ケルイス

(Ys もしくは Is と綴られる。Ker は都を意味する)

沈める都イス。

コルヌアイユの王グラドロンは、亡きマルグヴェン妃の忘れ形見、ダユーを溺愛した。髪紅きダユーと称えられるこの王女は、海の上で生まれ、海の神秘の血をひく者だった。ダユーは海の傍にあることを望み、王はこれをかなえ、ひとつの都を建造した。この都は海岸の低地に堤をめぐらせ、セーヌ(ドルイドの巫女)とコリガン(小人)の力をかりて建造された。名は低き地の意でイスとされた。

ダユーの魔力のもと、イスは栄え、ならびなき奢侈と退廃の都となった。だが嵐の夜、水門からおどりでた濁流があっけなくこの都をのみこんでしまった。

「護りの水門の鍵を眠る父王のむなもとから盗ませ、悪魔が水門を開けたとも、酒に酔ったダユー自らが開けたとも言われている。ダユーは夜ごと男と伏しどをともにしては殺して海への供犠に投じたという。今も火の髪で、水の瞳で、おそろしい歌声で、黄金と玻璃で、誘うのだ」 ブルターニュ口承

イスは沈んだ。ダユーもまた沈み、沈める人々を統べる女王となった。マリー・モルゲーヌ、モールゲンなどとよばれ、いまなお船人を誘惑するといわれている。

イスの塔の窓々にはゆえしれぬ金の灯が零れ、路には多彩な色石がうち敷かれている。それらいっさいに水紋の白銀の網がかかり、まばゆく輝いている。隧道をなすアーチ橋の内壁、手摺、建物の扉、広場の飾り柱には、シレーヌ(人魚)、イポカンプ(海馬)、セルパン(海竜)などが彫り刻まれている。

Abaoue ma beuzet Ker Is
N'eus kavet den par da Paris
Pa vo beuzet Paris
Ec'h adsavo Ker Is

イス沈みてのち、パリにひとしき都なし。
パリ沈まば、イスふたたび浮かびきたらん。

パリはイスにおよばぬとて ParIs という、などとうたわれる。


ブルターニュのイス伝説を素材とする。

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