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オランダアートひとり旅#08.ロイヤル・デルフト~白地に青が作り出す芸術~

 デルフト駅から歩いて約15分。

 1653年に設立されたデルフト焼の工房、ロイヤル・デルフト(オランダ語:De Koninklijke Porceleyne Fles)にやって来ました。

 デルフト焼は白色の釉薬を下地に使い、スズ釉薬で絵付した陶器のことで、ロイヤル・ブルーと呼ばれる美しい青色が特徴です。

 工房には博物館が併設されていて、デルフト焼の歴史やロイヤル・デルフトの歴代作品を学ぶことができます。カフェではロイヤル・デルフトの器でコーヒーや軽食を楽しめますし、ショップではお土産を購入することもできるので、焼き物ファンでなくとも欠かせない観光地です。

 当日は開館時間の朝9時に行きました。チケットは事前にネットで購入。送られて来たチケットをスクショ保存していましたが、それだと画質が悪くQRコードのスキャンがうまくいきませんでした。他の美術館はスクショでも大丈夫でしたが、ロイヤル・デルフトに来られる際は、PDFファイルのままで保存するのをおすすめします。

デルフト焼とロイヤル・デルフト

 博物館ではまず、ロイヤル・デルフトの歴史とデルフト焼の伝統的な製造工程を2本の動画で学びました。音声解説はオランダ語、字幕は英語ですが、日本語のオーディオガイドを無料でレンタルできます。

◆始まり

 16世紀中頃にイタリアからオランダへ陶器(マジョリカ)の技法が伝わると、アムステルダムやハーレム、ミデルブルフで陶器工場が建設されました。

 デルフトでも16世紀末までには陶器が作られるようになったと考えられており、工房の数も急増。17世紀には約30の陶器工場があったことが分かっています。ロイヤル・デルフトはその中で唯一残っている陶器工房で、伝統的なデルフト・ブルーを今に伝えています。

◆作り方

 デルフト焼の製造法は(1)型だし(2)形成(3)絵付け(4)焼きです。

 基本的に絵付けは手作業で行われていますが、中には転写された製品もあります。また焼く前の絵付けの色は墨色で、あの美しいデルフト・ブルーは焼成中に変化することで現れます。

ロイヤル・デルフトのロゴ
伝統工芸品の証として、製品にはロゴと絵付師のサインが描かれています。

陶器コレクション

1.歴史を彩る陶器たち

◆中国陶器の影響

 陶器といえば中国を思い浮かべますが、やはりオランダも中国陶器の影響を受けていたそうです。

 17世紀はオランダが極東と貿易を開始した黄金時代。1602年に設立されたオランダ東インド会社の商人たちは、大量の中国磁器を持ち帰ります。白い下地に青い文様が施された美しい磁器は注目を集め、オランダの陶芸家たちも模倣しました。

◆ロイヤル(Royal)の称号

 本来ロイヤル・デルフトはオランダ語で ”Porceleyne Fles” と呼ばれていました。それが ”De Koninklijke Porceleyne Fles”となったのは、1919年に長年の功績が称えられて王室から「ロイヤル(Koninklijke)」の称号が贈られたためです。

 オランダ王室も認めるロイヤル・デルフト。第5代オランダ国女王ユリアナ(1909-2004)が誕生した後は、王室の祝事を記念するシリーズが作られるようになりました。

王室シリーズ
沢山の人が写真を撮っていたので、釣られて撮ってしまいました。

◆時代を映す作品

 時代によって様々な作品を生み出すロイヤル・デルフト。当時の人々の関心事が伝わり、大変興味深かったです。

 特に好きだったのは、1986年にやって来たハレー彗星。すんごく盛り上がったんだろうなあ。次に接近するのは2061年だそうですね。40年後かあ。

(左)1973‐74年、宇宙ステーションのスカイラブ(右)1986年、ハレー彗星

2.ブルーだけじゃないロイヤル・デルフト

 個人的には絵画に比べると焼き物には関心がなかったため、今回の旅行で最も期待度が低かったのが、このロイヤル・デルフトでした。

 しかし! 予想に反して、観れば観るほどハマってしまう魅力的な博物館でした。一番の理由は「ブルーだけじゃないんだ!」という発見があったから。伝統を受け継いできただけでなく、新しい試みにも挑戦していたのです。

