とある会話から生まれた物語ー07

『包丁と人参』

包丁:何をそんなに怯えてるんだ
人参:…
包丁:怖くて声も出ないのか
人参:う、うるさい!早く煮るなり焼くなり好きにしろ!
包丁:そんなに焦るな。まだその段階じゃない
人参:段階だと?
包丁:そうだ。
包丁:ところでやけに部屋が静かだとは思わないか?
人参:…確かに
包丁:お前以外のやつはみんな冷蔵庫に逃げて行ったよ
人参:そんな。玉ねぎ!玉ねぎはどうしているんだ!?
包丁:あぁ、あいつか。あの威勢のいい奴には少し手こずったな
包丁:まさか俺の部下が泣かされるとは…
包丁:だが今はあの鍋の中でトロッと甘くなってるだろうな
人参:た、玉ねぎ
人参:ジャガイモ!ジャガイモは!?
包丁:そいつなら、ほら、お前の後ろにいるさ
人参:…皮を剥かれて…芽まで取られてるだと!?
人参:ジャガイモを、ジャガイモを先に楽にしてやってくれないか
包丁:何を言っている?物事には手順があるんだよ
人参:だったら、私がジャガイモの代わりに何でもする!
人参:だから!ジャガイモは見逃してくれないか!?
包丁:さっきから何を言ってるんだ?
包丁:お前の命はこっちが握ってるんだぞ?お前の頼みを聞くわけがないだろ
人参:くっ!
包丁:ふふふ。そうだ、良いことを教えてやろう
人参:なんだ?
包丁:ジャガイモは見せしめだよ
包丁:お前の心を折るためのな
包丁:今回の計画、目的は何だ?
包丁:他のやつは知らないの一点張りだ。きっと本当に知らないんだろう
包丁:最後はお前だ。だが、お前は簡単には口を割らないだろう
人参:そのためにジャガイモが?そんな事の為に
包丁:そんなこと?なら今回の目的、話してくれるのか?
人参:それは…
包丁:言えない。そうだろうな
包丁:お前に1つ選ばせてやろう
人参:突然なんだ?
包丁:皮剥いてから切られるか、切ってから皮を剥かれるか
包丁:どちらがお好みかな?
人参:はっ!どっちにしろ切られるんじゃないか!
人参:私は何も吐かない!一思いに今すぐ切れ!
包丁:ほほぅ。皮を付けたままがお好みか。良いだろう。このまましてやろう
0:包丁、人参に切りかかる
包丁:ん?なんて固いんだ?まったく入っていかないだと!?
人参:ふふふ。自慢の刃もそんなものか?
包丁:余裕をみせているが、痛いのだろう?声を出していいんだぞ?
人参:ふっ。貴様こそ自分の刃をちゃんと見たらどうだ?
包丁:なんだと?
包丁:なっ!ジャガイモのでんぷんが固まって切れ味が落ちているだと!?
人参:刃の手入れを怠るとはなにをそんなに慌てていたのか
包丁:くそっ!
人参:うっ!ほら、もっと深くまで、刺しなよ
包丁:うるさい
人参:そんな鈍ら(なまくら)で刺せるならね!
包丁:うるさいうるさいうるさい!!
0:人参、切り刻まれた
包丁:はぁはぁ。
包丁:(部下に)後の処理は任せる。まな板は色が残らないように手早く洗え
包丁:あと、ルーを入れた後は焦がさないようにしっかり混ぜろよ
包丁:はぁ。結局なにもわからず終いか。
包丁:次こそは必ず尻尾を掴んでみせる


おしまい。

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