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不協和音

「次のバンドは、このバンドだい!」
1989年から放送されていた「いかすバンド天国」(通称「いか天」)というアマチュアバンド発掘番組で、相原勇がバンド紹介の際に放つ一言である。
この一言とダンディー坂野のようにバックスキップでステージからはけていく姿は当時名物となっていた。

この番組から多くのバンドがメジャーデビューしており、個人的にはBEGINに引き込まれた。ブルース曲である「恋しくて」はじめ、とても味のある曲であり、一時期ファンだった。
しかしながら、BEGINのようなバンドはこの番組にとっては異質で、ロックやパンクというジャンルのバンドが多かった。
この番組が放送したいてのは私が中学時代だった。それほど長く続いた番組ではなかったが、バンドブーム到来のトリガーとなったのではないだろうか。

私は中学の時点で勉強に対してのコンプレックスと嫌悪感があったため、勉強から逃げるようにスポーツや音楽に没頭した。
勉強の負荷のない高校を選び、バスケ部に入っていたが弱小過ぎて物足りず半年で退部し、ずっとやりたかったバンドをやるようになったのが、高校2年くらいからだった。
バンドブームではあったものの、私の身近なところでバンドやりたいという仲間がいなかった。ある日、地元の同級生が楽器屋主催のバンドコンテストに出ることを知り見に行った。
彼らは私がそこまで興味を持ってはいなかったハードロックを演奏していたため、演奏自体には何も感じなかったが、ただただバンドをしていることが羨ましかった。

元々、彼らは奥田民生が所属していたバンド「ユニコーン」のカバーをしていたが、キーボードを見つけられず、ギター、ベース、ドラムで演奏できるものということで、「Mr.BIG」をカバーをするようになっていた。
彼らはドラムの家のはなれにある納屋で練習をしていたが、その近所にあるベースの部屋に毎日たむろしており、気付いたら私も学校帰り、毎日そこに足を運ぶようになっていた。

4人のバンドだったのだが、そこに集まっていたのはベース、ドラム、ギターの3人でその3人はプロになりたいと考えていた。実は私も将来プロになりたいと思っていることを彼らに共有した。誰にも言わずしたためていた思いを人に伝えたのは初めてのことであった。
進学校に通い、3人のようにがっつりとバンド活動をすることができなかったヴォーカルに変わり、私がヴォーカルとなりそのバンドの一員になっていた。「ますかけ」相を持つ私の手はマイクを握ることになる。

はっきり言って、音楽的な好みは全くと言って合わなかった。ユニコーンもビートルズのような音楽性もあったが、入ったバンドメンバーのベースとドラムは、良くも悪くも好きなものしか聴かないという性格だった。
唯一ギターの男がハードロックとヘヴィメタル中心にいろいろ聴いていた中で、ベース、ドラムが気に入ったのがMr.BIGだった。
私は、歌詞やメロディーをじっくり聴くタイプでバラード曲とかが好きだったのに対し、バンドメンバー達は、曲の爽快感や速弾きのテクニック等に興味を惹かれるタイプだった。
実際、彼らはそれぞれのパートをしっかり演奏できていた。問題は私で、声を歪ませながらハイトーンで唄うというのが難しく、歌い上げることができない下手くそヴォーカルだった。
しかし、私はメンバーから咎められることはなかった。それは、彼らそれぞれのパートで見せ場があり、目立つからだった。ヴォーカルができようができまいが、彼らには関心なかったし、バンドとしてのまとまりいうよりは、見せ応えややり応え重視だった。

しかし、私は誰よりも「将来バンドで食べていくとしたら、このままではヤバい」と一人焦り、日々、自分なりのボイトレを欠かさなければ、不完全ながらも当時、ヤマハ主催の「Teens Music Festival」という高校生バンドコンテストの予選に積極的にエントリーした。
日本のバンドをカバーする高校生が多かった中で、バンドとしてのまとまりに課題がありながらもベースを中心に、難しいプレイをこなしているということで、予選を通過したのだった。
また、「ますかけ」相の私の手はギターを持たなかった日はなく、密かに曲を作り、高校3年時、全国大会の切符がかかる県大会に合わせその曲もメンバーに演奏させ、全国大会に選出されずも、「オリジナリティ賞」というものを獲り、テクニックではなく楽曲で評価を得たのであった。

バンドとして一生懸命練習したり、大会に出た結果を振り返ったりするほどのストイックさもなければ、音楽性の違いに意見を真剣にぶつけ合ったりすることなく、それなりの楽しさのみを感じて、バンドでの青春が終わることとなる。

それでも「将来4人でプロ」が合言葉だった4人中の3人が上京するも、高校時代とは違う専門学生、社会人、フリーターそれぞれの立場と住む場所の違いで、上京1年後には音信不通となっていた。

挿入ソング:


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