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最も効果的で効率的な司法試験論文過去問学習法

はじめに

司法試験・予備試験(以下、まとめて「司法試験」とします)の対策として「過去問が重要!」とよく耳にしますよね。司法試験は、決められた試験時間の中で、出題者の意図を汲み取って、問題文の問いに対して文章で表現する能力が求められる試験です。そしてその能力は、実際の試験問題を解くことで身につけることのできるものだと思います。また司法試験は、科目によっては過去問の焼き直しのような出題も多く、過去問は出題の「ヒント」となる教材でもあります。

ここで「過去問学習とは何か」という問いに対して、皆さんは何と答えるでしょう。おそらく「過去問を解いて出題趣旨を見ること」と答える人が多いと思いますが、過去問学習はそのような単純そうなものに見えて、実は奥が深いのです。過去問学習を効果的に、そして効率的に行うためには、科目ごとに取り組み方に違いがありますし、1周目と2周目でも取り組み方に違いがあります。

本記事では受験生向けに、筆者の考える効果的かつ効率的な論文式試験の過去問の取り組みについてお伝えします!(ライター:加藤/The Law School Times ディレクター)



各科目について見てみよう


憲法

【1周目】
時間を計って
司法試験用答案用紙を使用して起案しましょう(これは他の科目でも同様なので、以降は繰り返しません)。近年いわゆる三者間型の出題が多く(出題論点一覧についてはこちらの記事を御覧ください)、原告・被告・私見のそれぞれの主張のかみ合わせが重要になります。ですから、①緻密に答案構成をした上で、②答案用紙に記入するという2段階について、適切な時間配分が要求されます。ご自身にとってベストな時間配分は、何度も訓練しなければ身につきません。答案構成と答案用紙への記入にそれぞれどの程度の時間をあてるか、自分の中である程度決めておくことが重要になります。

また、憲法には他の科目と違い「作文的要素」があります。初見の問題について、頭で考えていることを文章にして答案用紙上に表現することは、意外と難しいものです。

起案が終わった後は、できれば友人や教授に答案を見てもらいましょう。そして、遠慮なく良い点・悪い点を指摘してもらいましょう。司法試験では、考査委員の先生方に評価してもらうことになります。客観的な評価を受けることは、本番を想定したより良い答案を書くことに繋がります。

さらに、再現答案を入手して自身の答案と見比べてみてください。高評価の答案と比べて自分の答案はどうか、低評価の答案と同じ間違いをしていないか、確認してみましょう。また、出題趣旨・採点実感に必ず目を通してください。近年のものは答案に書くべきポイントや点数が振られているポイントが細かく記載されていますから、マーキングするなどして、復習の材料にしましょう(起案終了後の流れは他の科目も同様なので、以降は繰り返しません)。

2周目
1周目と違って問題の「目新しさ」がないと思います。憲法では三者間の議論のかみ合わせが肝になりますから、1周目で設定した時間配分のうち、答案構成にあてる時間を計って答案構成を行うだけで十分です。ただし、構成を作り終えた後は「議論が噛み合っているかどうか」をしっかりチェックしてください。また、1周目の時点でマーキングや書き込みをした再現答案・出題趣旨・採点実感を参照して、マーキング部分・書き込み部分を中心に読みながら復習しましょう。

行政法

【1周目】
行政法は、問題文の他に会話文と参照条文が掲載されており、読むべき文量が非常に多いのが特徴です。憲法のように答案構成用紙に緻密な答案構成をしていては、時間が足りなくなってしまいます。そこで、2〜3色のマーカーやペンで問題冊子にアンダーラインを引いたりマーキングをしたりして、答案構成の代わりにするのがオススメです。起案の際には、問題を印刷して(本番では紙媒体で配布されますから、タブレットなどではなく紙媒体で訓練することを推奨します)、マークをしたりアンダーラインを引いたりする訓練をしましょう。

【2周目】
基本的には答案構成のみで十分です。行政法は判例別の学習が重要な科目なので、判例の処理手順・文言が答案に正確に示されているか確認してください。理解が不十分であれば、判例を必ずチェックしてください。


民法

【1周目】
民法は、規範を覚え、条文を正確に引けることを前提に、問いに対して妥当な結論を導くことが重視される科目です。妥当な結論を説得的に論じるには、三段論法を徹底し、矛盾のない論理を積み重ねる必要があります。つまり、答案構成のトレーニングが重要です。答案構成の際には、❶事案をわかりやすく図示すること、❷何が問題点かを把握することの2点を意識して取り組みましょう。

【2周目】
基本的には答案構成のみで十分ですが、関係する条文を必ず引く癖を付けてください。また2周目では、正答が導き出せているかについてこだわってください。


商法

【1周目】
商法の起案の仕方については、民法とほぼ同様と考えて良いです。前述❶の事案の図示に際しては、会社と役員の関係公開会社か否か時間軸を特に意識してください。

