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4分の3

トラウマを克服すること。
それが今回の目的だった。

完全に入っているはずの台詞が
出ないと思い込むこと。
ちゃんと出来ているシーンが
空間が歪んでいるかのように
突然不安定なものに感じること。
ただ静かに観ているだけのお客様が
退屈しているように感じること。

そういう「弱い気持ち」
「自分を信じられない自分」を
克服したかった。

かつて、それに内側から押しつぶされ
外側からはいじめ抜かれて
精神を壊して
わたしは芝居から足を洗った。

今回、またチャレンジすることは
簡単ではなかった。

芝居とは、地獄のことだと
あの頃思っていたのだ。
そこから時間の針は止まったままだったのだから。

それなのに、そうした。
母に。
死んだ母に。
見せたかった。
わたしが芝居をして笑うところを。

4回の公演で、一度は心が折れそうになった。
やっぱり無理だ。
あの頃と同じで、恐くてたまらなくなった。

でも気づいた。
その自分以外に、それを見ている自分がいることに。
もう知っているでしょう。あなたは。
そう思った。
そうやって暗闇に自分を追い込むことに
意味なんかないってこと。
吐いても、ぼろぼろになっても
芝居はよくならない。
直前まで、ニヤッと笑える
強い精神力が
わたしの中のどこかに必ずあること。

心臓の鼓動が
普通のリズムになった。
深呼吸して
ただただ努力して。
そして知った。
必ず上手くいくのだということを。

10年芝居をやっていた時
1年に何度かしか感じられなかった
穏やかな精神状態だった。
4ステージ中3ステージ。
わたしは舞台裏で
自分自身にニヤリと笑いかけたのだ。
いける、必ずいける。
成功する、と。

そう思える自分が好きだった。
調子乗りで、無鉄砲で、愚かで
無理ばかりして、ふざけてばかりいて。

ずっと幼かった頃に
そして、芝居をはじめてした時に
存在していた自分だった。

努力するのではなく
気づくことだった。

台詞は入っていた。
そのことに気づくのに 
10年とそして、辞めてからの長い時間が
必要だった。

台詞はずっと入っていた。
やってきた自分を
やっと信じてあげられた。

よく覚えた。
よく言えた。

わたし、今までずっとありがとう。
これからも頼りにしてるよ。

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