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世界はここにある②

 僕はこの集団をさっきからずっと眺めている。全くもってこの子達がここにこれだけ集まって何をしているのか想像できない。見ている時間の分だけ疑問が増えていく。ゆうたと呼ばれた男の子の大人びた態度と口調、僕を怪しげと見た名前は知らない女の子。それ以外の子供らは?これくらいの(幼稚園位の)子供ならキャーキャーと好き勝手に喋る、動き回る。それが普通だと思う。僕だってそうだった筈だ。しかしこの子達は僕がこの集会に近づき様子を見始めてから、殆ど私語らしきものを発していない。整列しているとまでは言わないが、集団として纏まり何かの順番を待っているかのようだ。本当に親はいないのか?これだけ子供が集まっているんだから纏めるなり安全を確保の理由で大人がそれなりの人数いておかしくない。僕はその集団の周りをゆっくりと回って探してみるがやはり大人の姿は見られない。

 近所の人は?僕のようにたまたま偶然にこの集団を見かけて、同じ疑問を持つ人はいないのか?近くの家やマンションを見ても人影はみえない。僕とこの子達しかこの街にいないわけがない。いつもの人達が、きっとこの集団の中にもここに母親と来て遊んでいる子がいる筈だ。けれど僕の前で静かに何かを待つこの子供達は、そんな僕の常識は何の意味も無いと声なく語っているようだ。

 公園の反対側は低いネットフェンスで生活道路と区切られている。本当なら通り抜けられる反対側の入り口は子供達で一杯だ。集団を突っ切れば行けるのだがそれをする勇気はなかった。向こう側に出るには集団を迂回してフェンスの端の方を乗り越えるしかない。僕はなるべく目立たないようにそこまで低い姿勢で近づき、フェンスを乗り越えて道路に出ようとした。道路沿いの側溝の蓋の上に着地するとき、ガシャンと大きな音を出してしまい、子供らが僕に注目した気配を一瞬背中に感じたが、フェンス越しに伺った子供らの目は僕を追ってはいなかった。安堵した僕は道路沿いをやはり身を低くして集団のまとめ役のような子供の声が聞こえそうな所まで移動した。これではこちらが怪しいと言われても仕方ないかとも思える。

 その子供らは男女3人ずつ6人いた。服装はやはり制服のようだが幼稚園や学校の制服とは違う。胸にマークのようなものが付いていて上下共にグレーの作業服のようなおよそ子供らしい服装ではない。どこかで見た様な感じはしたが思い出せない。
 
 フェンス越しの安心感もあったのか、僕は子供達に確認させるようにフェンスにもたれ、堂々とその子達を眺めることにした。そうした方が何を話しているかも聞き取りやすい。別に僕は悪いことをしているわけではない。そう、この子らの方が怪しいのだと再度言い聞かせた。しばらく見ているうちにリーダーのような女の子が僕に一瞥をくれたが、すぐに話に戻りそれ以降僕を気にする様子はない。何を話しているのかは聞き取れない。声が小さいというよりは大人が静かに話しているように、少なくとも小さい子特有の甲高い声ではなかった。少し身を乗り出すもやはり内容は聞き取れない。もっと近くに行けば、何なら直に質問すればいい。さっきのように。

 その時、背後に人の気配を感じた。振り返るとダークスーツの男が4~5人近づいてくる。やっと大人が来てくれたと思うより先に、フェンスを背にする僕の逃げ場所がないように囲んでくる男達はこの子供らの親では無いと思い、少なからず恐怖を感じて動けなくなった。

「父兄の方ですか?」スーツの男達の一人が無表情に言う。僕は違いますと言ったが声が震えたのがわかった。
「では、少しお話を伺いたいのでご同行願えますか?」
警察か?僕はその瞬間少し恐怖が治まり質問に転じることができた。
「警察の方ですか?僕は怪しいものじゃないです。近所の住人ですけど、こんな小さい子達が親なしでたくさん集まっていて、なんの集まりだ…」最後まで言わせず男は言う。
「あなたには関係がありません。それよりもあなた自身のことを我々は調べる必要があるのです。ご同行ください」
「いや、ちょっと待ってください、僕は何もしていません。警察でもこれは無理でしょ。任意ですよね?協力する義務はないと思いますけど」
「それはご同行いただいてお聞きします。判断するのは我々なんですよ。おい、お連れしろ」
瞬間に男二人に両腕をつかまれ僕は身動きが取れなくなる。
「おい、離せよ、何もしてないじゃないか!おかしいだろ、あんたら警察じゃないのか?」僕は叫んだ、本当に警察ならいきなりこれは無いはずだ。

「桜木さん、そのお兄さんを放してあげて」
後ろから声がする。男が合図をすると僕はすぐに放された。後ろを振り返るとさっきの一瞥の彼女がいた。

「そのお兄さんは彼らとは関係ないようですよ。だから帰してあげてください」笑みを少し浮かべた彼女が言った
僕はひとまず助かった安心感と僕を拉致しようとした男達を一声で止めた彼女の、その涼し気な笑みに畏怖の念を持ち始めていた。


続く

 

エンディング曲
detune. / さとりのしょ



新連載です、宜しくお願いします。
突如目の前に現れた子供の集団。彼らのその目的は…?
「僕」は彼らに出会い、そして何を知るのか?
全世界の大人たちの取るべき道は?
全世界の子供たちの取るべき道は?

今、あなたに問う。

世界はここにある①


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