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とりあえず、ご機嫌いかがでしょうか?

「おつかれさまです。
 本日のご気分はいかがですか?
 頼みますよ。詰まったら、また、
 ぶん殴られちゃうからね。」

「ツーー…   」


だれとの会話かといえば、
かつてのバイト先の
プリンターとの会話である。


大学時代のバイトのひとつが、海千山千な猛者たちをサポートする仕事だった。

日本各地を飛び回り、政治、経済、文化様々なことをよく知るおじいちゃんたち。
こどもの頃に戦争も体験しているし、修羅場をくぐりまくっている。

とにかく、いろいろな話を聞かせていただいた。

「あそこの地域のあの店がうまい」
「あの観光都市はとにかく暑い。
 暑くてスズメが降って来るんだぞ」
「文書はリズム感が大事だ」
靴の中に唐辛子を入れておけば、
 だいたい大丈夫。
 大連でも凍傷にならなかった」

真偽を疑われるものも含まれたが、面白くてためになる(?)お話を聞かせていただいたと思う。たぶん……。

ただ、仕事に対してはピリッとするので、スムーズに進むよう、バイトが気をまわして動かなくてはいけない。

必要なものを運んだり、新聞を整理したり、タブロイド誌を優先的に渡してあげたり、プロ野球の試合結果を記録したり、大相撲の星取り表を書いたり……

で、冒頭のプリンターとの会話である。

パソコンやプリンターなどの管理も担当していたのだが、これが一番油断ならない。


「タンッ

 パンッ

 バン! バン!」


昭和初期の家電で慣らしてきたみなさん。

調子が悪けりゃ、ぶん殴って目を覚ましてやれ!
がデフォルトだ。


が、パソコンやプリンターたちは、繊細かつ合理的な解決法を望んでいる。


なので、猛者たちのドラミングが、バスドラ並みに重くなる前に救出しなくてはいけない。


まずは、
カチカチカチカチ……
とか、

ポチポチポチポチ……
とか、

マウスを連続クリックしたり、ボタンを連打する小さな音を聞き分けていた。

だか、謎に集中力を研ぎ澄ます中で、

「そもそも機械たちが、トラブルを
 起こさなければいいのでは?」

と思ったのである。

もちろん、新しい機材をカンタンに買っていただけるわけはない。
そんな権限を持たないバイトにできることが、機械との対話(付喪神に祈る)だったのだ。


出社したら静かにプリンターに手を添えて、半分脅し的なことを祈る。

ウソみたいだが、効果テキメンだった。

バイト間でも、
「機械トラブル少ないよな?」
となったので、機械との会話は成立していたのだろう。


さて、そんな古い話を、令和のこの時代に掘り返したのは、

わが家のテレビが不調だからだ。


昭和が煮詰まった世代のニンゲンは、なんとなく、テレビがついていてくれたほうが安心なのだ。
(虎に翼も見たいし。)


そんなわけで、とりあえず、
家族に見られぬよう、テレビに声をかけ続けているのである。

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