#429 預金は誰のモノ?:預金者の認定-1(今日は事案の説明だけです)

【 自己紹介 】

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【 今日のトピック:預金者の認定 】

今日は「預金者の認定」という,普段は全く気にしない事柄についてお話しようと思います。

「預金者の認定」とは,「預金者は誰なの?」という問題です。

「いやいや,預金者が誰かって,預金口座の名義人がいるから,その名義人のモノでしょ」と,多くの人が思うはずです。

言うまでもありませんが,預金口座は,必ず誰かの名義で開設され,預金は,ふつうは,その名義人のモノです。

ただ,以前,こんな依頼を受けたことがあります。今日は,この依頼について説明して終わりますが,結構おもしろい話なので,読み進めてくださると嬉しいです。

お客さんは,80代後半の女性でした。

実は,その女性,20代で結婚したものの,2年後に離婚し,その後再婚せず,ずっと独身でした。

今から60年ほど昔の結婚・離婚ですから,離婚するのもいろいろとハードルが高かったと思います。

ただ,気の強そうな女性ではなく,とても穏やかな方にお見受けしました。

この女性は,結婚後に男の子を出産していました。ただ,離婚に伴い,親権者が夫に指定されたことで,いわば「生き別れ」状態になってしまいました。

仮に僕が離婚事件の代理人に就任していれば,当然,面会交流の取り決めを結びますが,60年も昔のことですから,親権を奪われた母親との面会は「ご法度」だったのかもしれません。

この女性にとっては,たった1人の息子です。生き別れたとはいえ,かけがえのない存在です。

女性は,親権を奪われ疎遠になったとはいえ,いつか息子の役に立てばと願い,息子名義で預金口座を開設し,その口座にコツコツと入金していました。

本来,親権者でない親が,子ども名義の預金口座を開設することはできません。この仕組みは,昔と今で変わったわけではありませんが,昔は,口座の開設が,今とは比べものにならないほど,簡単だったようです。

今なら,母親が息子名義の預金口座を開設しようと銀行支店窓口にやってきた場合,息子の存在を示す戸籍謄本を提示しなければいけません。

もちろん,息子が成人していたら親権者ではなくなりますから,息子名義で口座を開設することはできません。戸籍謄本で生年月日も確認できますから,息子が成人しているかどうかはすぐに判断できます。

息子が未成年だとしても,口座を開設できるのは,親権者だけです。母親が父親(夫)と婚姻中であれば,共同親権ですから,母親に親権があるので,口座を開設できます。

母親が父親と離婚している場合は,親権者は母親又は父親の一方になります。離婚していることは,戸籍謄本に現れるので戸籍謄本を見せればわかりますが,ただ,戸籍謄本を見せても,親権者が母親かどうかは,必ずしもわかりません。

離婚事件で必ず不思議に思われることがあります。親権者を定めないと離婚できないのですが,親権者を定めたとしても,戸籍が変わるとは限らない,ということです。

例えば,親権者が母親と定められ,子どもが母親を筆頭者とする戸籍に入っている場合,この子どもたちは,別に戸籍を移動する必要はありません。離婚後の単独親権者である母親の戸籍に,離婚後も属していればいいです。

ただ,母親が親権者と定められたものの,離婚によって,母親が父親を筆頭者とする戸籍から離れる場合,子どもが父親の戸籍を離れるかどうかは別モノです。

親権者は母親と定めたのに,子どもの戸籍が父親の方のままになっている,という事態は,今の戸籍制度上ありえます。

というか,「子の氏の変更」という,子どもの戸籍を変更する手続きをとらない限り,子どもはずっと父親の戸籍に残り続けます。

めちゃくちゃ脱線してしまいましたが,結局,離婚した母親が息子名義の預金口座を開設する場合,息子の親権者であることを銀行に示さないと,銀行は口座を開設してくれない,ということです。

