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無視力~「素敵な表情(印象)をされていますね」は要注意~

 あまり声を掛けてほしくありませんが、道を尋ねる程度であれば問題ありません。微力ながらお役に立てて、光栄なくらいです。無論、答えられない場合もありますが。

 しかし、現実はというと、声を掛ける理由の多くは「道を教えてほしい」ではなく、「人知れず悩みを抱える素敵なあなたの『人生の道案内』をさせてください」だったりします。

◇◇

 数年前、霧雨舞う肌寒い日のこと。

 ソウルのオフィス街で人混みをかき分けながら歩いていると、突如として1人の男性が目の前に現れて、こう言いました。

「あの、とても素敵なお顔(=表情)をされていますね!」

 ナンパじゃありません。

 ――それから遡ること、2年。

 新学期が始まって間もない金曜日の夜、私は、学生街を歩いていました。大学生というのは本当にパワフルで、ここでもあそこでも、大人数で焼き肉を楽しんでいます。

 そんな光景を横目にすたすた歩いていると、通り過ぎる学生グループの仲間だと思っていた女の子が1人、すっとこちらに近づいてきました。

「今おひとりですか? すごく素敵な印象をされていますね」

 果たして、これら2つは決まり文句のようです(個人調べ)。

 この言葉から始まる話は、往々にして、「誰にも好かれる魅力的なあなたも、人知れず悩みを抱えていることを知っています。一度その悩みを話してみませんか?」となるのです。

 「はい、結構です(悩みねえし。あっても話さねえし)」

◇◇◇

 話し掛けられる理由で一番多いのは、宗教や大学のサークルを含む、何らかの集まりへの勧誘です(完全個人調べ)。

 韓国に来たばかりの頃は、断り方が分からなかったため、結果的に聞いてしまうことがほとんどでした。自分は韓国人ではないだの、急いでるだの、頑張って伝えるのですが、韓国語が分からないと分かった後でも話し続けるのですから、相手は手ごわいです。

 一番ひどいときは、大学のキャンパスで雪の降る中、30分近くも話を聞きました。ちなみに、相手が悪いのではなく、断れなかった自分のせいです。

 まさに、Noと言えない日本人。

 最終的にはポータブルDVDまで出てきて、数分だけですがイエス様の物語を観ることになりました。字幕付きなので、言葉の心配はいりません。しかも、英語、日本語、中国、スペイン語、イタリア語と選び放題です。

 そもそも入会する気なんて一切ないのに、毎回話を聞いてしまう私。

 特に、大学入りたての可愛らしい学生さんに声を掛けられると、断るのが難しかったです。彼女たちの純粋で一生懸命な姿がそうさせるのでしょう。(キャンパスや学生街で多く、大抵は2人1組で活動していました。最初に声を掛けるときは1人でも、後からもう1人加わります。)

◇◇◇

 それでも、人というものは、何度も同じような場面に出くわすと、何とかして切り抜ける方法を見つけようとするものです。

 ・・・が、ほぼ失敗。特に宗教関連のお誘いは、断るのに苦労しました。

 あるときは、

私:(できる限りの片言の韓国語で)「外国人です。韓国語分かりません」
相手:「じゃあ英語は分かりますか? 英語で説明します」

 ということがあったので、英語もまったく分からない人になることを決めました。

私:「・・・(英語分からないよ~)」
相手:「あ、日本人ですね? 私、日本語話せます。日本語で説明します」

 結果、日本人だとバレてしまいました。

韓国人のような見た目 → 韓国人じゃない → 英語話せない → 日本人

 そして、嬉しいかな悲しいかな、日本語が堪能な韓国人は多いです。

 だから、次に話し掛けられたときは、「宗教には一切興味ありません」とはっきり伝えようと思いました。

私:「私、宗教には興味ないんで」
相手:「そういう人にこそ、聞いてほしいんです!」

 あ、確かに。考えてみると、この方たちが勧誘する意味はここにあるわけです。

 私は、この方法は使えないと学びました。そして、考えました。

 もし他の宗教を信じていると知れば、それ以上は踏み込んでこないのではないだろうか。宗教はとてもデリケートな問題(なはず)。他の宗教を信じている人に、ガツガツとは来るまい・・・。

 それを試すチャンスはすぐに来ました(声掛けられすぎ)。

私:「私、仏教なので(半分は本当)」
相手:「大丈夫! 仏教というのは哲学だからね。僕も仏教の教えを信じているよ。だからあなたも、仏教を信じながら、クリスチャンになれるよ!」

 あーーーなるほど。一理ある。

 人が少ない昼間の地下鉄車内でのことでした。車内というのは、ある意味逃げ場がありません。ここで話しかけるのは反則だろうと軽く怒りを感じていた矢先に、この返答です。むしろ、ここまで来ると、感心してしまいました。

◇◇◇

 前回の記事にも書きましたが、結局のところ一番の方法は、無視してその場を去ることです。

 韓国人の旦那や友人にも、こう言われました。

「そりゃ、無視でしょ」

 さらに、こうとも言われました。

「そもそも、相手の気持ちや都合も考えずに、そうやってズカズカ話しかけるのは失礼だと思うよ」

 あ、確かに。

 話も聞かずに無視するのは悪い気がするという純粋な優しさは、一切無用だったようです。

 ただ経験を積んだおかげで、以前と比べれば、しっかりと自信を持って、無視できるようになりました。

 ちゃんちゃん。

 ――で、終われればいいのですが、気を抜いていると、今でもたまに声を掛けられます。

 数か月前は、「ニュースでは問題ばかりを扱って、決して答えを教えてくれませんが、私たちはすべての問題を解決する方法を知っています。実は、この本に書いてあったんです! 毎週土曜日に勉強会をしているので、ぜひ参加してください!」と、声を掛けられました。

 「はい、結構でございます(普通にあやし過ぎるよ?)」

 と断ったはずなのに、家に到着したときの左手には、パンフレットが握られていました。こういうところが、いまだに話し掛けられる原因なんだろうなあ・・・。

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