記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

【感想】求めていたクレしん映画とは違うけど、大人が文句を言うのもお門違いに思えてきた『しん次元!クレヨンしんちゃん THE MOVIE 超能力大決戦 ~とべとべ手巻き寿司~』【ネタバレ】

概要

しん次元!クレヨンしんちゃん THE MOVIE 超能力大決戦 ~とべとべ手巻き寿司~

あらすじ

かつて、ノストラダムスの隣町に住んでいたヌスットラダマスという男が

「20と23が並ぶ年に天から2つの光が降り、世界に混乱がもたらされる」

という予言を残した。そして西暦2023年の夏、宇宙から白と黒の2つの光が地球に降り注ぎ、しんのすけに白い光が命中。不思議なパワーがみなぎるしんのすけは、エスパーとして覚醒する。そして、もう一方の黒い光を浴びた男・非理谷充(ひりや・みつる)もまた、エスパーとなった。バイトは上手くいかず、推しのアイドルは結婚、さらには暴行犯に間違われ警察に追われていた非理谷は、力を手に入れたことで世界への復讐を企む。破滅を望む非理谷と、それを止めようとするしんのすけの、超能力バトルが幕を開ける。

Fimarks

 先に警告を。

 この映画ってさ、今までの劇場版クレしん作品を鑑みても、かなりの低年齢ファミリー層向けなんだよ。そんな映画を、成人した独身の(一応)大人が、ましてやガチの社会的弱者が正しく評価なんてできるはずは無い訳で、個人の先入観が大きく介入した偏った感想であることには留意して欲しい。

クレしん映画としての失敗感は否めない

 さて、この作品、そもそもファミリー向け映画としてちょっとバランスが悪いと思う。

 先ず、いっちばん重要なCG。確かに動きは良かったし、それ特有の違和感もあまり覚えなかった。なんだけど……クレヨンしんちゃんの作風とは合わなかったかな。CGであるが故に、この作品群の良さである漫画的表現を露骨に控えているのが見え見えだった。

特に酷いのは、冒頭のチェイスシーン。あれを観て咄嗟に頭に浮かんだ感想が「これがあと90分続くのか……」ってのだから、鬼滅とか観てる小学生は、もう既に対象外なんじゃないかな……

 この対象年齢の低さってのは、ほかの要素からも見えてくる。例えば、世界観の狭さ。画面に動きがないとかそういう話じゃなくて、主人公たちがまっっったく冒険しないんだよ。未知の組織にはワクワクしないし、世界が終わってしまうようなハラハラも無い。

どう考えても、今の小学生にはウケないでしょ、こんなの…… 薄っぺらい風呂敷を広げまくるのはクレしん映画の十八番じゃないか…… アンパンマンなんて、神話レベルのバックボーンで、大人も泣ける人間ドラマやってんだぞ?天下のクレしんがこのザマか?

 年齢層が低いくせに、親の世代を若干間違えてるのもどうかと思う。「深キョンがー」とか「連邦軍のー」やら、平成生まれの若い親とはちょっとターゲットがズレてる気がしない?これはちょっと酷いよ。大人がクスッとできないなら、これらのシーンは全く要らないものになっちゃうんだからね。

 まぁ、でも、悪いとこばっかりじゃない。ド派手なバトルをさせるために、カンタム・ロボ vs 怪獣の構図にするってのは、めちゃくちゃ良いアイデアだと思った。カメラワークは悪かったけど。幼稚園生あたりの子供と観るのなら、めちゃくちゃ良いのかもしれない。

この映画を作った監督は"弱者"を本質的に理解していない

 ここまではあくまでもファミリー向け映画として評価したけど、ここからは弄れ逆張り野郎の視点から見たこの映画を語るよ。

 ……この映画はちょっとお粗末すぎるよ!最大のクソポイントは非理谷充!こいつだよこいつ!このボスには、ボスにふさわしい魅力もなければ、作品を装飾するような背景設定も存在しない!

