社 真秀

「自分の想う世界観を広げたい、形にしたい」という気持ちを抑えきれず投稿を始めました。 …

社 真秀

「自分の想う世界観を広げたい、形にしたい」という気持ちを抑えきれず投稿を始めました。 駆け出しですが、少しずつでも伝えられるよう努めますのでどうぞよろしくお願いします。 アドバイス、ご指摘いただけますと幸いです。

最近の記事

ショートショート31「8月32日」

俺はこの夏休み、恋をした。 相手は夏の女神かと思えるような人だ。 日差しをいっぱいに浴びた麦わら帽子、新品のレースカーテンの様にひらひらと風に吹かれる白いワンピースの身なりで、優しくみずみずしい笑顔を見せてくれる。 だが、9月には東京に帰ってしまう。来年会えるかどうかはわからない。 ……なに恥ずかしいこと考えてるんだ俺。 「おはよう!」 すっかり顔見知りとなった彼女が今日も話しかけてくる。 「お、おはよう。あのさ、今日って何月何日だっけ」 「えっと、8月72日

    • ショートショート30「村のお稲荷様」

      やっと夏休みに入ったと思ったら、もう秋の気配だ。 その証拠に田んぼは黄金に色づき始め、赤トンボが飛んでいる。 正直言ってまだ遊び惚けたい。もう少し夏が長くなればいいのに。 そんな事を思っていると「もう夏は終わり」と言うかの如く山から狐が降りて来てた。 この狐は秋が近づくと田んぼの小さな社にやってくる。 神様の使いだとか、秋の化身だとか、色々言われていて村の皆は手を合わせ供物を差し出す。 商売繫盛、屋内安全から厄除け、農作祈願、この村は何から何まで神頼みだ。 そう

      • ショートショート29「お地蔵様と梯子」

        「ごめんください」 時折私の家には……地蔵菩薩像が訪ねに来ます。 自分でも何言ってるんだと思う。でも、事実なんです。 「梯子を頂きに参りました」 お地蔵様から毎回梯子を強請られます。 何故梯子が必要なのかと訊いたら、「人を救う為です」と仏顔で返されました。 いや、像ですからいつも表情は同じなんですけどね……。 お地蔵様は地獄に堕ちた人を救済すると信仰されているけれど、まさか梯子で救助するとは思いもしませんでした。 「ありがとうございました」 梯子を受け取った

        • ショートショート28「気持ち花火」

          「花火大会やるわよ!」 「おー!」 夏の終わりの晩、我が家は毎年花火大会をするの。 というのも手持ち花火だからミニ花火大会ね。 こんな粗末な物でも子供は喜んでくれるみたい。 私もそうだったからばかにはできないわ。 「私の見てスイカ!」 「俺の方がスゲーよ!カブトムシだ!」 近所のスーパーで毎年買う気持ち花火。 【夏の思い出が花火の形になる!】って太字で書いてある。 「花火を十字に持てば、ウマトラマンビーム!」 「フフッ、何してるのよぉ」 長男がテレビで

        ショートショート31「8月32日」

          ショートショート27「手のひらを太陽に」

          山道のトンネル。 湿り気と黴臭さの漂うそこは幽霊が出ると噂が絶えない。 僕らの遊び場である公園はそんな恐ろしい場所を抜けた先にある。 一人で行くには怖いけど、兄ちゃんがいるからへっちゃらさ。 兄ちゃんは僕より少し年上で、最近トンネルで知り合った。毎日一緒に遊んでくれるんだ。 「幽霊から身を守ってくれるおまじないって知ってるか?」 「何それ」 公園で遊んでいる時、兄ちゃんが教えてくれた。 「こうやって、太陽に手のひらを向けるんだぜ」 僕も真似て太陽に翳してみる

