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中国国防相の失脚を暗示した習近平演説

 私は趣味で中国情勢を分析しております。
 中国軍機関紙・解放軍報をだいたい毎日見ているので、日本の新聞に出ていない動きも知っています。公開情報ばかりでもつなぎ合わせると、パズルのように全体図が見えることがあります。

 今日は李尚福国務委員兼国防相(「国防部長」が正しい言葉遣いですが、日本で一般的な表現を使います)の失脚説について書きます。後半は、日本語では多分、全く報じられていない内容ですので、ぜひお読みください。

 李尚福氏は8月29日に北京で開かれた第3回中国アフリカ平和安全フォーラムで演説した後、動静が伝えられていません。

 報道を総合すると、9月7、8両日に予定していたベトナム軍との予定を「健康問題」を理由にキャンセルし、同月15日に北京で開かれた軍の日程なども欠席。その後、国慶節(建国記念日)関連の行事にも姿を見せず、米政府は「失脚した」と分析しています。李尚福氏は装備品調達の担当をしていたことから、関連の不正に手を染めていたのではないかという見方が強まっています。
 中国軍というのは不透明な組織ですが、国防部長は制服組トップの中央軍事委員会副主席(2名)に次ぐ地位で、外国軍との交流行事をはじめ、表舞台に出て活動するのが任務です。つまり、現職の国防部長が1カ月も姿を現さないのは異常事態と言えます。

 この夏、中国軍ではロケット軍(核ミサイルを担当する組織)のトップである司令官と政治委員(軍内の共産党組織トップ)が急に交代しました(中国軍では、作戦を実行する際、司令官が指示しても、政治委員が承認しないと身動きが取れないと言われるほど、政治委員は重要です。鄧小平も軍の政治委員出身でした)。
 これまで、ロケット軍は生え抜きがトップを務めていたのに、交代した二人は海軍と空軍の出身者。しかも、本来は司令官の方が政治委員よりも若干地位は上のはずなのに、中国共産党の序列を見ると、新任のロケット軍司令官はヒラ党員なのに、政治委員は中央委員(上位約200人)で地位が逆転しています。
 ロケット軍には最近自殺したと疑われる高官がいるほか、ロケット軍出身の魏鳳和前国務委員兼国防部長(つまり李尚福氏の前任者)も行方不明になっていると言われています。

 こういう流れの中で、李尚福国防部長の動静が途絶えているわけですから、何らかの不正を疑われ、失脚したと見て間違いないでしょう。
 李尚福氏は、共産党総書記と中央軍事委員会主席(つまり軍トップ)を兼ねる習近平国家主席の「お気に入り」と見られていました。
 習氏が2012年に最高指導者となって以来、権力基盤を固め、自分の側近や忠誠を誓う人物を要職に登用し、毛色の違う人たちは失脚したり、閑職に追いやられたりしてきました。

 そして、政敵失脚のために利用したのが「反腐敗闘争」でした。
 習氏の言うことを聞かない高官の不正を暴いて、次々と刑務所に送ったわけです。
 中国軍では出世するためには上司に賄賂を贈ることが常態化していたとされています。また、軍自らがサイドビジネスにどっぷりと浸かり、装備品の調達でもキックバックや贈収賄は日常茶飯事でした。習氏はそうした軍の在り方を改め、「戦って勝てる軍隊」の実現を目指していると言われています。
 ところが、ロケット軍を中心に旧態依然とした状態で腐敗が続いていたことを習氏が知り、一斉摘発に乗り出した、というのが大方の見方となっています。

 ただ、これだけでは腑に落ちないところがあります。
 国防部長の要職にいた李尚福氏は「習印」の代表格でした。
 最近、失脚したと言われている高官も皆「習印」です。
 習氏が掲げる反腐敗は、権力闘争における錦の御旗です。
 側近である李尚福氏らの「不正」は本来は問題にならないはずです。

 では、なぜ今回、問題視されているのか。
 単純に「悪いこと」をしたわけではないはずです。
 これまで失脚したのは、習氏にとって都合の悪い人物、忠誠を誓わない大物が大半です。
 そう考えると、説得力を持つのは、李尚福氏らが習氏にとって都合の悪い行動を取ったり、反抗するような行動をとったりしたのではないかということです。

 現状で、習氏にとって都合の悪い行動とは何でしょうか。
 指摘されているのが、①米国に情報を流した②台湾侵攻計画に反対したーです。習氏は、米国の介入を排除して台湾に侵攻することを夢見ているので、自分が引き上げたはずの子分が抵抗しているのを知って逆上しているのではないかと思います。
 相当な疑心暗鬼に陥っているはずですね。

 ここから先は中国軍機関紙・解放軍報に出ていた習氏の演説を基に分析していきます。
 興味を持たれた方はぜひ続きをお読みください。 
 

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