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#440 弁護士の仕事は同時並行?:今この瞬間にできる仕事は1つだけ

【 自己紹介 】

※いつも読んでくださっている方は【今日のトピック】まで読み飛ばしてください。

弁護士古田博大の個人ブログ(毎日ブログ)へようこそ。プロフィールページはこちら

このブログでは,現在弁護士5年目の僕が,弁護士業に必要不可欠な経験と実績を密度高く蓄積するため,日々の業務で積んだ研鑽を毎日文章化して振り返っています。

日々の業務経験がトピックになっているとはいえ,法律のプロではない方々にわかりやすく伝わるよう,心がけています。スラスラと読み進められるよう,わかりやすくシンプルな内容でお届けしております。肩の力を抜いてご覧くださると嬉しいです。

ご覧になっている皆様のお顔も名前も残念ながら知ることができませんが,アクセスしてくださり,ありがとうございます。本当に励みになっています。

【 今日のトピック:同時に2つの仕事はできない 】

今日は,弁護士の仕事についてお話したいと思います。

弁護士の仕事は「同時並行」と言われることが多いです。

「同時並行」と言ってくるのは,経験年数の多い弁護士たちの場合がほとんどです。

まだまだ5年目の弁護士としては,答案も縦書きで,「タイプライター」で判決書が書かれていたような時代の司法試験に合格した先輩弁護士たちに,今の時代もエラそうに口出しされると癪にさわりますが,まあ,弁護士の業界も,ご多分に漏れず,経験年数の多い人が偉いです。

※言葉遣いが悪くてすみません。上の世代に噛みつきたいお年頃だと,温かい目でご覧くださると嬉しいです。

ただ,弁護士の業界は,少なくとも,経験年数が「正義」ではありません。

もちろん,経験年数が上の方には敬語を使いますし,特に,僕らの業界は,司法修習期によって先輩後輩がはっきりしているので,敬語・タメ口は比較的厳格なほうだと思います。

(ちなみに,僕は69期なので,68期より司法修習期が早い弁護士に対しては,年下だろうと敬語を使います。69期以降の弁護士に対しては,年上であっても,タメ口でいいことになっています。本当にタメ口を使うかどうかは別ですが)

しかし,どれだけ司法修習期が上でも,それだけで裁判に勝てるわけではありません。

裁判において,司法修習期は無意味です。裁判官も,いちいち,その事件の弁護士の司法修習期なんて調べていません。ネットで検索すれば,司法修習期なんてすぐにわかりますが,そんなことをしているヒマは裁判官にはありません。

だから,経験年数は,「正義」になりようがありません。

じゃあ何が「正義」かというと,「結果」です。

まあ,あらゆる業界において,本来,「結果」が正義じゃなきゃいけないのでしょうけど,実際問題,「結果」よりも「経験年数」が正義になってしまっている業界もたくさんあると思います。

ただ,弁護士業界は,勝ち負けで結果が如実に出て,それに伴って,お客さんからの評価や,収入が大きく左右されるので(負けると報酬は貰えません),「結果」が正義で,経験年数は「正義」になりようがありません。

これは,この業界の良いところだと思います。そして,そのことを,経験年数の多い弁護士たちも熟知しているのも,良いなあと思います。

おそらく,経験を積めば積むほど,結果の大切さが身にしみるからだと思います。

そういった業界で,何十年も仕事をしていれば,経験年数を振りかざすことが無意味であることに自然と気がつくのでしょう。

僕は単に,振りかざせるだけの経験年数がないので,ポジショントーク的に,「結果が正義」と主張しているというフシもありますが,まあ,結果が大切であることは,ほとんどの弁護士が共通して感じていると思います。

その点,僕は,2019年7月にうつ病を発症し,担当事件をすべて投げ出してしまった,という最悪の結果を残してしまっているので,結果の面で大きく遅れをとっています。

うつ病闘病中に弁護士の仕事が好きなことに気づき,この業界で生き残っていきたいと思いました。だからこそ,生き残りに必要な「結果」を蓄積するべく,日々奮闘しています。

さて,タイトルと関係ない話がだいぶ続きましたが,タイトルについて書いていこうと思います。

弁護士って,慢性的に,何十件もの事件を同時に抱えています。

これ,なぜかというと,単純に,1つの事件がすぐに終わらないからです。

まあ,トントンと終わる事件のみを扱っている弁護士もいるのかもしれませんが,少なくとも,僕は,すぐに(例えば1週間とか1か月)で終わる事件に出会ったことは,ほぼありません。

