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#23 CCRT【放射線治療+シスプラチンvol.2】でくぐった花輪と受け取った色彩のブーケ:Shared Decison Makingについて

告白すると、プランBを始めてからの4、5日が、一番辛い時だっかもしれない。「運命が変わる大事な節目」、として、純粋に信じている節分を経てもなお、夜間早朝に襲う痛みと高熱(日中はいろんなお薬が入っていて、あまり感じないだけだったようだ)が続いて、以前として血液検査の数値も悪い。CRPは22.5〜19.6の値をウロウロし、WBCも横ばい。(おっと、ここでのWBCは白血球のこと。どこまでも盛り上がって良いのは、みんなのWBC:ワールドベースボールクラシックだけだ!。そうそう、2023年の、ドラマ、ドラマ。ダルビッシュから大谷翔平という継投…。トラウトとの大勝負…、あの時、栗山監督は?、ベンチは、選手たちは、、という感動の舞台裏を窺える素晴らしい本を読んだ。ここに挟むと訳がわからなくなるので、文末にて!!)。
下腹部からの出血もあった。骨盤に巣食う、伊右衛門280ccペットボトルの直径サイズの「がん」が原因だということだけはわかる。

ぽろっと、弱音が出てしまったのもこの時だ。

これを読んでくだっている、かけがえのない、ワタシの愛する人たちにも、昨日の闇の濃度から、何をか感じさせてしまったようで・・・、反省。
だが、みんなが、温かいハグと、心に光りが射す言葉の花束を、たくさん、たくさん届けてくださった。愛してもらえるというのは、こんなにも心強いことなのか。たとえ今すぐに触れられなくても。

母は、いつも通りに来てくれて、私の見えないところで、たくさん心配していた。


この数日の絶不調は、「がんと戦う治療というのは、こんなに辛いのか…」を教えてくれた。
癌が死ぬか、自分が死ぬかと思わせる、悪魔の治療をするのなら、「がんと戦えるのは免疫だけだ!免疫を高めれば癌も消える!」と、祈祷やまじないに傾倒したり、壺を買ったり、魔法の水を買ったり・・・という人の気持ちが、ちょっと、、本当に、ほんのちょっとだけ、わかる気がしたのだ。

noteを始めるきっかけとして書いたけれど、ワタシが信念を持って選択する、確固たる検証と積み重ねを有する「標準治療」に踏み出せる人が、たとえ一人でも増えれば、、、なんて、まだまだがん患者初心者のワタシ、なんとまー、おこがましい事を書いたものだと、今となっては恥入るばかりだが、昨日になって、はっ、と気付いたことがあった。


2月8日木曜日、放射線投与(ワタシは核弾頭ミサイルと呼んでいる)はすでに6回目、同時のシスプラチン同時投与は2回目、という激闘の1日を終えた夜のこと。
体調が、いつもほど悪くない。痛みもコントロール下。ちょっと微熱、程度。食欲もある。その時に、ふと「元気が戻ってきた」という気持ちになって、ある気付きがあったのだ。

元気ですか〜? 元気が一番! 
元気があればなんでもできる!

アントニオ猪木…言わすもがな

という真理の言葉とともに、
標準治療」というのは、そのまま進んでいくと目的の「財宝島」に辿り着くという完成された「地図」ではなくて、先生や看護師、周りで支えてくださる人たちと一緒に作る「プロセス」のことであり、刻々と移り変わる戦場での「戦略マップ」のことだと、いう気づきだった。

例えば、確かに、ワタシの当初計画は頓挫し、プランBの緒戦は非常に辛く、お先真っ暗な気持ちを味わった。それは、ワタシの癌が、他の、過去の誰のものでもない、ワタシだけの生身の一例だったからだ。標準治療は、全て、過去症例から生成されている。


ただ、もし、わたしに昼夜寄り添う配偶者がいたとしたら。
あるいは、母が、もっと、過干渉で、医療のことをを知らない人だったとしたら(#6で少し触れたのだが、母は10代をバセドウ病と共に過ごし、運命を左右されたが、名医の執刀で元気を取り戻した過去がある)

その人はきっと、藁をも掴む思いで、いろんなものを探し回るだろう。特にスマホの中には、センセーショナル言説だらけで、、有名人の口コミや、怪しげな奇跡の治癒例やその方法などが、今だけ!貴方だけ!と書いた値段表にくっついて溢れている。平常心なら笑い飛ばせる筈の、壺だったり、まじない、お布施。