先ほどの女性は,親権者ではなかったわけですから,本来,息子名義の預金口座は開設できなかったはずですが,昔は,銀行が開設してくれていたのです。

この女性を責めるべきではありませんよね。↑に書いたような,親権に関する知識なんて,ふつうは知りません。銀行が口座を開設してくれたのなら,それが「おかしい」なんて思わないのがふつうです。

こうやって,息子名義の預金口座を開設し,入金を繰り返していたのですが,銀行から通知が届きます。

「長年取引がないので,預金が消滅します」という通知です。

長年にわたって入金してきた預金が消滅してしまったら大変だということで,銀行の支店に赴き,自分のお金だから,自分名義に変えるか,または,全額引き出させてくれ,と申し入れました。

でも,銀行は「預金者本人しか手続きできません」の一点張りです。

先ほどの「通知」も,宛名は名義人の息子です。この女性は,口座を開設する際,息子さんの住所は知らなかったので,自分の住所を書いて口座を開設していました。だから,その住所宛てに通知が届いたわけです。

さて,この女性は困ってしまいます。

せっかく息子のためにお金をためていたのに,それが消滅してしまっては,これまでの努力がムダになってしまいます。

最初は,こういった相談でいらっしゃいました。

そして,この女性,自分が長年にわたって入金してきたわけですが,このお金は,全部息子の役に立てばと思って入金してきたので,最初は,「消滅する前に預金を全部息子に渡してくれ」という要望されたのです。

「自分の預金が消えてなくなるから,その前に取り戻したい」のではなく,

「消滅すると息子の役に立たないから,息子となんとか連絡をとって,名義人本人である息子に,預金を全部渡してほしい」と,この女性は思っていました。

この依頼を正式に受けることになり,まず,息子さんの所在を調査しました。

弁護士は,戸籍や住民票を,依頼の遂行に必要な範囲で取得することができるので(「職務上請求」と呼ばれます),女性の戸籍からたどって,息子さんの住所を突き止めました。

そして,その住所宛てに手紙を送り,預金の受け取りを要望したのです。

ここまで書くと,めちゃくちゃ感動的なストーリーなんですが,ただ,首尾よく話は進みません。

なんと,息子さんは,預金の受け取りを拒否したのです。

というのも,どうやら,この女性,息子が成長した後,何度か息子さんと会っているようで,それを息子さんは迷惑に思っていたようなのです。

こんなこと書くと,親不孝者みたいに思えますが,そう断定することもできません。

息子さんの父親は,↑の女性と離婚後,再婚して,その再婚相手と家庭を築き,この息子さんも,再婚相手との家庭で大切に育てられてきました。

僕のお客さんである女性は,実母とはいえ,息子さんにとっては,物心がついた頃には既に一緒に暮らしていませんでした。そのため,母親としての記憶は残っていません。

だから,息子さんとしては,実子でもないのに,手塩にかけて育ててくれた再婚相手(義母)との関係が重要だと思っていて,↑の預金を受け取ってしまうと,義母に対する不義理となってしまうと考えておられました。

だから,受け取ることはできないと,息子さんは最終回答されました。

この息子さんの意見も,ごもっともです。尊重するべきと思いました。

ただ,受け取ることはできないとしても,出金などの手続きができるのは名義人である息子さんだけなので,消滅する前に預金の引出しなどに協力してもらえないか,ともお願いしましたが,そういった協力も,義母に対する不義理と考えておられたので,協力を得ることができませんでした。

つまり,名義人である息子さんに受け取ってもらうことも,預金を引き出すこともできず,消滅を待つしかない状況まで追い込まれてしまったのです。

この局面で,何をしたのかというと,銀行相手に訴訟を提起したのです。

「預金払戻請求」の訴訟です。名義人ではないけれども,その預金は自分のモノだから,全額払い戻してくれ!という訴訟を提起しました。

この,「名義人ではないけれども,払い戻してくれ」という請求が,法的に成り立つのか。提起した訴訟の結末はどうなったのか。

明日説明したいと思います。

それではまた明日!・・・↓

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