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日本の子どもの幸福度が最低レベルだと断定してよいのか?

「国際連合児童基金」(UNICEF: United Nations Children's Fund)は、9月3日、「レポートカード16」を発表した。このレポートには、ユニセフが20年にわたって継続しているプロジェクト「子どもの幸福度ランキング」が含まれている。

ユニセフが調査の対象としているのは、「経済協力開発機構」(OECD)・「欧州連合」(EU)に加盟する、いわゆる「先進国・新興国」に相当する38カ国である。

日本の順位

さて、日本の順位は、38カ国中で次のようになっている。

 〇身体的健康: 1位(子どもの死亡率、過体重・肥満の子どもの割合)

 〇精神的幸福度: 37位(生活満足度が高い子どもの割合、自殺率)

 〇スキル: 27位(読解力・数学分野の学力、社会的スキル)

つまり、日本の子どもは、「身体的健康」は第1位であるにもかかわらず、「精神的幸福度」は最下位から2番目の第37位という、非常にアンバランスな傾向を持つという結果が提示されている。

また、15歳時点での「読解力・数学分野の学力・社会的スキル」を合計した「スキル」分野でも第27位と、かなり低い。

結果的に、日本の「子どもの幸福度」の総合順位は、38カ国中で第20位と、中間よりも少し低い中位グループに位置している。

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さらに、このレポートによると、日本の「政策・状況」レベルは、第7位の「社会政策」と第11位の「経済状況」は上位グループ、第18位の「環境状況」は中位グループだが、他はすべて下位グループに位置している。具体的に、「教育政策」は第23位、「健康政策」は第34位、「社会状況」は第29位である。

結果的に、日本の「政策・状況」の総合順位は、38カ国中で第17位と、中間よりも少し高い中位グループに位置している。

「精神的幸福度」が低くなった理由

それでは、ユニセフは何を基準に「幸福度」を測っているのだろうか。その項目は、次の表に提示されている("Report-Card-16-Worlds-of-Influence-child-well-being," p. 9)。

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第1位となった日本の子どもたちの「身体的健康」は、「5歳から14歳の子どもの生存率」が非常に高く、「5歳から19歳の子どもの過体重・肥満の子どもの割合」が少ないことを示している。しかし、これらのたった2つの指標だけで「身体的健康」を測ったと「断定」できるだろうか?

一方、第37位となった「精神的幸福」は、「15歳から19歳の子どもの自殺率」が比較的高く、「15歳の生活の満足度」が他国に比べて低かったことを示している。しかし、こちらも、これらのたった2つの指標だけで「精神的幸福」を測ったと「断定」できるだろうか?

さらに詳しく見てみよう。次のグラフが「15歳の生活の満足度」の国別順位である。これを見て、読者は何に気付かれるだろうか("Report-Card-16-Worlds-of-Influence-child-well-being," p. 14)?

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最下位は、政治・経済情勢が非常に不安定なトルコである。その次が、日本、イギリス、韓国の順番になっているが、ここで注意してほしいのは、ここに並んでいる3カ国の「国民性・文化性」が、比較的「謙虚」だとみなされている点である。

読者が15歳だとして、「あなたは今の生活に満足していますか」と尋ねられたとしよう。大声で「イエス」と答えるだろうか? それとも控えめに「それほどでも……」と答えるだろうか?

実際に「イエス」と答えた日本人は62%、イギリス人は64%、韓国人は67%だった。それに対して、第1位のオランダ人は90%、第2位のメキシコ人は86%、第3位のルーマニア人は85%と圧倒的多数が「イエス」と答えているわけだが、これらの国々の「国民性・文化性」は、どちらかというと「楽天的」に分類されるのではないか?

ユニセフは、多くの国々を同時に比較するため、生存率や自殺率、同じ15歳に対するアンケート結果のような数値を基準にせざるをえない。その点は理解できるとしても、各々たった2つの指標で子どもの「身体的健康」や「精神的幸福度」を断定するという発想そのものが、少し短絡的過ぎるのではないだろうか?

むしろ、この調査で私が最も心配になったのは、15歳時点での「読解力・数学分野の学力・社会的スキル」を合計した「スキル」分野で、日本の子どもたちが第27位と圧倒的な下位グループに属している点である。これだけは15歳の学力を示す明確な指標であり、日本の義務教育に改善が必要であることを示唆していると「断定」できるレベルではないか!

日本語版は、現時点では次の「概要」しか公表されていない。「本報告書の日本に関する結果については、後日まとめてお知らせいたします」ということなので、ぜひ詳細な分析結果を期待したい!

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Thank you very much for your understanding and cooperation !!!