          ショートショート27「手のひらを太陽に」

          ショートショート26「灯篭塚の小人」

          何故明りがつくんだろう。 裏庭の藪を抜けると灯篭塚と呼ばれる場所に出る。 人目に付かないそこは夥しい数の小さな灯篭が置かれているのだが毎晩火が灯るんだ。 灯篭には蠟も電気も無いのに何故だろう。 誰かが夜な夜な灯しに来るとしても意図が汲めない。 真相を解き明かす為、僕は灯篭塚にやって来た。 夕暮れ時、木の影に隠れ静観していると藪からやんややんや声がした。 「さあ、着いたぞ!皆の衆良く頑張った!」 「今日は宴だ!朝まで飲もう!」 目に飛び込んできた異様な光景に僕

          ショートショート26「灯篭塚の小人」

          ショートショート25「呪い屋」

          「よってらっしゃい見てらっしゃい。呪い屋だよ」 祭りが終わった深夜1時に声をあげる屋台があった。 白衣に扮し、灯した蝋燭を突き立てた鉄輪を頭に被った不気味な女性が注意を引いていた。 「呪い屋?」 一人の男が進み出て尋ねた。 「いらっしゃい。呪い屋はね、丑の刻参りを使った遊びさ。自分の名前を書いた紙を藁人形に入れて五寸釘を打ち込むと面白いことが起きるんだ」 「死ぬとかないよな?」 「大丈夫、このあたしが保証するよ。試しにどうだい?」 「ああ」 男は恐る恐る紙に

          ショートショート25「呪い屋」

          ショートショート24「縁側の鴉」

          暑い夏の午後、 俄雨に慌てて洗濯物を取り込んでいた時ふと縁側を見たら紫がかった一羽の鴉が雨宿りしていたの。 可哀想だったからそっとしておいてあげたのだけれど雨が止んでも一向に飛び立とうとしないのよ。 どうやら羽に怪我をしているみたいだったから、包帯を巻いてあげたの。 抵抗すると思いきや人馴れしているのか暴れる素振りは見せなかった。 何だか不思議に思ってしばらく様子を見ることにしたの。 あの子はいつも縁側で空を見上げてる。 まるで寂しそうで、悲しそうで、今にも泣いてし

          ショートショート24「縁側の鴉」

          ショートショート23「日替わり掛け軸」

          僕のお婆ちゃん家には不思議な掛け軸がある。 今日は鳥の絵。 水浴びをしている鳥が描かれている。この鳥が飛んで行くのを見た気がする。 翌日は朝顔の蕾の絵。 そういえば今朝、朝顔が咲いていたな。後で水やりにでも行こうかな。 翌々日は猫の絵。 ここで飼っているミケだ。蝶をジッと見つめている。 毎日絵が変わるから見ていて飽きない。 でも、本当に面白いのはここから。 そろそろだ、夕暮れ時になるとそれが起こる。 絵のミケが身を伏せて蝶に忍び寄った。これは獲物を狩る時の

          ショートショート23「日替わり掛け軸」

          ショートショート22「向日葵電話」

          酷いことをした。思ってもいないことを口にして怒らせてしまった。こんな見窄らしい自分が恥ずかしくて耐えられない。 「麦わら帽子のお嬢さん、何かお困りですかな?」 誰?周りには誰もいない。縹渺と無辺際に広がる向日葵畑にポツンと一人、私が泣きじゃくっているだけ。 「ここですよ、お嬢さん」 一輪の向日葵が葉を揺らして手招きをしていた。 「何か事がおありでしょ?きっとお力になれますよ」 光輝ある向日葵が言った。 私は包み隠さず話した。誤りたい人がいる。けれど想いを伝えたい

          ショートショート22「向日葵電話」

          ショートショート21「座敷童子の必勝法」

          「弱虫の座敷童子!まだ墓地に居たのか」猿の妖が言った。 「役立たずめ!こうしてくれる」続けて牛の妖が拳を振り上げた。 「止めなさい何してるの!」そこへ女の人が飛び込んだ。 「人の癖に我らを恐れぬとは生意気な。喰ってやっ……」 猿の妖が言掛けると女性は二人に拳骨を噛ました。 「な、なんと卑怯なぁ」 二人は星を回すと齷齪と逃げ去った。 「大丈夫?怪我してない?」 凄い!牙も角もないのに勝っちゃった。 「あの、僕を子分にしてください!」 「え!?」 もしかして

