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エイリアンパニック「月の光」

ひとりで帰るのが怖かったが、何事もなく無事に帰ることができた。ここ半年ほど、学校での授業はあまり頭に入らず、集中力が持たない。勉強は嫌いではない。どちらかというと楽しくて好きなほうだ。そして、普通に勉強が人並みにできる方だと思っている。これはきっと気力の問題ではない。度々やってくるほんの少しの頭の中の喧騒が邪魔をして正常な判断や思考を難しくしているのだ。一時的に自分をおかしくしてしまったのだ、あの宇宙人が。例えとして宇宙人と言っているのではない。宇宙人が見えるのだ。でも、きっとみんなが想像するような宇宙人ではない。それは、ぼんやりとしていて形はない。その奇妙な塊が、脳を身体を心を変にしてしまう。高校生、高校生活というのは普通、もっとずっと楽しいものだ。それらを吸い取られ奪われているのだ。自分は何か悪いことをしたんだろうか。

日も落ちて暗くなった部屋で、窓の外からの月の光を僅かに感じながらひとり、布団の中で小さくなってそんなことを考えていた。まだ今日は終わっていない。今日も何も出来なかった自分が情けなくて、悔しくて、悲しかった。それでも、涙は流れてこなかった。もうずっと、悲しくても涙が流れてこない。唇に触れた目から流れた血液は、甘い味がしていた記憶がある。それももうどんな味が忘れてしまった。静かな部屋の中で時計の針が大きな音で動き、苦しい。暗くて小さな箱の中に閉じ込められたかのように思う。迫ってくるような秒針の音が怖くて時計の電池を抜いてからまた横になる。またあの宇宙人はやって来て眠らせまいとしてくる。今度は脳だけがうるさくなった。眠れなくても目を瞑る。目を瞑ることで恐怖を煽ってくる。その無限ループでまた今日も眠れずにカーテンの向こうからやってくる朝日を恨む。ずっと冬なら朝5時でもまだ外は暗く、朝がゆっくりやってくる。春が近ずいてきて少しずつ朝がやってくるのが早くなってくる。夏になると4時半でももう明るい。夜が短くて暑い夏は嫌いだ。あの宇宙人、というか、悪魔がやって来てからもう、1年ちょっとになる。限らた時間をどんどん食べられて吸い取られていっているようだ。もう戻ってこない1回きりの高校2年の3月は、こんなにも辛いのかと思いながら昨日、閉め忘れていたカーテンを閉めた。目を瞑りながら鳥が鳴く声、葉が風に揺れて鳴く声と、自分の血液が管を流れていく声を聞きながらやっと静寂を感じた。

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