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酔っ払いの鮮明な記憶〜幸せな時間〜

(正源の娘の雑記) 

 差しつ差されつの二人は、並んで盃置いて、そこには愛情があって、柔らかな静かな時間が流れているそんなイメージだ。周りに何人いようと二人の世界だ。
 同じ二人でもテーブル挟んで向かい合わせ、新型コロナ禍以降あり得ない、きっと化石になってしまうだろう返杯の当たり前だった頃の話だ。
 あの宴の日から20年以上時は過ぎた。何杯飲めば明日がやばいと心得ていたはずなのに返杯は計算を許さない。はたして翌日は二日酔いで、それでも仕事は一応している。ありがたいことには同じ症状の同士が数名いたことだ。ここは職場。昨日の宴席は仕事が絡んでいた。
 昨日に時間を戻そう。返杯相手は税理士の先生だ。何やら難しい話をしていたと思う。ちょっとした問題が発生していたのだ。でもそんな問題の話なんか忘れてしまった。意気投合してしまったのだ。因みに税理士先生は男性で私は女性。何やら怪しげに想像してしまう関係と思いきや、私の左隣にはヒデキがちょこんと座っている。その隣にはヒデキのママが箸を進めている。ヒデキはまだ1歳に満たない。そうさ税理士先生はヒデキのパパだ。
 私はその昔西城秀樹の大ファンで初めてのライブ参戦が秀樹だった。とにかく初めて見た時から、ついさっきだけれど、ヒデキに一目惚れ!お名前も相まってもう可愛くて可愛くて!どうしよう。意気投合したパパと可愛いヒデキ。ヒデキにかまいまくる私を、ママはうれしそうに観ててくれて、もうこの家族大好き。ヒデキの相手しながら飲むお酒。税理士パパの相手しながら飲むお酒。
 二次会でカラオケに行った際には、「その曲さっき歌ったからね」と友に突っ込まれ「酔っぱらいだから許せ」と返す。記憶なんてそんなもの。なのにあの日の宴席は鮮明に思い出せる不思議。

「近ければスカウトしたい。」
「近ければ明日転職します。」
 売り言葉に買い言葉はこんな使い方しないけれど、本心か社交辞令か、お互いに酔っ払いのたわ言か。でも頑張りがわかってもらえているような気がして嬉しかったんだ。
 言い訳がましいかもしれないが、基本お酒は味わって飲むタイプだと思っている。味わっているようには見えないその宴席だったけれど、難しい話もあった上でのお酒だったけれど、周りに何人もいたけれど、その空間の楽しくて、あったかくて、幸せな記憶が思い出の全てだ。とても幸せなお酒だったのだ。
 差しつ差されつもいいなと思うけれど、今は一人でゆっくり飲むお酒と、ちょっぴり酔っ払い気分で想いを言葉に変えていくこの作業がとても好きだ。お酒がくれるこのほんわかした時間が好きだ。


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