もし私が20年前に戻れるならば絶対に知っておきたかった事 ~会社を高く売るための3つの視点~
前回の記事で、会社を高く売ることのデメリットを記載しました。高く売ることは簡単ではなく、また実態以上に高く売れてしまった後の弊害も記載したつもりです。
ですが、私がもし会社のオーナーであれば、そんな「綺麗ごと」には耳を傾けないでしょう。自分の命同然といってもよい自社を売るならば、きっと1円でも高く売りたいだろう、と思います。
ましてや父・祖父から継いだ会社であれば、安く売ることは失礼ではないかとも思うでしょう。
話は少し変わりますが、今の知見をもって、20年前に戻れていたら、私の祖父・父が経営していた会社の廃業を防げのではないかと思います。
情けないことに、事業再興は私の才覚では無理だったかもしれません。一方、M&Aという手法あれば、事業を残し、一族にまとまった資産は残せたと強く思います。
20年前の自分に向けてメッセージを書くつもりで、本日は記載したいと思います。
会社を高く売るための3つの条件を紹介いたします。
3つの視点
①決算書の観点・②ビジネスの観点・③組織力の観点
です。
①決算書の観点
これは当たり前の話ではありますが、シンプルに儲かっている会社かどうかです。
一般によく使われる評価方法は「年倍法」
考え方としては、時価純資産+税引き後当期純利益×〇年分です。この〇年分については、株価が数億円程度の中小企業M&Aであれば、一般に1~3倍程度と試算されることが多いです。
腰抜けするほどシンプルな方法と思いませんか?
時価純資産が100百万円で、税引き後当期純利益が10百万円であれば、営業件が3年分ついて、100+30=130百万円との計算になります。
この計算式を日本においてこれだけ使われるようにしたのは、日本M&Aセンターさんだと思います。わかりやすく、誰でもシンプルに進められるように工夫した点は事業承継の問題解決に貢献していると私は思います。
一方、私がオーナーであれば、たまったものではありません。時価純資産はまだ良いとしても、そこに加わる「のれん」が、税引後利益の「わずか3年分」とすると、ほぼ値段が乗らず会社売却する意味がないとさえ思います。
さらに、この株価に対して、25百万円~(場合によっては)数億円の手数料が差し引かれます。これでは、会社を何のために何十年もやってきたのか、わかりません。M&A会社が儲かるために会社経営してきたわけではありません。
せめて、会社の営業権(=のれん代)については、数億円くらいはつけてほしいです。営業利益の10年分くらいはつけてももらわないと納得できないです。
そのため上記計算式で、納得なさるのは高齢なオーナーさんが多く、高齢者もいないことから、「売却以外の選択肢がない」という状況に追い込まれている方ばかりなのです。
私が企業経営者であれば絶対に納得しないでしょう。
ご高齢のオーナー様の会社には、純資産も手数料である20百万円を超えないことケースもあります。そのため「個人で借金して手数料を払わないとM&Aが成立しない」という事態が生じる事も。
私も大手仲介に在籍していた際は、厳しい財務状況の会社さんをたくさん目の当たりにして、ご支援できないことが残念でなりませんでした。
しかし、自身も首になるかどうかスリリングな状況で毎日走っておりましたので、それどころではなかったのが実態です。
最近では、「トランビ」「バトンズ」といったお金をかけずに使える無料のM&Aプラットフォームもできてきたので、この点はどんどん便利になっていると思います。
次によく使われる株式価値評価は、EBITDAマルチプルという手法
こちらは非事業資産+EBITDA(税引き前営業利益+減価償却費)×☆年分という計算式です。
「非事業資産」の定義はわかりやすくいうと現金です。たとえば会社にCashが10億円あって、借入が5億あれば、差し引きして、5億という計算になります。
EBITDA(税引き前営業利益+減価償却費)が2億円であれば、たとえば非事業資産5億円+EBITDA2億円×4年分=13億円という計算が成り立ちます。
この〇倍については、一般に成長市場であれば〇の数は大きくなり、衰退市場であれば小さくなります。簡単にいうと儲かりそうなビジネスであれば、価値が高くなるのです。