クレしん映画のボスの良さと言えば、しょーもない名前としょーもない動機、そこから発せられるあまりに壮大な目的だよね?非理谷充ってキャラは、これらの何ひとつとして持っていないんだ。(逆に、全て持っているのがヌスットラダマス二世。こいつをボスにすべきだった)

彼が持っているのは、社会的弱者という取ってつけたような安っぽい設定だけ。この弱者というキャラがこういう単純な映画で魅力を持つには、他の大きなアドバンテージが必要なんだよ。ゾッとするほどのイケメン、危険思想を持った天才。やりようは無限にあるのに、彼は自治体が作った"いじめはやめましょう!"ムービーの、被害者レベルのキャラクターでしかない。

こういう、設定付けの中で何よりの悪手だったと思うのは、超能力の起源を受動的にしたところ。弱者って設定を使うなら『恨みと嫉妬のあまり、禁断の力に手を伸ばしてしまう……』ってな感じじゃない?

 ボスキャラにはさ、正義という暴力でボコボコにできるだけの大義名分(嫌われ要素)がいるんだよ。そうじゃないと、ヒーローサイドから観る視聴者としては気分が悪い。同情の余地のある敵を、主人公たちが無責任に説教するのを眺めるのは、かなりキツく来るものがあるんじゃない?

 そう、ラストの説教シーンは個人的にイヤだった。ここでぼくは、この作品が『強者がフィルター越しに見た"自分的弱者"に対して臭いお説教を垂れるのを眺めて悦に浸るための映画』と見えてしまった。少なくとも、ぼくにはそう感じた。

「頑張り方が分からない」?「お前はまだ若い」?「頑張るんだ」?

違う、違うんだ。弱者は頑張らなかった訳じゃない。

酒臭い吐瀉物と成人向け雑誌が散乱した部屋で、白目を向いて気絶する、白い体液の付着した下半身裸の親を見てしまったあのとき。友人に罪を擦り付けられて、親に髪の毛を切られて謝罪させられたあのとき。誰も褒めてくれず、ただ学年順位の数字にささやかな優越感を抱くしかなかったあのとき。借金で大学を諦めたあのとき。普通のことが全くできず、必死にメモをとっていたあのとき。

ぼくにとっては、ぜーんぶ頑張った記憶だよ。弱者は頑張りが無駄だと、若さは無意味だと知っているし、社会への復讐なんかも考えていない。ただ欲しいのは、どれだけボロボロでも良いから、自分を受け入れてくれる受け皿だけ。

現代の映画作品で弱者を描くには、ちょっと理解が足りてなかったと思う。最後のヒロシのセリフを、悪意たっぷりに訳せば「いつまでもアイドルとか言ってないで、さっさと結婚して子供作って努力しろ」になる。ジョーカーとか観た?

 そもそもファミリー向け映画としても問題がある。この非理谷充の問題は作中で何も解決されてないよね?冤罪は吹っかけられたまま、知らないオッサンたちに説教されて、身に覚えのない廃車の修理代を請求されただけ。主人公勢が人助けした気になって、勝手にスッキリしてるんだ。

……少し感情的になりすぎちゃったよ。

 閑話休題、この映画の製作者は、弱者子供たちの生きる社会に対する認識が甘い。上に書いたように、弱者に対する価値観が昭和すぎるし、そもそも「大人が作った問題を、子供たちに押し付けている」ってのを言わせておきながら、超能力合戦をしんのすけに全て押し付けているのは、テーマに全く矛盾してるよ。大人がカッコ良いところなんてほとんど無い。

良作だけれど、態々これを観る必要は……

ここまでかなりボロクソに言ったけど、先入観無しで言えば、普通に観られる作品だと思う。ただ、娯楽の溢れる現代で、子供にわざわざこれを観せる必要は無い。

 しんのすけの非現実的ないいヤツ描写と、安直なボスキャラの危ういバランスで成り立ってる映画だから、大人が観ると、ちょっと違和感を覚えるかもしれない、くらいかな。暇で暇でしょうがないファミリー向けだよ。子供向けにマジになっちゃうぼくみたいなガキが観て良いものじゃなかったよ……


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?