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母との食卓


作らなくなった献立
その1 煮豆

先日、デパートで催された「北海道物産展」に行ってきた。平日だというのに結構な人出で、お目当ての生チョコを買い、早々に帰ろうと出口に向かう途中、真空パックされた煮豆を見かけた。
母が好きだったので、よく豆を煮ていたけれど、うぐいす豆は原材料を見かけることが無かったので、この物産展で煮たものを買っていた。以前よく買っていた頃より、随分内容量が減ってしまっていたが、一つ買い求めた。

うぐいす豆は、実は私が好きな豆で、母は黒豆が好きだった。
黒豆、おたふく豆、白花豆、うずら豆、金時豆、大豆、紫花豆。
色んな豆をよく炊いた。
圧力鍋を使っていたので、たいした苦も無く煮豆が出来た。

母もよく豆を煮ていたと、以前、姉が話してくれたことがある。
たんぱく質が摂れるから、と母は言っていたそうだ。
「チャッ、チャッって、こうして鍋を揺すってな、上手いこと豆を混ぜてな」
姉は手振りを交えてそう言って、目を細めて笑った。

姉とは15の歳の差がある。私が8歳の時に遠方に嫁いで行った。
姉の話す家族の昔話を、私は全く知らなかったりする。

母が家からいなくなって、作らなくなった献立の一番は「煮豆」だろう。多分ただの一回も、作っていない気がする。
他にも作らなくなった献立がある。反対に母がいるときは作れなかった料理もあって、色々書こうと思っていたけれど、「煮豆」が思わず幅をとってしまった。
他は次回にしよう。

そういえば、母は黒豆を食べる時、よく「黒豆の煮汁を飲むと良い声になるらしいよー」と言っていた。そう言って、ふふ、と笑うのが常だった。
母と私の声はよく似ていた。あまり女性らしくない、低めの声である。母は自分の声について何か思うところがあって、それで小さく笑ってみせていたのだろうか。
聞いてみればよかったな。

久々に黒豆を煮てみようか、と思う。
黒豆の煮汁をたくさん飲んでも、鈴を転がすような美声には、ならないんだろうけど。
実際のところは、喉に良いということらしい。

追記

写真は、ガラケーに残っていたお弁当の写真。
晩ご飯を少し多めに作り、それがそのまま次の日の、職場での私のお昼ご飯になった。
彩りよく盛り付けて、上手くいったら写真を撮っていた。その頃の私の、ささやかな楽しみだったと思う。
うぐいす豆もおいしそう。

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