一般には、類似する上場企業をみてどれくらいの株価がついているのかをみて参考とするケースが多いです。
EBITDAは、「税引き前営業利益+減価償却費」のため、本業での「キャッシュ創出力」を見る指標となります。
買い手からすると、市場評価や現実的なキャッシュフローの創出力から株価を算出できるため、EBITDAマルチプル法を使って評価を希望するケースが多いのが実態です。
年倍法 VS EBITDAマルチプル
どちらの評価が優れているのでしょうか。
評価は立場や財務状況によって、変わります。
ここは一般によく揉めるポイントです。
いわゆる、「老舗病」にかかっているような、「過去の利益蓄積で純資産は厚いものの収益性が先細っている会社」は、年倍法の方が有利なケースが多いです。
一方、属する市場が成長していて、きちんと営業利益がでている企業は、一般にEBITDAマルチプルで評価したほうが株価はあがります。
当然ながら、売り手は高く、買い手は安く評価をしたいものです。そのため評価方法が割れるのです。
大企業同士のM&Aであってもこれは、同様です。
仲介者であれば、売り手には後者で評価額を伝え、買い手には前者で評価額を伝え、調整にバッファを持たせ折り合いをつけようとします。
そのため、会社を売却しようとお考えのオーナーは仲介会社に評価を任せるのではなく、ご自身で評価方法を身に着けておくことが望ましいと私は思います。
この点、売り手専任のFAをつけると、バランスをとる「仲介」とは異なり、売り手の利益の最大化を目指しますので、安心かもしれません。
一方、FA同士の戦いにおいても、最後はどこかで折り合いをつけないといけないので、結局は仲介と同じような株価で着地することも少なくありません。
結局は「相場」があるので、評価方法の差こそあれ、大きく相場から逸脱することはないのです。
こちらは、売り手オーナーの志向にもよりますが、一般には事業価値が20~30億円を超えるようなケースになってくると、FA同士がバチバチ戦うことが増えてきます。
DCF法
上記2つの評価が一般的ですが、他にも、将来の事業計画から現在の事業価値を試算する方法(DCFなど)もございます。ファイナンスの考え方としては、もっとも合理性が高い考え方といわれています。
実際に、太陽光や投資用不動産の価値などは、DCFによって売買されることが多いです。
一方、事業計画から現在の株価を算出するためどこまでも、計画の信ぴょう性は非常に重要です。
売り手企業からすると、バラ色の計画を作りたいでしょうし、買い手企業からすると、バラ色の計画で値入をするのは不安です。
そのため、DCF法のみで、株価が決まることは現実的にほぼありません。
使われのは、買い手側が、入札形式にて他社よりも競争力のあるオファーを出したいときに、社内を説得させるときに多いです。
極論をいうと「なんとしても欲しくなる魅力ある企業を買収したいときに、使う特別なロジック」といえるでしょう。
EBITDAマルチプルで高い評価が出るように企業価値を高めるべき
3つの手法を記載しましたが、2つ目の手法できちんと高値が付くことが重要ではないかと私は思います。
理由は、年倍法よりも、EBITDAマルチプルの方が、入札が盛り上がるケースが多いからです。
EBITDAマルチプル法で評価が高い企業は、
「余計な資産(や負債)を保有しておらず」「本業での稼ぐ力が高い企業」となります。
たとえばIT会社などですとわかりやすいかもしれません。
会社には、PC・机しかないので、資産はほぼ現金のみ。時流にそったITサービスを開発しているので、売上・利益はともに右肩上がり。今後も市場は伸びていくため見通しは明るい!、となると高値が付きやすいでしょう。
一方、100年の歴史を持つ老舗会社で、時代変化に取り残されて、先代が残してくれた資産(土地など)はあるが、利益は先細っており、今後も市場縮小し、衰退が予想される、となると、評価が厳しいことは予想がつきます。
一般に、「身軽で儲かっている会社」が高値が付く会社のわかりやすい条件といって良いのではないでしょうか。
こうした企業であれば、入札で3~5社競った際に、オークション形式で株価が盛り上がるケースが多いのです。