◆エメラルドグリーン

New Delft 1910-1936

 様々な作品が並ぶ中で、最も目を引いたのは New Delft です。

 デルフト・グリーンと表現される透き通るようなエメラルドグリーンが、とにかく美しい。New Delft の名の通り、1910年当時としては製造法も色付けも全く新しい手法を用いて制作されました。しかし第二次世界大戦が始まると材料の入手が困難になり、1936年にはやむを得ず製造を中止することになりました。

 こんなに綺麗な作品なのに・・・残念。

New Delft 1910-1936

◆朱・紺・金

Pijnacker 1902-2009

 こちらの陶器、何となく見覚えのある模様ではありませんか。Pijnacker は、日本の伊万里焼を模して制作されました。

 最初に登場したのは17世紀。1750年以降になると忘れ去られてしまいますが、1902年にロイヤル・デルフトが復活させました。ただ製造期間が2009年で終わっているので、このシリーズも現在は生産されていないようです。

 これまた残念。

◆漆黒

Black Delft (Oudijk) 1957‐1964

 吸い込まれるような漆黒の背景に花の模様(梅かな?)が際立つ Black Delft は、1957年に発表されました。しかし、このシリーズは利益があまり出なかったそうで、約7年で生産が中止されました。

 またまた残念。

◆緑

Delvert or Green Delft 1968-1994

 1968年に発表された Green Delft は、緑色で描かれたアカンサス模様が印象的です。

 洗練されて落ち着きを感じる陶器ですが、難点は特徴でもあるこの緑色。色が不安定で、生産量が少なかったそうです。その影響で1976年には製造が中止。1991年には再び市場に現れるも、色の問題は解決できず、1994年には完全に姿を消すこととなりました。

 ああ~、どれもこれも、本当に残念だこと。

3.オランダを象徴する陶器作品

 ロイヤル・デルフトでは、オランダらしい作品が数多く作られています。

◆ミッフィー

 オランダ発の世界的キャラクターといえば、ミッフィー。青色がとっても似合いますね。普通にかわいいです。

◆タイル絵

 職人の技術が上がるにつれて、デルフト・ブルーを描く土台の種類も増えました。その代表的なのがタイルです。

 オランダ絵画に欠かせない集団肖像画から街の風景、子どもたちが主人公の可愛らしい作品まで、様々なタイル絵が展示されていました。

◆レンブラント《夜警》

レンブラント《夜警》

 この博物館で一番の目玉といえば、実物大のレンブラント《夜警》です。18㎝×18㎝のタイルを480枚使い、伝統的なデルフト・ブルーの技法を用いて描かれています。

 何が驚きって、これらすべてを完全手作業で、しかもたった2人で、さらにはたった1年で作り上げたということです。ただただ、すごいとしか言いようがありません。

建物

 博物館から工房へ続く道は、一味違った装飾で、中世の雰囲気を味わえて楽しかったです。

工房

 博物館の後は、工房見学です。

 絵付けの様子も観ることができましたし、こうして実際に作業している中を通れるのはとても贅沢な演出ですよね。

365年記念作品

365 Years of Blue

 工房の終わりには、365周年記念の作品が展示されていました。

 博物館の職員や来場者など、世界中から集まった計365名の人々によって2018年に作られました。見ているだけで心が温まる、大きな作品です。

とってもアバウトな地図ではあるけれど、日本を見つけた時の嬉しさよ。

◇◇◇◇◇

 思った以上に、いや、最高に楽しめたロイヤル・デルフトでした。

 特に心に残ったのは、現在は製造されていない過去のシリーズたち。材料の確保や再現性、収益性に問題があったりして、一つのものを長く作り続けることの難しさを感じました。

 その中で受け継がれてきたデルフト・ブルー。感動です。

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