見出し画像

あなたが好きだから

年の瀬に「芝浜」を聴く会。
旦那さんに誘ってもらって
鈴本演芸場に向かった。

3時間と少し。
ほんとうに豊かな、外の世界とは異なる
ゆるやかな時間が流れている。
厳しいだけではなく
真実のあたたかさのようなものを感じる。
舞台演劇の劇場とは違う
この違いが「日本」という国の
個性であるのならば、なんて素敵なんだろう…
しみじみとそう思った。

「芝浜」は、お酒のせいで商売が傾いてしまった夫を、嘘をつくことで妻が救っていく…
物凄く短絡的な説明をすると
そういう物語である。

物語を知っていると
妻が夫に嘘をつくシーンで、涙が出てくる。
ああ、このとき奥さんは旦那さんのことを心底心配だったんだな。
ああ、きっとこの瞬間に嘘をつくことを決心したんだな。
そんな風に感情移入する。

嘘をつく、ことは不安だったろう
怖かったろうな…
でも、きっと大好きな人だから出来たことだったんだろうな…

妻は、夫に種明かしをしたとき
夫を失うかもしれないと覚悟していただろう。
夫をそこまで献身的に支えたということよりも
最愛の人がもう一度真人間になるためなら
その人の人生から自分がいなくなってもかまわない。
そういう深い覚悟がそこにある。

夫婦とはなんだろうと思う。
わたしは夫を愛しているけれど、まだ何も知らないのだとしみじみ思う。
彼について、そしてまた愛について
まだ赤ん坊のように
何も知らないのだと思う。

落語は、歴史と愛によって
わたしたちを赤ちゃんに戻してくれる力がある。
そんな気がする。
何も知らなくて当たり前だし
恥ずかしがることはない。

これから知ればいいのだ。
そんな温もりを心に灯して
夫とふたり、家路についた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?