【2周目】
基本的には答案構成のみで十分です。2周目の際は、書きそびれた条文・論点がないかどうかをチェックしてください。また商法の場合は、類似論点が多数存在します(会社の行為の無効事由や取消事由、内部手続きを欠いた行為の効力など)。出題された論点の類似論点についても、復習の際に合わせて確認しておくと頭が整理されるので有益です。


民事訴訟法

【1周目】
民事訴訟法は、問題文が会話文形式になっています。会話文を読んで「課題」に答える形式です。誘導が効いているので論点の抽出は比較的容易ですが、典型的事例がそのまま出題されることは少なく、難しい論理的思考が要求されることが多いです。したがって、限られた時間で答案構成をし、妥当な結論が導き出せるかが勝負になります。起案の際には、ご自身で設定した答案構成の時間内で「頭から湯気が出るくらい」考えて結論づけることを意識してください。

起案終了後は、必ず友人と答案を見せあって、議論をしましょう(ゼミを組むことがオススメです)。なぜなら、論理的に難解な出題が多いので、一人で深い理解にたどり着くことは難しい科目だと考えているためです。

【2周目】
基本的には答案構成のみで十分です。もっとも2周目であっても、論理が難しいがゆえに、1周目の際に議論して理解したはずの論点を忘れてしまうことも多々あると思います。その際には、再度議論するようにしましょう。また商法と同様に類似論点が多数存在するので(例えば、確認の利益)、周辺論点についても復習の際に確認しておくと良いでしょう。


刑法

【1周目】
刑法は、近年は単に罪責を問う問題ではなく、複数の小問形式で学説知識・近時重要判例の知識をも問われる傾向があります。事案処理型の試験というよりは、思考型(様々な見解を想定し、私見を説得的に矛盾なく論じる形式)であると言えます。そのため答案構成の時点で、書き始めから結論まで頭を整理しておく必要があります。特に、時間との関係で厚く論じるべき部分とそうではない部分とのメリハリを意識して取り組んでください。また、問題文中の事実を抽出して適切に評価しなければ、高得点は望めません。答案用紙に示す事実については問題文にマーキングをし、答案を書き進める際にはその事実をどのように評価するかを意識してください。

起案終了後は、必ず友人に答案を見てもらいましょう。論理の部分は基本書等でチェックできますが、事実の評価の部分は自身で復習が難しいところですから、その点を重点的に見てもらいましょう。

【2周目】
基本的には答案構成のみで十分です。2周目も問題文を印刷して、抽出すべき事実にはマーキングをしてください。また、出題趣旨に沿った構成がされているかをチェックしてください。


刑事訴訟法

【1周目】
刑事訴訟法は他のどの科目よりも、①事実の抽出、②事実に対する評価の2点が重要です。また、高得点を取るためには回答にそれなりの分量も要求されます。そのため、できるだけ答案構成の時間を短縮し、答案用紙に記入する時間を確保することが肝になります。具体的な方策としては、行政法と同様に、マーカーやペンを複数使用して、問題冊子上に答案構成をするという方法が挙げられます。

起案終了後は、必ず友人に答案を見てもらいましょう。刑法と同様、事実の評価の部分を重点的に見てもらうようにしてください。

【2周目】
基本的には答案構成のみで十分です。論点の把握は容易なので、事実の抽出と評価が適切にできているかをチェックしてください。

また刑事訴訟法は、過去問の焼き直しによる出題が多い科目です。再度出題された場合には、当該年度の優秀答案と同じような答案が書けるように、徹底的に取り組みましょう。


まとめ

もう一度、基本的な過去問学習のメソッドを確認してみましょう!


💡ワンポイントアドバイス💡

理解と記憶に先後関係はない。理解できなくても記憶してみること。まず記憶して、その後学習が進んだら理解できるようになることもある。

「理解してからじゃないと起案できない……」という考えはNG!
 →過去問の起案は「練習試合」。うまくできないのは当たり前。本番でできればいい。

「復習が終わってから次に進もう……」という考えもNG!
 →法律の学習において復習は一生終わりがない。常に復習。「記憶→忘れる→復習する/記憶する→また忘れる→復習する……」を繰り返すことで理解も記憶も定着してくる(エビングハウスの忘却曲線)。忘れることを恐れない。


おわりに

司法試験において過去問は合格を勝ち取るための最も良質な教材であると思います。みなさんも本記事を参考にして効果的な過去問学習に取り組んでみてはいかがでしょうか。


The Law School Timesは司法試験受験生・合格者が運営するメディアです。「法律家を目指す、すべての人のためのメディア」を目指して、2023年10月にβ版サイトを公開しました。サイトでは、司法試験・予備試験やロースクール、法律家のキャリアに関する記事を掲載しています!noteでは、編集部員が思ったこと、経験したことを発信していく予定です。


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