いちどだけ,2週間で,請求額とほぼ同額(1300万円)を回収できたこともありましたが,そんなの,レア中のレアです。

そもそも,弁護士の仕事は,紛争を取り扱います。「紛争」というのは,相手がいます。

相手には相手の言い分があって,その言い分とお客さんの言い分が違うからこそ,「紛争」になってしまっています。

もっといえば,弁護士のところへやってくる「紛争」は,当事者同士では解決できなかったものです。

当事者同士で解決できるのであれば,わざわざ,相談料5000円を支払ってまで弁護士に相談したり,着手金30万円を支払ってまで弁護士に依頼したりしません。

当事者同士では解決できない,こじれにこじれた紛争を取り扱うのが,弁護士の仕事です。

そして,弁護士に依頼したからといって,早く紛争が解決に進むわけではありません。

ここを勘違いしてほしくありません。

弁護士に依頼したからといって,紛争の相手が,自分の言い分を主張できなくなるわけではありません。こちらが弁護士を依頼した後でも,依頼する前と同じように,言い分をぶつけていいのです。

紛争の相手が,こちらが弁護士に依頼したことで,諦めてくれたら話は早いですが,諦めるかどうかは相手次第です。相手に諦めなきゃいけない法的な義務があるわけではありませんし,僕ら弁護士も,相手から言い分を主張するチャンスを奪うことはできません。

しかも,弁護士に依頼すると,相手が身構えてしまう危険もありますし,相手は相手で弁護士に依頼して,全面戦争となることもあります。

だから,弁護士に依頼したとしても,紛争が早く解決するとは限らないのです。

ただ,大切なのは,僕ら弁護士は,紛争の終わらせ方は知っています。判決なり,審判なり,紛争の態様に合わせて,その紛争を,少なくとも法的な観点から終わらせる方法は知っていて,その「終わった」に向かうためにどうすればいいかも知っています。

だから,弁護士に依頼すれば,少なくとも,法的には紛争は終わります。必ず終わります。

この「終わらせる」という目的で,弁護士に依頼すると,わかりやすいかなあと思います。

例えば離婚であれば,当事者同士で離婚の話し合いができなくても,弁護士に依頼すれば,離婚の調停を申し立てたり,離婚の訴訟を提起したりして,離婚の紛争を終わらせることはできます。

どれだけ時間がかかろうが,紛争は終わります。

(まあ,終わらない紛争もありますけど,終わらせる紛争を必ず終わらせるというのは,かなり大きい弁護士の価値だと僕は思っています)

これが,弁護士の仕事です。紛争を「早く解決する」仕事ではなく,「必ず終わらせる」仕事なんです。

だから,ひとつひとつの紛争が,終わるまでに長引いてしまいます。とても。

相手には相手の,こちらにはこちらの言い分があって,その言い分を,きちんと主張しなきゃいけなくて,それには準備期間が必要ですから,どうしても,時間がかかってしまいます。

そして,弁護士も,仕事でお金を稼ぎ,稼いだお金で生活費をまかないながら生活しなきゃいけないのですが,弁護士がお客さんからお金をもらえるチャンスは,最初に依頼を受けるときと,最後に紛争が終わるときの2回だけです。

最初に貰うお金が「着手金」で,最後に貰うお金が「報酬金」です。

つまり,事件が長引くにもかかわらず,事件が終わるまでは,着手金しか貰えないのです。

そうすると,ビジネスモデルとしては,新しく依頼を受けて着手金を頂きつつ,事件を終わらせて報酬金も頂くことになりますが,その途中の事件を,どうしてもたくさん抱えてしまいます。

事件がいつ終わるかは,神のみぞ知るですし,ある程度報酬金が見込めると思って依頼を受けたとしても,本当に報酬金が貰えるかどうかは,最後までわかりません。

そうすると,新しく依頼を受けて,着手金を頂くことが,ビジネスとしては大切になってきます。

(このビジネスモデルには,僕も疑問を感じています。このビジネスモデルのせいで,弁護士は,慢性的にたくさんの事件を抱えながら忙しく仕事をしなきゃいけなくなっています。ただ,このビジネスモデルに疑問を抱いた弁護士は,これまでたくさんいたはずで,にもかかわらず,今でも,多くの弁護士がこのビジネスモデルに従っていることにも目を向けるべきです。弁護士が,着手金・報酬金以外でマネタイズする方法を真剣に考える必要はありますが,着手金・報酬金が,長い歴史をくぐり抜けてきたことを忘れてはいけないと思います。)

