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大切な記憶を思い出すことができた

どうして、ああも熱中していたものですら、いとも簡単に忘れてしまうのだろうか。それは、忘れっぽい性質の話とか、歳をとった経年劣化の話とか、そういう話ではない。小さい頃は見えていた妖怪が大人になって見えなくなった、とかそういう話。

あんなに熱中していたのに、「ポケットモンスターパール」の次にやり込んだゲームだったはずなのに、今日の今まで少しも思い出さなかったゲーム、がろきちゃんの実家のどこかに眠っている。はず。

覚えなくていいことばかり覚えてしまった。友達グループでいるのにスマホばっかりいじってるやつはロクデモナイ。訳の分からないフリをして、回収しないまま、お調子者をスベらせるやつはオハナシニナラナイ。インスタで見たことない「#」を付けるやつはカカワラナイホウガイイ。とかとか。こんなことは覚えなくていい。友達グループでいるのにスマホばっかりいじってるけど、ロクデヨナクない人も絶対に居るはずなのに。そういう人たちも、今のろきちゃんは一緒くたにしている。あーあ、舌はどんどん鈍感になって、嫌いなものが減っていくのに、人当たりセンサーはどんどん敏感になって、嫌いな人が指数関数的に増えていく。

マッチングアプリを始めた所で、マッチすらしないという限界。なんぼ程も準備を重ねた作品は、結局吐き気するほどのダメ出しを食らって終わるという限界。ディズニーへ、男女入り混じった数人のグループで行くことができないという限界。四方八方を限界で囲まれたろきちゃんは、今日もその限界の範疇でもがき苦しむ。それを俯瞰するろきちゃんもいる。もう辞めてもいいんじゃない?と諭してくるろきちゃんもいる。限界なんぞを知らなければ、限界が可視化さえしなければ、ろきちゃんはもう少しだけ陽キャになれたかもしれないのに。

この24年はろきちゃんを良い人間にしたのか、良くない人間にしたのか、分からない。覚えなくていい事で染まり切ったような気がする、この24の魂は社会に飛び出してややもした同世代との乖離が圧倒的になりつつある今、かつての景色を欲していたのかもしれない。そんな中、ほんのわずかだが、あの頃に戻れた気がした。

だから、ニヤけてしまった。帰路歩くさながら、ニヤけてしまった。なんとも嬉しかった。これは絶対に思い出さなければいけない記憶だったから。誰とも共有できなくてもいい。ろきちゃんにだけ見えていた、あの最高のゲームは記憶の彼方にぶっ飛ぶ前に、どうにか捕まえることができた。限界も現実も知らない、みんな友達で、嫌いな食べ物で埋め尽くされていた頃の香りが鼻を掠めた。あのゲームについて思いを馳せながら、懐かしみながら歩くこの道程は、それはそれは最高過ぎて、ニヤけてしまった。

今日の一日は、あのゲームについて思い出すことができた、それだけでお釣りが返ってくるほどに価値があった。覚えなくていいことの隙間に光が差す限り、ろきちゃんはまともでいられるかもしれない。

追伸:そのゲームが何だったかはろきちゃんだけの秘密。言ったところで多分誰も知らない。それでいい。それがいい。

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