株価評価の例外
もちろん、特殊な技術・巨大工場を保有しておりそれらが競争力の源泉であるという会社であれば、状況はかわってくると思いますし、資産の持つ価値に着目したM&Aも多数あります。
会社がまったく儲かっていなくても、会社が保有する資産の価値によってM&Aが成立することも、もちろんございます。
過去、「工業団地にある社屋」を評価してほしいと仰せの売手オーナーがいらっしゃました。万年赤字の厳しい財務状況の企業でしたが、ちょうど工場新設を予定している買い手企業がでてきて話がトントンと進みました。
正直、お手伝いは難航するとおもっていましたので、決まったときは安心しました。一方、このようなケースはレアです。
理由は、情報開示が難しいからです。「フリマアプリ」のように条件面をすべて買いて、アプリで数百万人にすべて開示してしまえばよいのでしょうが、M&Aの場合は、なかなかそういうわけには参りません。
最近では、M&Aのプラットフォームも増えてきましたが、登録している買い手企業の数は、日本全体としてまだまだ多いといえず、上記のような「奇跡のマッチング」を量産するには至っておりません。
一方、ここ数年の進歩は目覚ましいので、今後、5年~10年かけて、DX化が進みマッチングの質もあがっていくと思われます。
営業利益の20倍で売却が実現した事例
ここで夢のある話も1つ。
入札(オークション)は、同業も異業種も、未上場企業も上場企業も欲しくなるような激しいデッドヒートが起きてこそ、盛り上がります。
先日お手伝いした会社様は、営業利益が7億円のIT業でした。アプリ開発などを行っている企業でしたので、資産はほぼヒトのみ。アセットは軽く、借り入れもほぼなく、収益は右肩上がりの優良企業様でした。
最終的には、大手エンタメ会社・大手新聞会社・海外の富豪・大手おもちゃ会社、などのあらゆる会社が手をあげて、2次入札まで行い最終的には150億円以上での売却となりました。
EBITDA換算ですと20倍前後、と突き抜けた評価となりました。より高値をいれていた買い手企業もいましたが、従業員のことを考えて、組織風土やシナジーが高い会社をオーナーは選びました。
上記は特殊な事例としても、一般に「高値がつく会社」の決算書の条件は、「資産が軽く」「収益性が高い」会社となります。
前置きが長くなりましたが、財務諸表からみた株価評価の視点は以上です。
②ビジネス観点
こちらは、「今後も勝てるビジネスなのか」という点が論点です。
PER70倍 VS PER15倍の差はどこに?
現在は株価が大きく落ち込んでしまいましたが、日本M&Aセンターは一時、PER70倍という時価総額がついていました。
「大廃業時代」において、銀行や信金などから事業承継案をもっとも高いシェアで集めて、それを高額フィーで高速回転させて儲けるという、ビジネスモデルが評価されたものと想定しております。
「儲かっていて」「市場が伸びて」、かつ「勝ち続けられる仕組みがある」という点が評価され、今後70年間は、この収益性を維持するという異常ともいえる評価を市場から得ていました。
一方、同じく独立系企業として、投資銀行業務を行う日系企業であるGCAという企業は、長らくPER13~15倍程度を維持していました。(現在は、外資系投資銀行傘下となり上場廃止に)
M&Aアドバイザーとして扱う、案件の大きさ・案件の難易度としては、GCA社の方が高いと私は思います。一方、市場は日本M&Aセンターを長らく評価していた。
これは、「両手取引」で収益性が高いことに加え、事業承継案件にフォーカスして、市場が伸びる余地が大きかったと、マーケットが評価していたのだと私は思います。
上記は一例にすぎませんが、今後も競争力を維持していけるビジネスなのか?を問われるのがこの観点です。一時儲かっていたとしても、必ず、買い手企業は今後もこのビジネスが儲かり続けるのか?はみます。
ビジネスDDによって丸裸になる
具体的にはビジネスDDという形でチェックします。
これは簡単にいうと嫁入り前の身辺調査です。(他にも財務や税務・法務を見ます。) ビジネスDDの費用は数百万円~大きな案件ですと50百万円以上かけてプロに依頼して行います。