その結果,弁護士は,新しく依頼を受けて着手金を貰い,たくさんの事件を抱えながら,少しずつ事件を終わらせ,報酬金を貰える事件は報酬金を貰う,というのをいつまでも繰り返すことになります。

そうすると,たくさんの事件を,少しずつ少しずつ進めていきますから,冒頭に書いたような,「同時並行」と言われる状態になっていくのです。

たくさんの事件(50件や100件はザラで,ひとりで200件もの事件を抱えている弁護士もいらっしゃるでしょう。僕も,うつ病直前は,3年目にして,重たい事件も含め,40件ほどは抱えていました)を,少しずつ進めていって,少しずつ終わらせるのであれば,「同時並行」という言葉に,何の疑問もないように思えます。

でも,僕は,この言葉に大きな思い違いをしていました。

僕がどうしても主張したいのは,「同時並行」なんてムリだ,ということです。

なぜなら,今この瞬間に扱える事件は,目の前の事件たった1つだけだからです。

「同時並行」なんて書くと,複数の事件をいっぺんに処理しなきゃいけないような気持ちになりますが,決してそうじゃありません。

複数の事件をいっぺんに処理するなんて,ムリです。

これは,科学的に証明されています。いくら,同時に複数のタスクを処理しているように見えている人でも(当の本人も,そう思い込んでいたとしても),同時に複数のタスクを処理することはできないことが,科学的な調査で判明しています。

だとすれば,ちょっと日本の司法試験に合格して,弁護士として何年か働いているような,「ふつう」の人間に,「同時並行」なんてできるわけありません。不可能です。

「同時並行」って,複数のタスクをいっぺんに処理することとはまるで違います。

「同時並行」といっても,結局は,目の前の,たった1つの事件を処理しているだけです。それを積み重ねていたら,結局は,「同時並行」に見えているだけです。

目の前の事件に集中し,限られた時間で,クオリティの高い書面を作成する。それを繰り返しているだけです。「いっぺんに複数」なんて誰もやっていません。

目の前の,たった1つの事件に集中して,クオリティをキープする。それが,弁護士の仕事であり,それがキープできないほどたくさんの事件を抱えてしまったら,それは業務過多です。

僕の場合,時間が足りないからといって,夜遅くまで働いても,翌日の調子は崩すし,あげくに病気になったりしてしまうので,働ける時間は,9時~18時の9時間に限られています。僕はもう,1日マックス9時間しか働けないのです。

この限られた時間で,高いクオリティを出せる事件数しか,僕は抱えられないのです。

もちろん,事件管理を効率化したり,より迅速に高いクオリティを発揮できる実力をつけるなど,努力は必要ですが,とはいえ,目の前のたった1つの事件に集中して取り組む姿勢は変わらないはずです。

科学的に,「いっぺんに複数のタスクを処理する」のが不可能なんですから(笑)

幸運にも,僕は,生きていくのに,そんなにお金がたくさん必要ではないので(高価な衣食住は必要ありませんし,趣味は図書館で借りた本を読むことです。高価な衣食住が必要な人を否定しているわけありません。そういった人たちは,豊かな生活を送るためにお金が必要ですが,僕はそんな人たちと違って,高価な衣食住がなくても豊かな生活を送れるだけです。優劣はありません),自分が高いクオリティを発揮できるだけの事件数だけ抱えながら,目の前のたった1つの事件に集中して取り組んでいこうと思います。

【 まとめ 】

今日は,同業の弁護士の皆様に向けたメッセージのようになりました。

「同時並行」という言葉に,惑わされてほしくありません。「同時並行」なんてムリです。

目の前の,たった1つの事件に集中しましょう。それをひたすら繰り返せばいいです。僕は自分にそう言い聞かせています。

処理スピードなんて,簡単には早くなりません。目の前の事件に集中して取り組んでいたら,自然と身につくのでしょう。

それか,たくさん稼ぎたいと思っている人は,「稼ぎたい」という欲求が,処理スピードを会得させてくれるのかもしれません。稼ぐためには,処理スピードが必要ですからね。

僕は,「稼ぎたい」という欲求がないので,処理スピードは一生会得できないかもしれません(笑)。

目の前の,たった1つの事件に集中しながら,これからも,少しずつ事件を進めていきたいと思います。

それではまた明日!・・・↓

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