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レジのアジュンマに声を掛けた理由

 ジョギングをした先でコンビニがないのは、辛いものです。冬ならまだしも、何もせずとも汗が滴るこの季節に水分補給ができないのは致命的です。

 いつもとは異なる漢江の公園にコンビニがあると知ったのは、数ヶ月前のことでした。この日もその新しく見つけたコンビニに行き、いつものようにミネラルウォーターを手に取ります。ただ今回は、違う商品を選びました。大した理由はありません。何となく、丸ではない、丸みを帯びた四角い形に惹かれただけです。

 弱冷房という言葉は存在しないとでも言うようにキンキンに冷え切った店内に、人はいませんでした。店員すら見当たりませんでしたが、商品を選ぶ私の背中、つまりレジの方からは、スマホから漏れる赤ちゃんの笑い声が聞こえていたので、おそらく、レジの奥ではアジュンマ(おばちゃん)が孫の動画でも観ているのだろうと思いました。

 水を手にレジに向かった私は、自分の予想が外れていないことを知ります。「어서오세요オソオセヨ(いらっしゃいませ)」という言葉とともに立ち上がったアジュンマは、動画を停止することなくスマホをレジカウンターの上に置きました。そこは私が置いたペットボトルのちょうど横で、目線が行きやすい場所でした。画面には可愛らしい赤ちゃんが2人並んでいます。双子なのでしょう。機嫌良く、元気いっぱいにきゃっきゃきゃっきゃと笑っています。

 一言、何か言った方がいいのかな・・・。

 なぜか、何も言わずに立ち去るのは、冷たい気がしました。店内のように心の中まで冷えちゃうよ・・・というのは冗談で、ただ折角可愛い赤ちゃんが目の前で、しかもアジュンマではなく私の方を向いてはしゃいでくれているのですから、この機会に軽い会話でもした方が、お互いに温かい気持ちでこの後の一日を過ごせるような気がしたのです。

 だから、言いました。

 「귀엽네요クィヨンネヨ(可愛いですね)」


 その後、のどを潤しながら思うのは、昔だったら何も言わずに立ち去っていたのになあ(アジュンマに話し掛けるなんて、年を取った証拠かな)、ということ。

 また、日本だったら話し掛けなかったと思います。他人のスマホに映っている赤ちゃんを、しかも自分に見せているわけでもないのに、そのことについて話し掛けるだなんて、怪しい人(いや、怖い人?)決定です。

 やっぱり、こういうのは海外、今回だと韓国(とアジュンマ)という環境がそうさせたのかもしれないなあ・・・と一瞬思いましたが、そもそも日本ならお店の人がレジでスマホを見ていることはないだろうと気づき、考えるのをやめました。

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