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ショートショート31「8月32日」

俺はこの夏休み、恋をした。

相手は夏の女神かと思えるような人だ。

日差しをいっぱいに浴びた麦わら帽子、新品のレースカーテンの様にひらひらと風に吹かれる白いワンピースの身なりで、優しくみずみずしい笑顔を見せてくれる。

だが、9月には東京に帰ってしまう。来年会えるかどうかはわからない。

……なに恥ずかしいこと考えてるんだ俺。

「おはよう!」

すっかり顔見知りとなった彼女が今日も話しかけてくる。

「お、おはよう。あのさ、今日って何月何日だっけ」

「えっと、8月72日」

「……そっか夏って長いね」

いや、長いって騒ぎじゃない。

まるで今日が今日じゃないみたいだ。

こんな事になったのは、きっと夏を手放せなくなった俺に責任がある。

31日の夜、「夏が終わらなければ彼女が帰ることはないのに」そんな浅はかな考えで眠りに着いたばっかりにこうなった。

目を覚ませば32日、終わらない夏休みに彼女を巻き込んだ。

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