銀行法:銀行の休日に関する規制の緩和!?

本稿のねらい


2023年10月31日、金融庁は「銀行法施行令等の一部を改正する政令(案)」(本改正案)を公表し、パブコメを開始した(期限は同年11月30日まで)。

本改正案は、銀行等(銀行のほか信用金庫等が含まれるが、本稿では銀行のみに着目して説明する)の①「本店その他内閣府令で定める営業所」(本店等の一部の営業所)の休日承認要件の緩和と、②本店等の一部の営業所以外の営業所につき休日を新たに設ける際の手続を承認制から届出制への変更を企図するものである。

本改正案は少なからず銀行業務の規制緩和には繋がる可能性があるものの、上記②については一部規制強化に繋がるように思われること、また休日の設定や追加につき金融庁長官の承認が必要と考える根拠がないのではないかと思われることから、筆者としては本改正案そのままの内容には反対である。
(対案やパブコメ提出意見は後述)

なお、本改正案は、本年6月30日から同年7月31日までパブコメを実施していた「銀行法施行規則の一部を改正する内閣府令(案)」に続き、銀行の業務に関する規制緩和である。


現行銀行法における休日に関する規制


銀行の休日に関しては、日曜日のほかは、政令、すなわち銀行法施行令により定められている。

(休日及び営業時間)
第15条 銀行の休日は、日曜日その他政令で定める日に限る。
 銀行の営業時間は、金融取引の状況等を勘案して内閣府令で定める。

銀行法

銀行法施行令第5条第1項によれば、銀行の基本的な休日は、日曜日に加えて、国民の祝日に関する法律に規定する休日、12月31日から1月3日までの日、土曜日である。つまり、土日祝日+大晦日+正月三が日である。

銀行法施行令第5条第2項は、基本的な休日のほか、①外国に所在する営業所について当該営業所の所在地の法令により認められる休日(同項第1号・大蔵省告示第37号)、②銀行の営業所の設置場所の特殊事情その他の事情により、当該営業所の休日としても業務の健全かつ適切な運営を妨げるおそれがないものとして当該営業所につき金融庁長官が承認した日(同項第2号)、③銀行が営業所を設置する際に当該営業所の休日として金融庁長官に届出をした日(同項第3号)を休日として認める。

(休日)
第5条 法第15条第1項に規定する政令で定める日は、次に掲げる日とする。
 国民の祝日に関する法律(中略)に規定する休日
 12月31日から翌年の1月3日までの日(前号に掲げる日を除く。)
 土曜日
 前項各号に掲げる日のほか、次に掲げる日は、銀行の営業所の休日とすることができる。
 銀行の営業所の所在地における一般の休日に当たる日で当該営業所の休日として金融庁長官が告示した日
二 銀行の営業所の設置場所の特殊事情その他の事情により、当該営業所の休日としても業務の健全かつ適切な運営を妨げるおそれがないものとして当該営業所につき金融庁長官が承認した日
三 銀行がその営業所を設置する際に、当該営業所の休日として金融庁長官に届出をした日

 銀行は、前項第2号又は第3号に掲げる日をその営業所の休日とするときは、その旨を当該営業所の店頭に掲示しなければならない。

銀行法施行令

そして、銀行法施行令第5条第2項第2号の休日の承認を得るためには、同法施行規則第15条のプロセスに従う必要がある。

(休日の承認の申請等)
第15条 銀行は、令第5条第2項第2号の規定による休日の承認を受けようとするときは、承認申請書に次に掲げる書面を添付して金融庁長官等に提出するものとする。
 理由書
 令第5条第3項の規定による掲示の方法を記載した書面
 金融庁長官等は、前項の規定による承認の申請があつたときは、次に掲げる基準に適合するかどうかを審査するものとする。
 金融機関相互間の内国為替取引を通信回線を用いて処理する制度の運営に支障を及ぼすおそれがないこと。
 当該申請に係る営業所の顧客の利便を著しく損なわないこと。
 銀行は、令第5条第2項第2号の規定による休日の承認を受けたとき、又は同項第3号の規定による休日の届出をしたときは、次に掲げる事項を当該承認又は届出に係る営業所の店頭に掲示するものとする。
 令第5条第1項各号及び第2項第1号に掲げる日(第32条の2において「指定休日」という。)以外の休日
 前号の休日の実施期間(実施期間を設定する場合に限る。)
 当該営業所の最寄りの営業所の名称、所在地及び電話番号その他の連絡先

銀行法施行規則

なお、このプロセスは2018(平成30)年8月16日付けで緩和された結果である。つまり、同緩和以前は、銀行法施行令第5条第2項第2号の休日の承認を得るためには、当座預金業務を営んでいない営業所であること(平成30年改正前銀行法施行規則第15条第2項第3号)が必要であるとされていたが、それは削除され、その代わりに(?)、銀行法施行規則第15条第3項の店頭掲示義務が課された。

