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【短編小説】疑惑

 彼女と僕が山にハイキングに行ったのは五月の事だった。川沿いを歩いていくと小さなお社があった。ずいぶんとさびれた社で屋根は壊れて中の鏡が見えていた。
 僕と彼女はその社に手をあわせた。それからもと来た道を戻った。山を下りるとき彼女はしきりと後ろを気にしていた。何しているのと問うと首を傾げる。何か変な感じなのよねと言った。それからというもの彼女は何かにつけて「へんなのにつけられている気がする」とか「誰もいないのに誰かにつけられている気がする」などというようになった。
 怖くなった僕たちは自称・霊媒師の彼女の友人に助言を頼んだ。霊媒師曰く「ハイキングの帰りにお社を拝んだのがいけなかった。良くないものが憑いてきたのだ。アレは拝んではいけない神様だった。アレを拝んでしまったがためにアレは彼女を自分の嫁にしようとしている。阻止するにはただ一つアレが彼女を手に入れる前にあなたが彼女と結婚してしまうことだと。
 僕は彼女と結婚することを決意し、ささやかな式を挙げた。それから彼女は誰かに見られているとは言わなくなった。  
 少し疑問に思っていることがある。彼女は本当に超自然的なものに見初められたのだろうか。本当は付き合って七年にもなるのにプロポーズしない僕に業を煮やして友人と結託してでっち上げたのではなかろうか。
 だって不思議を体験したのは彼女一人で僕は不思議な目にあってないのだ。
 でも…もしそうだったとしてもそれでもいいかなって。あの騒ぎがなかったら決断できなったと思うから。
 家族もできたので、引き続き就職活動頑張り今年度中に就職したい。
  

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