覚めた。 窓の内側には「障子」がはってあった。 その白い紙を光が通過して、ぼくの寝床に太陽の熱を届けていた。   気持ちが澄んでいた。 陽の光で目覚めたあと、すこしヨガをした。 自然に朝が始まったからか、これからの生活に期待が持てた。   気分があがってワクワクする感じではない。 静かに何かが進んでいくような感覚だ。 線香花火をしているときの、あの静かで心

          あたたかい潮

                武蔵小山のタリーズでデカフェを飲みながら『意識のターニングポイント』を読んでいた。 本を読みながら「心のなかに隙間をつくって生活しよう」と思った。 「心に余裕を持つ」というよりも、「心に隙間をつくる」と言ったほうがしっくりくる。 ちょっと言葉を変えるだけで、意識への届き方がかわったりする。    タリーズを出たあと、近所の公園にいった。 園内を歩いていると、若い夫婦と3歳ぐらいの男の子とビーグル犬が歩いていた。 なんだか幸せそうだなぁと思った。

          コーポイチモリ

          2023.07.27       バスにのって新しい職場にむかった。 指示された時間に待っていたのだけど、その時間が20分ほどはやかったらしい。 バスの運転手のおじちゃんに「あらっ、はやいねぇ」といわれた。 「本来の時間」とはちがったけれど、はやい分には問題なさそうだった。 ぼくは何事も先走りがちだ。 「新しい場所」にきても、”はじめの一歩”から先走ってしまった。   駅の近くには、川があった。 海までまっすぐに伸びた、穏やかな川。 海までもうすこし

          ポリッピー

          伊豆高原駅についた。 海岸沿いをはしる電車のなかで眠ったり目覚めたりをくりかえしていた。   窓際の席にすわっていると日差しがさしこんできてあつかった。 暑くて窓からはなれたかったけど、景色をみていたい気持ちが勝った。 結局、暑さと引き換えに景色をたのしんだ。 なんでもかんでも欲しがるのは自然に反するのだろう。   「No pain No gain」という言葉をずいぶん昔にLINEの”ひとこと”に設定していた。そのときのことを思い出した。 駅についたとき、新

          ヒカリエの箱ティッシュ

                日曜日の午後、渋谷駅にいた。 帰りのバスがくるまでに時間があった。 帰りの時間まで、バス停のまえの「渋谷ヒカリエ」で過ごすことにした。   ヒカリエの一階は香水の匂いがプンプンした。 このデパートの一階のすこし刺激的な香りは、何かに似ていた。   その刺激は、”寝ぼけ眼”で飲むコーヒーみたいだ。眠たい気分を覚ましてくれる刺激。 それは、あるいは別の何かにも似ていた。 カーテンの隙間から差し込んでくる光。 朝、布団の中で微睡んでいるときに差し

          ヒカリエの箱ティッシュ

          ピーチルイボスティ

          2023.6.27       チェックアウトをすませて、鎌倉駅へ向かった。 朝の鎌倉は、「通勤の人」でごった返していた。 鎌倉の古風な海街の雰囲気のなかに「通勤の人」がたくさんいるのが、なんだか面白かった。 街はおだやかなのに、そこを歩く人たちはせわしない。 でも、もっと遠くからみると、この”忙しなさ”もおだやかさに包まれているんじゃないかと思った。   たとえば自分が鳥になったとする。 鳥になって、上空100メートルくらいの高さからこの街を眺める。

          ピーチルイボスティ

          そばで感じる

               朝刊がトラックで運ばれてくるまで、股関節のストレッチをしていた。 朝の風はすこし冷たかった。今日はそれが心地よかった。   朝刊が終わって家に帰り、8時半ごろまで寝た。今日は、夜に寝たときも、帰ってから朝に寝たときも、夢を見なかった。 夢を見ずに起きたときはなんだかボーッとしている。   凧揚げみたいに空を舞って風に身をまかせていた。風が勝手にバランスをとっていた。でも、気づけば「雲のうえ」にいて、風が吹かなくなった。風の吹かない空でバランスがとれな

          Are you check in?

          2023.06.26       葉山港から鎌倉に戻った。帰りに七里ヶ浜に寄って夕日を見て帰ろうと思った。けれど、睡眠不足でエネルギーが切れそうだったので、まっすぐ宿にもどることにした。 ゲストハウスにもどると、受付にはラテン系の女の子がいた。全身にタトゥーが入った笑顔の柔らかい女の子。彼女に「Are you check in?」と言われた。 一瞬、どうやって答えるか迷った。やや沈黙があって、「あぁ、もう終わったよ!」と日本語で答えた。とっさに英語がでなかったので

          夢のような時間

              ゴールデンウィークが始まって配達ルートに新しいマンションが加わった。15階建の古いマンション。3時前にエレベーターをあがって15階にたどり着いて、街を一望した。 真夜中の街並みがそこにあった。眠っている生物の細胞みたいだった。粒々の光がまばらに煌めいていた。 チラホラとみえる赤い光。新聞を抱えて足を踏みしめながら、身体の血の巡りが頭の中に浮かんでいた。   若干睡眠不足で体が重い。 でも、気を配っていれば心は重たくならずにすむ。 そして、楽しい気分でい

          波止場のざわめき

          2023.06.26 マーロウを出て葉山港を散歩した。 港を歩きながら別野加奈の『宝石』を聴いていた。はじめて葉山港にきた日、家を出る前に「なにか新しい音楽を聴こう」と思って『宝石』が収録されている『forget me not』というアルバムをダウンロードした。 音楽と旅の記憶は結びつきやすい。むかし旅をしていたときに聴いていた曲を聴いていると、そのときの「旅の記憶」が感覚として蘇ってくる。その「旅の記憶」は日常の中に埋没してしまいそうになったとき、自分を救ってくれる。

          波止場のざわめき

          雨あがり

          今日の昼ごはんは、豚バラとキャベツと卵の炒めものだった。最初に豚バラを炒めたら、フライパンの底に油がビチャビチャに溜まった。「これはもはや揚げものやろ」なんてつぶやきながら、キャベツと卵をカリカリに揚げた。 自分で料理をつくると気持ちがスッとする。つくる過程で、食べものに対して「愛着」というか「親近感」みたいなものが自分の内側にうまれる。気持ちが”煮込まれる”みたいに、うまれる。 その「煮込まれた気持ち」も一緒に食卓に添えているような感覚になる。だから、余計においしく感じ