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未修に行くか、浪人してでも既修に行くか【ロースクール】

SNSなどで「ロースクールの未修者コースは良くない」「未修に行くなら一年浪人して既修に行くべき」という意見を見かけたことはあるでしょうか。現状、ロースクールの未修者コースに関する情報は少なく、こうしたSNSの情報が気になって、未修者コース進学をためらう人もいるでしょう。

そこで今回は、他学部出身の「純粋未修」である私自身のロースクールでの実体験や、実際に未修者及び浪人して既修者コースに入学した人への取材に基づき、どのような人が未修者コースあるいは浪人に向いているかの筆者なりの考えをご紹介したいと思います。「未修に行くか、浪人してでも既修に行くか」の判断に迷っている方は、ぜひ参考にしてください。(The Law School Timesライター)


なぜ「未修は良くない」と言われるのか

その理由としてよく挙げられるのは、未修者コースの留年率の高さや、司法試験合格率における既修者コースとの差です。未修者は「ロースクールを卒業する=受験資格を得る」こと自体が大変であり、かつ合格率も既修者とは大きな差があります。

データだけ見ると、未修者コースにに入学するよりも、浪人してでも既修に入学する方が、司法試験合格を見据えた際に良いのではないかと思えてくるかもしれません。しかし、未修者でも合格している人がいるのも事実ですし、既修者でも不合格になる人がいるのも事実です。

もっとも、純粋未修の私は「未修に入学して良かった!」と心から思っています。そこで、実際に通っているロースクール生の声を聞いてみました。

未修者コースの実態

私が入学して最初に驚いたのは「未修」なのに「法学部出身多くない?」ということです。私は未修の現状を知らず、「他学部出身者が入るコース=未修コース」と考えていたため、入学者の経歴が多様であったことに驚きました。

未修コースには大きく分けるとこんな人がいます。

①他学部出身の純粋未修者
②法学部出身の者(既修受験をしていない→ほぼ純粋未修と知識量同じ)
③法学部出身の者(既修に不合格→法律の勉強が②より進んでいる)
④社会人経験者

私は理系出身であり①に該当します。今回は未修の実態を知るために以下の方々にインタビューしてみました!

取材協力者
・Aさん(②:既修未受験/3年生)
・Bさん(④:社会人/修了生)
・Cさん(④:社会人/3年生)
・Dさん(②:既修未受験/修了生)
・Eさん(①:純粋未修/1年生)
・Fさん(③:既修落ち/2年生)
・筆者(①:純粋未修/3年生)
*学年は2023年度時点のものです。

◯未修者コース生に聞いてみた!

ロースクールを志望した理由

Aさん(既修未受験):周りが勉強している環境が欲しかった。自習室が欲しかった。
Bさん(社会人):法務部で働いていたところ、キャリアアップのため。
Cさん(社会人):3年間事務職として働いたところで専門職になりたいという思いが強くなった。
Eさん(純粋未修):将来、政治家のキャリアも考えているため。公務員より法曹を目指した。
Fさん(既修落ち):学部時代は部活で忙しく、会社法や訴訟法の勉強があまり進んでいなかったため、一度未修で学び直すということもありだと考えた。
私(純粋未修):理系で既修受験という概念がそもそもなかった。課題が忙しく、法律の勉強を両立することは考えられなかった。


既修者コースへの進学は考えなかったか

Aさん(既修未受験):大学4年の12月まで部活があったので間に合わなかった。翌年の予備試験を目指せば既修コースを目指して浪人しなくても良いと考えた。
Bさん(社会人):ロースクール進学を検討したのが遅く、既修コースの受験に間に合わなかった。秋の国立で既修を受ける選択肢もあるにはあったが、仕事を続けていたためこちらも勉強時間を確保できないと思い、結局受けなかった。
Cさん(社会人):思い立ったのが6月だったので、既修コースの受験に間に合わなかった。専門実践教育訓練給付金の給付を受けられるので、1年間未修で勉強するのもよいかと思った。
Dさん(既修未受験):学部を満喫したので、既修受験を考えなかった。
Eさん(純粋未修):法学部出身ではなかったので考えなかった。将来のキャリア的に焦って法曹になる必要はなかった。
Fさん(既修落ち):いくつか受験したが、不合格だった。
私(純粋未修):考えなかった。学部での課題・部活が忙しく、法律の勉強を両立することは考えられなかった。