1~2カ月かけて、市場規模・その会社の強さ・強さを支える源泉が何か?競合・顧客のトレンドなどをみていくのです。
なので実態としては丸ハダカになります。
大事なことは、売るときに焦るのではなく、中期経営計画を作り、「勝てる戦略」を作って戦略に基づいて、舵を取る事なのです。
中期経営計画を作り込み、そこに魂をかけて戦っていれば、ビジネスDDは、「減点の場」ではなく、「競争力の源泉を確認する場」となり、ポジティブに働く事すらあります。
長くなりましたが、②ビジネス観点においては、今後も儲かり続けるビジネスに、事業を磨き続けているかという視点となります。
(DDでどんなことが減額に結び付くのか?については事例とともに後日整理してシェアさせて頂きます。)
③組織力の観点
①、②が素晴らしかったとしても、創業社長に大きく依存する会社は、評価が下がる可能性もあります。
もちろん、創業社長が会社に残り、力強く牽引するケースもあるでしょうし、それを望むオーナーもいらっしゃるかもしれません。
それはもちろん素晴らしいご選択です。一方、成長力があまりに前オーナーに依存し続けるとなると、株式を100%売却できない可能性もあります。
「49%持ち続けて一緒に成長してくださいね」と提案される可能性はあると思います。
一度に100%売却できた方が、売り手オーナーのリスクは少ないはずです。また、「社長に依存しなくとも伸びる会社」の方が、一般に高い評価を得られるケースが多いのも事実です。
日本電産や、ユニクロなどの日本を代表する会社の社長が高齢かつカリスマが率いていることが批判されることは、TOPに成長が依存することのリスクを指摘されているためではないでしょうか。
このため、番頭ないしは、右上でのような存在を育てて、会社を率いることができるリーダーを育成しておくことが重要です。
組織づくりには長期的な取り組みが必要
もっとも、そのような人材は1年や2年で育つことは考えづらく、中長期的に取り組みが必要です。また番頭社員だけではなく、管理者育成・組織風土強化についても力をいれる必要があるでしょう。
社長の優れた、商品開発力・戦略戦術に依存せず、組織力で競合他社を圧倒する力も有することで、企業の競争力は高まります。
M&Aの場面においても、必ずこの組織力は見られます。逆に買い手となっ立場から考えてみるとわかりやすいのでしゃないでしょうか。
「学研」をM&AによってV時復活させた、宮原社長は必ず、M&Aの際に、現場の店舗を見に行くといいます。
塾のM&Aであれば、「塾の現場に元塾生がいると強い」とコメントしておられました。それは、元塾生⇒大学生アルバイト⇒社員になった生え抜きの社員をさしていると思われます。
塾への信頼感が高く、塾を愛する現場社員が根付いてる現場は強いと、実経営の体験から発信しているとの記載もございました。。
長くなってしまいましたが、①~③を実現するとなると、一朝一夕では実現できず、コツコツと取り組む他ないのではと考える次第です。
まとめ
ポイントを整理すると、
M&Aには複数のロジックが存在するが、その中でもEBITDAマルチプルでしっかりと評価がつく財務基盤をつくりあげるべき
その理由は、EBITDAマルチプルで評価の高い会社は、資産が軽く収益性が高く異業種や上場企業も検討したくなるビジネスであるからである。
上場企業や異業種が検討すると入札形式は盛り上がる。
また短期ではなく、今後も継続的に儲かると期待できるビジネスを作りあげること。そのためには中期経営計画を策定し、自社のビジネスを磨き続ける事。
社長に依存しない自立した組織をつくる事。そのためにNO2、管理者、現場が強い組織を時間をかけてつくるべきである。
となります。
「そんな会社あるの?」とお感じになった方も多いかもしれませんが、高値がつく会社はやはり上記を満たしています。
むしろ、上記のビジネスになるよう逆算して、経営しているように私は感じます。
実際に売るかどうかは別として、「売れる企業を作る」という点は、良い企業を作り出すことと共通項も多いのかもしれません。
今日も長文にお付き合いいただきありがとうございました!
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