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ナツコ先生の憂鬱

 昨日の職員会議で、次年度のクラス担任の発表があった。ナツコ先生は2歳児クラスの担任になる。持ち上がりでもなく、希望していたクラスでもない。ナツコ先生は、4月からのことを思うと、ひどく憂鬱になった。
 希望していたクラスは持ち上がりで4歳児クラスだった。いっしょに4歳児クラスになりたかった。でも、今の1歳児クラスだって、とてもかわいい。今担任している3歳児クラスのきょうだいもいる。子どもたちはいいのだ。問題は保護者。1歳児クラスには、あの、るみちゃんの母親がいる。母親とかかわらなくてはならない。
 今年度、1歳児クラスの担任はよく泣いていた。「もう無理です」と園長先生に話しているのも見た。園長先生も本当に困っていた。

 ある日は、お迎え後に怒鳴って電話してきた。
 「いま、パパが帰ってきたけどさ、なんで忘れ物がないように持たせてくんないんだよ」
 パパのお迎えだった。パパは汚れ物を忘れて帰ってしまった。

 またある日は、迎えに来て我が子を見るなり、
 「セットした服と違うけど。頼んだこと、ちゃんとやってくんない?こっちは3人も子育てしてて忙しんだよ」
 るみちゃんはママがセットした上下は気に入らなくて、別の服を着ていた。
  
 ある金曜日、土曜日に登園したいといい、
 「ディズニーランドに行きたくて。久しぶりに。土曜だってあずかるの、当たり前でしょ? 遅番までおねがい」
 7:00に母親はみずいろ一色のおめかしして登園してきて、お迎えは19:00だった。

 他にもいくつもある。カッとなると口調も乱暴になり、召使のように保育士を扱う。子どもたちの前で怒鳴りもする。母親は不安が強いため、通院しているし、服薬している。るみちゃんがこのまま小学生になって、社会に出ていったとき、母親がるみちゃんのあしかせにならないほうがいい。だから母親を支援して、るみちゃんが困らないようにしたい、と思うけれど、かなり難しい支援だ。
 第三者委員の先生に相談したとき、園で怒鳴った場合は、警察を呼んでよい、とアドバイスいただいた。お客様は神様だ、ではなくて、子どもの今と将来を考えて接していかないと。疾病があるようなので、医療ともつながれるといいのだけれど・・・。
  
 次年度4月から、自分がこの母親を支援しないといけない。心が折れずにやり遂げられるだろうか。母親が暴言を吐いたとき、警察を呼ぶことになりますよ、と自分は母親に言えるのだろうか。
 自治体は、母親からの保育園や担任へのクレームや意見や相談には対応するが、保育園がこんなに困っていても、相談しても、園で解決してほしい、というスタンスだ。
 子どもの味方でいることと、母親ともいい関係を築くことと、葛藤したくない。母親と一緒に、るみちゃんの一番いいことを考えたい。なのに、今は、母親から自立しようね、とるみちゃんと決めて、逞しく強く過ごしたくなってしまう。でもそうはいかない。憂鬱なのはそこだ、たぶん。
 


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