          ショートショート21「座敷童子の必勝法」

          ショートショート20「背負う者」

          大人になったばかりの私は幾度も責任に押し潰された。 そんな時は決まって山にある沼で心を和ませたものだ。 人は滅多に来ない。そりゃそうだこんな所に何の用があるのやら。 その分、気晴らしには持って来いの場所だ。それに、亀にとっても好都合だ。 此処の亀は人の害が無いからなのか極めて長寿だ。決して外来種ではなく、歴としたイシガメで寿命は20~30年だと聞くがそうは見えない。 私は亀に詳しい訳ではないが、明らかに他の亀とは違う特徴があった。 それは甲羅に付着した物で蓑を生や

          ショートショート20「背負う者」

          ショートショート19「人魚伝説」

          満月の夜は決して漁に出てはならない。というのが港の決まりであった。 しかし仕来りなど聞いたことかと、若い漁師が数人舟を沖に出したそう。 漁は順調に進んだと思われたが、奇妙なものが網に掛かったという。 「おい、何だこれは」 そこに現れたのは人魚だった。 人魚というのはどれも下半身は魚、上半身は美しい女性といったものではない。 頭は人の顔で二本の角があり、首は無く体が魚のそれである。 人魚は若い漁師に向かって不気味な声でこう言った。 「お前らも私の肉が目当てだな」

          ショートショート19「人魚伝説」

          ショートショート18「壺中天」

          「お、酒かい」 「はい、盃と金を渡してくりゃ飲み放題ですよ」 旅の宿、商人の兄ちゃんが酒を振舞っていた。 「こりゃ凄い綺麗な黄金色だ」 上手い。こんな上手い酒を味わったのは久しぶりだ。いいのかねこんな贅沢なことをして。 「つまみもないか」 「ありますよ、しばしお待ちを」 そう言うと兄ちゃんは酒壺をツンっと指で弾くと中から、田楽や湯豆腐、ゆでダコ、芋の煮物やら次々取り出した。これには俺も度肝を抜かれた。こりゃどういうからくりだ。 「兄ちゃんもっと酒くれよ」 ベ

          ショートショート18「壺中天」

          ショートショート17「予知ビー玉」

          「たっだいまー」 冷蔵庫の扉を開けると同時に言い放つ。そこには、学校から帰ったら飲もうとキンキンに冷やしておいたラムネが……無かった。 正確にはラムネの中身、ラムネ水が綺麗さっぱり無くなっていたのだ。残ったのはおまけのビー玉だけ。 「誰かが私に黙って飲み干したなぁ」 瓶を洗おうと水を注いだ。その時奇妙な光景が起こった。まるでビー玉が喉を乾かせ、水をがぶ飲みするかの如く全て吸い尽くしたのだ。 私はビー玉を取り出し、転がしたり、振ったりして確かめたが一滴も水は落ちなかった。

          ショートショート17「予知ビー玉」

          ショートショート16「お土産切符」

          電車に初めて一人で乗りました。 「切符を拝見。おや、嬢ちゃん一人かい」 「うん! お家に帰るの」 「そうかい偉いね」 電車が川の上を走っています。キラキラしていて綺麗です。 「ママとパパ喜ぶかな」 「ああ、喜ぶさ」 電車がひまわり畑を走っています。ポカポカしていて太陽みたいです。 「でも、お土産買うの忘れちゃった」 「それなら切符をお土産にしたらいいよ」 「いいねそうする!」 電車が町を走っています。小さな町です。 「夕暮れまでには戻ってくること。約束

          ショートショート16「お土産切符」