未修者コースの良いところ

Bさん(社会人):(未修コースだけの良いところではないが)ゼミなどはロースクールに入らないとできないことだった。
Cさん(社会人):答案の書き方を、先輩が1年次に教えてくれる。どうしても手薄になりがちな民法の家族法、不法行為法、担保物権法、憲法の統治分野についてしっかりと授業で取り組み、試験を解くことになる。難解で躓きがちな刑法総論なども、かなり時間をかけて学習することになるので、きちんとカリキュラムについていくことさえできれば、盤石な基礎力を身に着けることができる。
私(純粋未修):多様な経歴を持つ友人が増える。インプットメインの授業なので、しっかりとこなせば2年次に合流する既修コースの人についていけるレベルに、1年間で達することができる。

未修者コースのデメリット

Aさん(既修未受験):1回の授業内容が多く、全体的に予習に時間がかかりすぎる傾向にある。
Dさん(既修未受験):未修者コースの中で経歴が違う(純粋未修・法学部出身、既修コース合格にあと一歩及ばなかったなど)。成績は相対評価であり、未修の中での競争が存在するのに、入学時点で大きく差がある。必ず留年者が出る成績評価システムであることから焦りが生じてしまう
Fさん(既修落ち):進級要件が高く、留年の怖さへのストレスが大きい。気づけば、司法試験合格のための勉強というよりも留年しないための勉強になってしまう可能性がある。
私(純粋未修):アウトプットをする機会が授業だけだとほとんどない。そうすると人によっては2年次のテストになって初めて論文形式で書くということになり、成績が振るわない場合がある。

未修者コースに進学して良かったと思うか?

Aさん(既修未受験):良かった。勉強する環境に自分を置けるため。宅浪は自分の性格には合っていない。
Bさん(社会人):良かった。既修より1年間余分に勉強のみに集中できる時間が取れたという意味で、未修で良かったと思っている。自分は働きながら勉強時間を捻出することは不可能だったと思うし、社会人がロースクールに進学するには勢いが大事(笑)だと思うので、未修者コースでなければそもそもロースクールに進学していなかっただろうと思う。
Cさん(社会人):良かった。未修のカリキュラムによる基礎力の貯金のおかげで2年次以降も好成績を得ることができた。
Dさん(既修未受験):結果論だが、良かった。法学部で勉強してこなかったのに鍛えてもらえた。
Fさん(既修落ち):良かった。性格的に一人で勉強できないので、友達と勉強することで勉強量が増え、かつ就活や勉強法などの有益な情報を得ることができる。
私(純粋未修):良かった。ロースクールに進学するまでは周りに司法試験を目指している友達が全くいなかったため、勉強法が分からないだけでなく、司法試験・キャリアなどの情報を何も知らない状態であった。ロースクールに来ることで効率よく勉強できるだけでなく、意識が高い友達と切磋琢磨できる環境で過ごせた。独学で予備試験を目指すのは自分には無理だったと思う。

