VOCA30周年記念 1994-2023 VOCA 30 Years Story / Kobe ◇原田の森ギャラリー
兵庫県立美術館王子分館 原田の森ギャラリー VOCA30周年記念 1994-2023 VOCA 30 Years Story / Kobe (会期:2023年3月9日- 3月25日)のレポートです。
VOCA展ってナニ?
VOCA(ヴォーカ)展は、1994年から若手作家の支援を目的とした展覧会。上野の森美術館を会場に毎年春に開催され今年で30年目を迎えます。
全国の美術館学芸員や批評家などが推薦した40歳以下の作家が参加し、その中からVOCA賞、VOCA激励賞などが選考されます。絵画・写真・版画・ドローイングといった「平面」「2次元」であることの意味と可能性を探り続けている展覧会だそうです。
VOCA賞作品、30年をイッキ見ちゃおう!
そんなVOCA展を見ようと思ったのは、様々な展覧会を見ていて今は古典になっている作品も当時は、もてはやされたり、驚かれたり、「こんなの芸術じゃない!」とか言われたりしてきたものもあるんだろうなぁと考えると、自分が生きているこの時代の今を生きて活躍し、でもこの先どうなっていくのか分からない芸術家を見ておきたいと思ったからです。
ちょうどそんな気持ちになっていたところに、このVOCA展30周年。
これは行くしかないでしょ。
ということでやってきました原田の森ギャラリー。
このギャラリーは元々は兵庫県立近代美術館(建築:村野藤吾)でしたが、兵庫県立美術館ができたことにより現在はその分館という位置付けになっています。
とはいえ兵庫県立美術館は海側で、こちらは山側と結構離れた場所に位置します。激烈方向音痴なわたしはGoogle map先生片手に歩いていたところ、目の前になだらかに続きすぎる坂が現れた時は若干ひきました(結局そこまで登らなかったけど)。
現在では様々な芸術活動の拠点として展示会などに活用されています。元は美術館なのでギャラリーとしては相当な面積で、かなり広々としていました。
それでは、30年分の受賞作品をイッキに見ていきましょう!
※全作品撮影可。画像では色など細かなディティールが異なることがあります。
勝手に「My ○○で賞」を開催!
以上30作品(1994年は2作品)。
今思い出してみると、普段見ている展覧会と全然雰囲気が違ったなぁという感想です。
なんていうか・・・空気がきれい?さわやか?新鮮?物質的に新しい?
別に普段の展覧会をディスってるわけではもちろんないです。でも絵画だって物質なんだから時間が経てば劣化は免れない運命なので、なんらかの目には見えない古い微粒子的なモノを発してると思うんですよね。
それが、無い。といったらいいのか。単に区切りやケースなどがまったくないからスッキリしてるだけかも知れませんが。
話が逸れてしまいましたが、作品自体は見ていておぉ〜!とは思いながら正直???なものも多かったです。ただ古典的な絵画よりも「これはなんだろう?」と考えさせられたり、視覚的にハッとすることが多かったかも知れません。
そこで、第1印象から完全な独断と偏見で、自分の中の賞を考えてみました。
また、いわゆる「個人の感想です」の後に、作家本人の当時の作品へのコメントを引用し比較してみました。正解があるわけではないと思いますが、鑑賞者として作家さんの意図とどのくらいの距離があるのか気になるところです。
■ファーストインプレッションで賞■
福田 美蘭 《STAINED GLASS》
ステンドグラスみたいだなと思ったらタイトルにもなっていた。
2枚組の1枚はカレー?・・・どうみてもカレーだよな・・いやビーフシチューか?いやそんなことはこの際どうでもいい。と思いながら、なぜか目が離せなかった。リアルであるわけがないのに、リアル。日常であるのに荘厳。
■ファーストインパクトで賞■
世良 京子 《BACK OF BLACK No.19,No.20》
え…真っ黒やん…。が最初の感想。いやこれはさすがに誰が見てもそう思うでしょ?
カラーフィールドペインティング*とかミニマルアート*などが頭をよぎるも、近くで見てみると、思ったよりモフッっとしたマチエール(絵肌)。
ひいてみていた時はブラックホールのように「なにも寄せつけませんよ!」(いやむしろ吸い込まれる?)みたいと思ったけど、この立体感はナニ?
