ワド・アズラト

アラビア語で青い川を意味する。

モロッコのリフ山系にある川。川床には青金石や藍銅鉱などの鉱石片がちらばり、空と水の区別がつかぬほどいっさいが青く見える。

一帯ではゆえしれず石の色がぬけることがしばしばあり、そうして透明になったものを鳥啖石とよび、アオイシクイドリの喰跡であるとする。


アオクイドリとアオイシクイドリの話

あるとき一匹のジンが、炎のようでもあり雪のようでもあるひとつの夢をもちきたった。ジンはその夢をリフの巨岩にしみこませ、うずめた。巨岩は呻り悶え、時をへて地中に張り裂け、千の石となった。湧き水とともに流れでたとき、石は見る者の目を穿つ青色となっていた。川床をころがり、まろむうちに、幾粒かから真青な鳥が生じてとびたった。これがアオクイドリである。

アオクイドリはしだいにふえ、万物の青を貪り喰い、水のごとくすきとおらせていった。やがてかれらは空も水も石も人の眼球も喰いつくし、しまいに共喰いをはじめた。最後に一羽が残った。この一羽をジンが殺すと、爆ぜるように世界に青がもどった。死骸の塵が流れた水の底の石から、ふたたび鳥が生じたが、その鳥は、その一色のほかもたなくなった石の青しか喰らわなかった。これがアオイシクイドリである。



モロッコのワド・ファルダを素材とする。



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