本改正案


本改正案では、主に銀行法施行令第5条第2項第2号と第3号を改正することが企図されている。

(休日)
第5条
前項各号に掲げる日のほか、次に掲げる日は、銀行の営業所の休日とすることができる。
一 (略)
銀行の本店その他の内閣府令で定める営業所につき、当該営業所の休日としても当該銀行の業務の健全かつ適切な運営を妨げるおそれがないものとして金融庁長官が承認した日
銀行がその営業所(前号に規定する営業所を除く。)の休日として金融庁長官に届出をした日

本改正案※太字部分が改正ポイント

(1) 銀行法施行令第5条第2項第2号(第2号)の改正ポイント

第2号の改正ポイントは、次の2点である。

  • 休日とする理由(事情)の不要化(規制緩和)

現行の第2号は2006(平成18)年4月1日付け改正2006年改正)により規制緩和された規定であるが、それは「銀行の営業所の設置場所の特殊事情その他の事情により」休日としても業務の健全・適切な運営を妨げるおそれがないことを要件として求めている。

※ 2006年改正前は「銀行の営業所の設置場所の特殊事情により、当該営業所の休日とすることがやむを得ない日として当該営業所につき金融庁長官が承認した日」とされており(新旧対照表)、「特殊事情」が求められていた点と「やむを得ない日」であることが必要であった点において現行の第2号より規制が厳格であった。

その他の事情により、業務の健全かつ適切な運営を妨げるおそれがないとは、例えば、営業所の立地条件(住宅街、オフィス街、商店街等)や顧客層(個人中心、事業者中心)等により、平日には利用者が少なく、休業しても顧客利便を著しく損なうなどの業務の健全かつ適切な運営を妨げるおそれがないことをいいます。(中略)
なお、「顧客の利便を著しく損なわないこと」とは、例えば、営業所に併設するATM等を休業する法定の時間帯に稼動させることや当該営業所の近隣の営業所で同様のサービスの提供が受けられることなどが想定されます。

2006年5月17日結果公表パブコメ(11頁)

つまり、現状は、いかなる種類の営業所であっても「設置場所の特殊事情その他の事情」を理由として、金融庁長官の承認を得て休日を追加することが可能であるが、本改正案では、その事情が問われなくなる。

なお、現状、いかなる種類の営業所でも事情さえあれば承認を得て休日を追加することができていたところ、本改正案では、本店等の一部の営業所以外の営業所は休日を追加することができないようにも見えるが、それは銀行法施行令第5条第2項第3号の改正により届出のみで休日が追加可能なように提案されている。(これがBETTER案でありBEST案ではない点は後述)

(2) 銀行法施行令第5条第2項第3号(第3号)の改正ポイント

第3号の改正ポイントは、次の2点である。

  • 対象となる営業所の限定(規制強化!?)

  • 届出による休日追加が可能な対象に既存営業所を追加(規制緩和)

そもそも第3号は、2022(令和4)年7月16日付け規制緩和(2022年改正)により導入された休日規定である。2022年改正の趣旨は次のとおりである。

今般の改正は、平日(の全部又は一部)に営業を行わない営業所を新たに設置する等、営業所の設置が多様化していること等を踏まえ、営業所を設置する場合における休日の設定と業務の健全かつ適切な運営を妨げるおそれとの関係については一義的には各銀行の経営判断に委ねることとするものです。

2022年7月15日結果公表パブコメ回答(No.1)

なお、2022年改正の際にも、届出のみで可能な営業所の廃止(銀行法第8条第1項)よりも営業所の休日追加の方が顧客影響が小さいはずであり、営業所の設置後においても、届出のみで休日を追加できることを検討してほしいとの意見に対し、金融庁は次のとおり回答していた。

今般の改正の趣旨は上記の通りであるところ、営業所の休日に係る手続きのあり方については、今般の改正の実施状況等も踏まえ、引き続き検討してまいります。

2022年7月15日結果公表パブコメ回答(No.2)

2022年改正による銀行法施行令第5条第2項第3号は、新設する営業所であれば、その営業所の種類を問わず、例えば本店でさえ、届出のみで休日を自由に設定することができると定めている。

他方で、本改正案によれば、届出のみで休日を設定することが可能な営業所は、本店等の一部の営業所(本改正案により改正が提案されている銀行法施行令第5条第2項第2号により、おそらく銀行法施行規則第15条に委任されると思われるがその改正案は出ていない〔謎〕)に限定されることになる。

つまり、新設する営業所のうち、本店等の一部の営業所については、届出のみで休日を設定することができなくなる点で、規制が強化されることになる。(上記改正ポイントの1点目)

営業所を新設する場合、それが本店等の一部の営業所であっても、その営業所が設置されない場面と比べて、土日祝日・大晦日・正月三が日のほかに休日があっても顧客の利便性が損なわれることはあり得ない(元々その営業所はないのだから)。

そのため、営業所を新設する場合においては、その営業所が何であれ、届出のみで休日を設定できるとする2022年改正による現行の規定を改める必要性は何一つとしてないと考えられる(規制を強化する立法事実が理論上存在し得ない)。