未修者の進級・留年・退学について

Aさん(既修未受験):全ての法律科目の基本となる頭の使い方・考え方を理解し使いこなせるか否かという点が、進級できるかできないかに影響すると思う。
Bさん(社会人):ついていける人は、基本的には勉強時間を確保できる人だと思う。留年・退学してしまう人は、大きく2タイプいて、1つが仕事を継続したり、出産・育児等のライフイベントが発生したりして、勉強時間を確保できない人。もう1つが、日本語が得意でない人。日本語が母国語で外国語が得意な人は、言語能力が高いので法学も得意な人が多いように思う(東京外国語大学出身の人など)。逆に、母国語が日本語でない、あるいは海外生活が長い人は、日本語があまり得意ではないことがあり、軒並み法学に苦労しているように見えた。
Cさん(社会人):純粋未修の方で、ついていける人は、常に危機感を持って勉強に打ち込めている人だと思う。「未修で教えてもらおう」というお客さん的立場ではなく、留年等に対する危機感を持ってしっかりと勉強に取り組んでいる人は、2年次以降でもきちんと好成績を維持している印象。また、既修に落ちて進学した人など、予備校を利用するなどして、基礎的な法律知識及び答案作成の知識を持っている方は、そこまで大崩れしない印象。事前に法律の勉強をせずに完全未修で入学する方は、かなり気合を入れて勉強しないと進級に苦しむ印象。
Dさん(既修未受験):勉強する人、いつ行っても自習室にいるとか。ただし、勉強する人でも勉強法を間違えている人はまた別。そのためか、ゼミを組んで勉強する人は合格率が高い印象であり、仲がいい代はゼミを大人数で組んでいるからか、合格率が高い傾向にある印象。
私(純粋未修):司法試験合格までの道のりの大枠を把握し、逆算して勉強計画を立てられる人や、わからないことを聞ける人は進級している印象。また、2年次においては既修者・教授に積極的に質問できる人は純粋未修であっても意識が高まり、成績が低くない印象。

どんな人が未修者コースに向いているか、逆に向いていない人はどんな人だと思うか

Bさん(社会人):法学部に在籍し、ロースクール入試のための勉強を半年〜1年ほどしたにも関わらず、既修に全部落ちたというのであれば、その人はおそらく法学が得意ではないので、今の段階で法曹以外の道を一旦検討してもいいのではないかと思う。法学が苦手でも、どうしても法曹になりたいと熱い思いがあって、また留年しても問題ないような家庭であれば、覚悟を決めてロースクールに進学してもいいと思う。そのときは、間を空けないために未修に進学してもいいし、浪人して翌年既修を受けても、どちらでもいいと思う。自分で勉強できる人であれば、浪人もありなのではないか。未修に進学するのであれば、なるべく未修の合格率が高いロースクールを選ぶと、周りに流されて勉強するのでいいのではないかと思う。
Cさん(社会人):学部の延長の感覚でロースクールの未修に入学する法学部出身者が何人かいるが、覚えるだけで単位を得られていた学部とは違うのに感覚が変わらず留年してしまう。そういう人は未修には向いていないと思う。
Dさん(既修未受験):軸があって流されない人は未修でもやっていける。
Fさん(既修落ち):自分で勉強できる人は浪人してでも既修に行くべき。留年することへの怖さがストレスになってしまうから。
私(純粋未修):未修者コースはしんどい。が、良いこともたくさんある。常に勉強している人や精神力が強い人は未修者コースでも十分好成績を残せる。また、客観的に自分の立ち位置を理解できる人でないと、学部・ロースクール1年次に成績が良くても2年次で留年したり、進級しても司法試験合格のレベルまで達せなかったりする可能性があると思う。

まとめると…
・未修者は未修者コースに進学したこと自体は「良かった」と感じている。
・だが、未修者コースのメリットよりデメリットの方がなかなか大きいものに感じる。
・未修に向いている人については「軸がある人」「精神力」「覚悟」「勉強量」「質問できる」というワードが並んだため、法律的能力の有無というよりも高い基準で頑張れる人が向いているのではないか。
・社会人は専門実践教育訓練給付金の給付が受けられるかも重要な選択要素に。