3日も寝ないで苦しめば(おそらく苦痛は、それを見る人にもまた耐え難い苦しみを与えるだろう)、辛いとこぼすヒトに、きっと、「もう頑張らなくていい、そんなに苦しまなくていい、他にこんな方法がある」と声をかけてしまうかもしれない。辛い治療の先にあるかもしれない、可能性のことは、全て、忘れて。


元気が少し戻ってきた、今だから気づけたことなのだが、治療方針は、示されるものではなく、医師と患者との合意に基づき、共有され一緒に遂行されるものなのだ。シェアード・ディシジョン・メイキング(Shared Decosion Making:共有化された意思決定)。院長先生のご講演の中で勉強させていただいた言葉だ。

これは、あらかじめ定められた計画の実行とは異なり、変動する現場に、現場に目を凝らし、徹底した観察に、今現在の判断を加え、超同時並列的に動いていく、まさに、榊原先生がおっしゃっていた、Prescriptiveな、処方箋的な戦術の積み重ねだ。それは、真面目なビジネスの現場で日々行われている事なのだ。
そこに、患者という当事者を巻き込み、ともに、日々の更新計画を走らせていく。
これは、トヨタのカイゼンのことではないか、、、このプロセスは、そういう創発的で、ダイナミックな戦略遂行のプロセスなのだ。

そう言えば、先の手術でも、当初の抗がん剤治療でも、此度のプランBでも、事前に、丁寧な治療計画の説明があり、書面には、それを選択した場合、およびしなかった場合の予想しうる帰結について、また、遂行中のリスクが、発生割合別に、詳らかにされていた。選択した治療にかかるコスト、奏功率、、、それを理解して上で、患者は、同意書にサインをする。
そうだ、ワタシもそうして、サインをした。

これを、インフォーム・ド・コンセント(十分な説明と同意)というのだということは知っていた。
が、それは、はじめの一歩目であって、その先の治療は、医療者と患者とが、共有する目的をもとに、共に歩いてくれる、というのが、この国の医療なのだ、と分かった。これを、国民皆保険で提供できる、強くて、優しい社会的共通資本を、これまで、多くの人々の献身で持って支えてきた、そんな歴史をもつ国が、日本なのだ。(ああ!宇沢弘文先生!!)

ワタシが、何度も宇沢弘文先生のお名前を連呼してしまうのは、遅まきながら、先生の哲学に、コテンパンに打たれてしまったからだ。2021年にノーベル賞の経済学分野学術賞を受賞した(厳密に言うとノーベル賞に経済学賞というのは無い!トリビア!)ジョセフ・スティグリッツが、ご自身が師とした宇沢弘文先生のことを、「宇沢先生こそがこの賞を受けるべき方だった」と言ったことはうっすらと記憶していたが、宇沢先生が、社会の何を正そうとされたのか、その意志を学ばせてくれたのが、こちら、佐々木実先生のご本。

これまた、素晴らしいことにオーディブルでも聴ける。

宇沢先生は、『自動車の社会的費用』の論文で、時の経済界から煙たがられたというような論評をいくつも見たけれど、それは、一つの見方であって、ワタシは実のところ、宇沢先生の先見性、先取性に、時代の誰もが追従できなかったと言うことではなかったか、と思っている。

手にするたびに、新しい発見が読み取れるのが、宇沢先生の、『社会的共通資本』。SDGs、なんて概念、日本には近江商人の時代から世の中にあったし、大切な価値観として共感されていたのだ。今、どれほど、保たれているかは、別として・・・。



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さあて、ようやく、WBCです(トートツ!)
2023WBC舞台裏はこちら。


でも、先行する『栗山ノート』こそ、おすすめの一冊。大切な気付きをたくさん貰えた本で、マーキングでボロボロになってしまった。
組織で生かせてもらっている自分が、組織に対して行うべき貢献とか、その業界、産業に対して、職責を果たすための自己鍛錬、と言うのを、改めて、勉強させていただいた。
早く、職場に戻って、役に立ちたい。


本日の写真…。
暗めnoteの唯一のお笑いにと選んだ、象さん花輪に温かい励ましをいただきましたため、調子に乗って第二弾。
こちらも、母と共に北上した、宮沢賢治巡礼の旅、2017年。小岩井農場にて。
難しい問題のいくつかは、ハグで雲散霧消する、と、今はとても、強く、信じられる。





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