また、既存の本店等の一部の営業所につき届出のみで休日を追加できる対象から除外することについて、どのような立法事実があるのだろう。
上記のとおり、営業所の廃止(毎日が休日)ですら届出のみで可能であり(銀行法第8条第1項)、それよりも顧客影響が小さい休日の追加を承認制とする必要性が不明である。

※ 営業所(支店)の廃止にあたり必要な届出書の様式には、廃止予定日は廃止の日程を記載することになっているが、法令上、一定期間の猶予が必要であるなどの規制は置かれていない。

金融庁「申請書等様式集」37頁(別紙様式4-4の2)

したがって、本改正案を次のとおり修正(修文)すべきであると考える。

<BEST:すべての営業所につき新設・既存を問わず届出のみで休日設定・追加を可能にするパターン>

(休日)
第5条
2 前項各号に掲げる日のほか、次に掲げる日は、銀行の営業所の休日とすることができる。
一 (略)
銀行の本店その他の内閣府令で定める営業所につき、当該営業所の休日としても当該銀行の業務の健全かつ適切な運営を妨げるおそれがないものとして金融庁長官が承認した日
銀行がその営業所(前号に規定する営業所を除く。)の休日として金融庁長官に届出をした日

本改正案につき筆者が取消線を追記し修正(修文)

<BETTER:本店等の一部の営業所については承認制を維持するパターン>

(休日)
第5条
2 前項各号に掲げる日のほか、次に掲げる日は、銀行の営業所の休日とすることができる。
一 (略)
二 銀行の本店その他の内閣府令で定める営業所につき、当該営業所の休日としても当該銀行の業務の健全かつ適切な運営を妨げるおそれがないものとして金融庁長官が承認した日
三 銀行がその営業所を設置する際に、当該営業所の休日として金融庁長官に届出をした日
 前号のほか、銀行がその営業所(第2号に規定する営業所を除く。)の休日として金融庁長官に届出をした日

本改正案につき筆者が太字部分を追記・修正(修文)

他方、2022年改正時には既存の営業所については届出のみでは休日を追加することができなかったところ、本改正案によれば、本店等の一部の営業所を除く営業所については、既存の営業所であっても届出のみで休日を追加することができるようになる。

これは規制緩和であり基本的には歓迎されるものの、本店等の一部の営業所を対象から除外することの必要性が不明である点は上記のとおりである。(上記改正ポイントの2点目)

パブコメ提出意見


銀行法施行令第5条第2項第2号と第3号について

結論

銀行法施行令第5条第2項第2号と第3号を次のように改正することを提案します。

現第2号を削除。
現第3号を次のように修正した上、第2号とする。

二 銀行がその営業所の休日として金融庁長官に届出をした日

あるいは、次善の策として、銀行法施行令第5条第2項第2号と第3号を次のように改正することを提案します。

貴庁提案の第2号の修正は維持。
貴庁提案の第3号の修正を破棄し現第3号を維持した上、第4号を追加する。

四 前号のほか、銀行がその営業所(第2号に規定する営業所を除く。)の休日として金融庁長官に届出をした日

理由

2022(令和4)年7月の改正を経た現行の銀行法施行令第5条第2項第3号は、新設する営業所であれば、その営業所の種類を問わず、例えば本店でさえ、届出のみで休日を自由に設定することができると定めています。

他方で、貴庁提案によれば、届出のみで休日を設定することが可能な営業所は、本店等の一部の営業所(おそらく銀行法施行規則第15条に委任されると思われます)に限定されることになります。

つまり、新設する営業所のうち、本店等の一部の営業所については、届出のみで休日を設定することができなくなる点で、規制が強化されることになると理解しています。

この点、営業所を新設する場合、それが本店等の一部の営業所であっても、その営業所が設置されない場面と比べて、土日祝日、大みそか、正月三が日のほかに休日があっても顧客の利便性が損なわれることはあり得ないはずです(元々その営業所はないのだから)。

そのため、営業所を新設する場合においては、その営業所が何であれ、届出のみで休日を設定できるとする現行の銀行法施行令第5条第2項第3号を改める必要性は何一つとしてないと考えられます(規制を強化する立法事実が理論上存在し得ないと考えます)。

また、既存の本店等の一部の営業所につき届出のみで休日を追加できる対象から除外することについて、どのような立法事実があるのでしょうか。2022(令和4)年7月15日に結果が公表されたパブコメ番号2のとおり、営業所の廃止(毎日が休日)ですら届出のみで可能であり(銀行法第8条第1項)、それよりも顧客影響が小さい休日の追加を承認制とする必要性が不明であり、十分に明確な説明が必要だと考えます。

なお、営業所(支店)の廃止にあたり必要な届出書の様式には、廃止予定日は廃止の日程を記載することになっていますが、法令上、一定期間の猶予が必要であるなどの規制は置かれていないものと理解しています。

そのため、理論的に考えれば、上記結論の上の提案がベストと考えますが、次善の策として、せめて現行の銀行法施行令第5条第2項第3号は維持すべきであると考えます。

以上

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