◯浪人→既修者コースという選択肢

一方で、未修者コースに進学せず、ロースクール浪人をする人もいます。なぜその選択をしたのか、実際に浪人して既修者コースに進学した方に話を聞きました。

取材協力者
・Gさん(修了生) 
・Hさん(2年生) 
*学年は2023年度時点のものです。

未修者コースに進学をしなかったのはなぜか

Gさん:(Gさんが)入学するときは、法曹コースの枠が存在しなかったため、現在よりも一般の既修入試の定員が多かった。そのため、既修者コースに入学する倍率が現在よりも低く、かつ未修者コースの合格率の低さを考えたときに、同じ3年間を費やすならば浪人して既修に入学した方がいいと考えたから。
Hさん:ロースクール進学を決めたのが遅かったため、間に合わないと思い、大学4年次はそもそもロースクールを受験しなかった。未修者コースさえも受験しなかったのは、大学での法律科目の成績的に、1年間浪人すればどこかの既修に受かると思ったから。また、未修者コースの試験の情報がなく、小論文にも不安があったし、そもそも法律自体に馴染めるかもわからず、馴染めなかったら未修者コースに入って引き返せなくなるのが怖かったため、1年勉強してみようと思った。

ロースクール浪人のメリット/デメリット

Hさん:メリットは、法律の知識が不十分なままロースクールに進学するより、1年間勉強して知識を身につけて上位のロースクールに入学できた方が、司法試験合格に近くなること。一人で勉強する辛さが大きかった反動でロースクール生活が充実しているし、モチベーションが高い状態で勉強できている。デメリットは、論文試験の自分の立ち位置がわからないことや勉強計画があっているのか相談できず不安なまま勉強することになること。

今選ぶならば、未修者コース進学とロースクール浪人のどちらか

Gさん:未修進学。今は既修に入学できる難易度が明らかに高くなっているため、浪人しても既修に合格できるかはわからない。その不安と戦うよりも未修でみっちり勉強習慣をつけて確実に既修と合流できる方がいい。
Hさん:未修進学。ロースクールの授業が合っている。司法試験勉強と直接関係しない授業もあるが、基本書を読んで分からない点を質問できた。良くも悪くも既修とレベルが変わらない印象がある。

どんな人に浪人または未修者コースがお勧め?

Hさん:(お金を考えないとしたら、)上位ロースクール(合格率が高いロースクール)の未修者コースに受かってるのであれば進学すべき。性格面では、メンタルが病みやすい、自分でメンタル面や計画をコントロールできない人は未修者コースに行くべきだと思う。自分の立ち位置が分からないと、浪人しても既修に受からないと思う。

まとめると…
・再選択できるならば未修者コースに進学しても良い、という意見。
*ただし、インタビューした方が合格率の高いロースクール所属であるため、一概には言えないかもしれない。(=未修の合格率の低さの懸念は残っている)
法曹コースができたことで浪人に対する不安がある。
精神面・勉強計画のコントロールができる人が向いている。

結論:どんな人が浪人向きで、どんな人が未修者コース向きか

結局どんな人が未修進学に向いていて、逆に浪人に向いているのでしょうか。インタビューをまとめます。

ロースクール浪人に向いている人

・自分で勉強できる人
・精神力が強い人(法学部出身者など既修に不合格だった場合)
・勉強計画・勉強方法が確立できている人
・金銭的に余裕がない人
・翌年の既修入試に合格する自信がある人

未修者コースに向いている人

・精神力が強い人(純粋未修の場合)
・一人で勉強できない人
・軸があり、周りに流されすぎない人
・積極的な人(質問したりする際に)
・常に危機感をもって勉強できる人
・勉強時間を確保できる人(向いているというより留年しない人)

おわりに

未修者コースの多くの人は「未修に進学して良かった」と思っています。未修者コースには良いところがちゃんと存在します。
しかし、データとして合格率の低さ・留年率の高さという事実は消えません。一方、浪人して既修を目指すことにもメリット・デメリットがあります。

自分がどちらを選択するのか。
どちらにも良い点はあるため、自分はどちらがいいのか、
簡単な選択ではありませんが、よく考えて選択してほしいです。


The Law School Timesは司法試験受験生・合格者が運営するメディアです。「法律家を目指す、すべての人のためのメディア」を目指して、2023年10月にβ版サイトを公開しました。サイトでは、司法試験・予備試験やロースクール、法律家のキャリアに関する記事を掲載しています!noteでは、編集部員が思ったこと、経験したことを発信していく予定です。

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