さ、触りたい・・・
*カラーフィールドペインティング:抽象芸術のひとつ。形がわかるようなものを使わず少ない色で面を描く(塗る)。
*ミニマルアート:抽象芸術のひとつ。とにかく説明や意味のあることは削ぐ。とにかく意味は持たせない。
■2度見が過ぎるで賞■
日野 之彦 《あおむけ》《口に両手》
会場の外に展示されていたので、チケットを購入する前に目にした作品。そりゃ勝手に飛び込んでくるでしょ、これは。否応なしに引き寄せられるように作品の前まで行く、までの距離に様々な感情が引きずり出されていく。
目の中の1点の白い光の突起を見て「絵の具だ」と思うまでなんだか油断がならなかった。
■わたしの視界で賞■
前田 朋子 《it overlooks》
わたしは激烈に近視なので裸眼の世界はこんな感じで、なんかわからんけどわかる、といった感じ。
近視とは不思議なもので、見えている人からすると信じられない視覚だと言われるけれど、いつの間にかこういうのが普通になっていく。特に見えなさがある地点までくると、もう見えていないという感覚が薄くなる。それが日常になって、普通じゃないけど普通になる。(でも矯正した世界は素晴らしい)
■アンリ・ルソー?で賞■
鈴木 星亜 《絵が見る世界11_03》
なぜか日曜画家ルソー*が頭の後ろの方で浮かびあがる。
これは葉っぱなの?湖なの?橋なの?
他の作品よりも比較的小さな画面の中にたくさんの「???」が詰め込まれているようでありながら、どことなく可愛らしさもある不思議な作品。
*アンリ・ルソー:フランス素朴派の画家。税関に勤めながら絵を描いていたので「日曜画家」と呼ばれる。なにかと不思議な絵を描く人というイメージ。
■思わずニヤリで賞■
久門 剛史 《crossfades #3》
一見シンプルなんだけど、なにか気になる。いや絶対なんかあるはず!とめちゃくちゃ近寄ってみた(基本的にどれも結界がない)。
時計の秒針のように動く針金の先にはレンズ。よくみるとハイきた!
これは多分円周率。だって円の上を回ってるし。
でも右側の銀色に塗り込まれた画面は・・・?
よくみると一部分だけ鏡のようにツヤツヤしている。覗き込むと自分の目がクッキリと映る。覗いたのに自分が見てるってナニ?
なにかわからないけど、おもしろ体験をした感じ。
■思わず見入っちゃうで賞■
田中 望 《ものおくり》
大きな鯨のような生き物がぐるりと描かれる。血のような赤が不気味な雰囲気を漂わせる。
伝統的な題材なのかと思えば、よく見ると小さなウサギのような生き物がワイワイやっている。伝統とかわいさ、まつりと葬送、巨視と微視がごちゃ混ぜになっている。
三瀬 夏之介 《J》
30作品の中では圧倒的な密度と支持体*である和紙がびろーんとなっていて目をひいた。
色使いと描かれた形態は不穏であるのに、調和と美しさも感じられる。遠くで見るもよし、目を皿にして隅々までみるのもよし。
*絵具を塗るキャンバスや和紙など
以上が個人的に印象に残った作品でした。
自分の嗜好もあれば、ないわ〜と思いながらも惹きつけられるものなど、完全に直感的な選定です。見た目だけの好みで言えば他にもありましたが、それはあえて選ばず。
ファーストインパクト&インプレッションのトップの2作品は、1994年VOCA賞同時受賞作品。
両者共とにかくパッと見からして熱量というか、パワーが感じられました。VOCA展も第1回目ということでその時代の熱みたいなのもあったのかも知れません。
全体を見渡してみると時代が下るにつれて、視覚のイリュージョン性みたいなものが高くなっているような、それはアナログからデジタルへの移行と重なるような雰囲気も感じました。
この中で名前だけ存じていたのは、福田美蘭さんと、久門剛史さん。
福田美蘭さんは昨年の練馬区立美術館で開催された「日本の中のマネ」でも話題となった方です。
久門剛史さんは豊田市美術館での展覧会が気になっていたけれど見に行けなくて、なんとなく心に残っていたので、ここで出会えてうれしかったです。
いや〜みたかったなこれ。
その他、うわ〜っと思った(語彙)2作品を。
意外と楽しい、今ある現代アート
自分があまり物事を深く考えるタイプではなので、といったら変なのですが、逆にそれが今あるアートに対する抵抗がない(なさすぎ)のかと、今回の展示を見ていて思いました。
思考するとは、そこに深い教養や知識があってこそ深みを増すと思うのですが、その辺が浅いので割とスイスイと受け入れられるのかも知れません。もちろんそれはまったく良いことではありませんが、アレもダメ、コレもダメとなるよりは幾分良いのではと肯定的に捉えるようにしました。
批判や批評といったものはその道の専門家に任せて、素人は自由にアートを楽しめば良いなと再認識しました(それまでも「アートは自由にみていいんだよ」と言葉では言われていても実感として理解できなかったというか)。
でも歴代受賞者の方々の当時のコメントを読んでいると「絵だけではやっていけない」感が伝わってくるものも多く、これもまた現実なんだなと思いました。だからこそ、こういった展覧会が必要なのだと思います。
応援するとかおこがましいので、せめてこれからもどんどん知らない現代アートを見ていきたいですね。
2023年のVOCA賞は、以下 HPで受賞者のコメント動画などが視聴できます。
今年はまた凄い・・・スケールというか世界観が身近でありながら大きくて、身近だけど知らなくて、でもそれぞれの人の中にはある世界かも知れない。画像からしか見ていないし、陳腐な言い方になってしまいますが愛情みたいなものも感じられました。
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